a piece of Love 後編






…数日後。

「えへへ、また沢山パンをもらっちゃったぁ!」

バイトを終わらせた織姫は、夜道を家へと急いでいた。
街灯も疎らなその道では、星明かりが一層輝いて見える。

「…星も綺麗で、何だかいいこといっぱい…あれ?」

織姫が空を仰げば、そこにいたのは。

「あ、朽木さん!」
「おお、井上ではないか!」

ルキアはふわり死覇装をなびかせ織姫の元へ舞い降りた。

「今日はどうしたの?お仕事?」
「いや、たった今、さ迷っていた霊を魂葬したのだが、それはついででな。今日は井上に用事があって空座に来たのだ。」
「私に…?」

嬉しそうにそう言うルキアに、織姫はきょとんとして小首を傾げる。

「うむ。しかし、井上一人でこのような夜道を歩くとは、些か無用心だな。一護が心配するぞ。」
「え、ええっ?そ、そんなことは…。そうだ、朽木さん、黒崎くんのところへはもう行った?きっと黒崎くんも会いたがって…。」

その織姫の言葉を、ルキアが短く遮る。

「いや、一護のところへは恋次が行った。まぁ、多少心配なこともあるが…私は井上に会いたかったのだ。」
「…恋次くんが?」
益々状況が飲み込めず、織姫は首を捻る。

「…?よく解らないけど…。あ、でも折角だから、うちに寄って行きませんか?」
「おお!それはいいな。久しぶりに井上とゆっくり話したいと思っていたのだ。」

立ち話を切り上げた織姫は、ルキアを自分のアパートへと招いたのだった。



「…はい、朽木さん!あ、パンもいっぱいあるから、遠慮しないで沢山食べてね!」
「うむ、有り難くいただくぞ。」

織姫に差し出された紅茶を一口啜ると、ルキアは早速懐から白い小さな包みを取り出す。

「今日は、これを井上に渡しに来たのだ。」
「…え?これ…。」

それを受け取った織姫がかさりと包み紙をほどけば、中から現れたのは高級そうな櫛だった。

「く、朽木さん?」
「それは、この間夏祭りに誘ってもらい、土産に鯛焼きまでもらった礼だ。」

おろおろしながら手の中の櫛とルキアの顔を交互に見る織姫に、ルキアは笑ってみせる。

「そ、そんなお礼だなんて…!」

慌てて櫛を返そうと差し出す織姫の手を、ルキアは自分の手を軽く添えて押し戻した。

「いいのだ、受け取ってくれ。井上の様な髪が長くて綺麗な女性にこそ相応しいものだろう?」
「でも…私、何も特別なことしてないよ!」
「そんなことはない。」

ルキアは静かな笑みを湛え横に首を振る。

「こうして私の友でいてくれる、それだけで私には『特別』なのだ。それにこれは兄様のお気持ちでもある。」
「び、白哉さんの…?」
「兄様も、私に友と呼べる存在が出来たことを喜んで下さっているのだ。そして、友は大切にしろ…と。」

織姫は僅かに頬を染め、ルキアの言葉に素直に喜び微笑んだ。

しかしそれと同時に、ちくりと織姫の胸が痛む。
こんな風に自分を「友」と呼んでくれるルキアを、心のどこかで羨望や嫉妬の対象として見てしまう自分に、織姫は笑顔の裏で泣きたい気持ちになった。

「…ありがとう、朽木さん。私なんか、取り柄も何もないのに…。朽木さんみたいに強くもないし、いつも役に立てなくて…。」

ルキアに申し訳ないという気持ちから自分を卑下する織姫に、ルキアは再び首を振る。

「そんなことはない。井上には井上にしかない、余りある魅力がある。私は井上と『一緒にいたい』と思う。だから、一緒にいる…それだけだ。」
「朽木さん…。」
「井上は、私が強いから友になったか?役に立つから一緒にいるのか?」
「ち、違うよ!」

からかう様にそう言うルキアに、織姫は力一杯首を降って否定した。
ルキアは満足そうに頷く。

「…ならいい。だから井上も、一緒にいたいと思う相手がいるなら、まずその気持ちを大切にしろ。その方が一護も…。」

そこまで言いかけて、ルキアは自分の手で慌てて口を塞いだ。

「朽木さん?」
「…っと、余り言い過ぎない約束だったな…。」

ルキアの一人言にきょとんとして織姫が小首を傾げた、その時。

「…あ!」

南の方角に虚の気配と、そこに向かって夜空を駆けていく二つの霊圧を感じた。

「朽木さん、虚だ…!」
「…そのようだな。」

窓に駆け寄った織姫はルキアを振り返ったが、ルキアは平然としてパンをかじり始める。

「あの、えっと…。」
「よい。恋次と一護が行った。あの二人なら大概の虚は勝ち目がない。」
「そ、そうだけど…。」

戸惑いながらもルキアの向かいに再び腰を下ろす織姫に、ルキアはにっこりと余裕の笑みを見せる。

「井上、このパンは美味しいな。虚は二人に任せてもう少し話そうではないか。」
「…う、うん…。」

ルキアが差し出すパンを受け取り、織姫は眉尻を下げながらそれにかぶりついた。



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