a piece of Love 後編






…貴方を想う気持ちは、ジグソーパズルに似ている。

嬉しい気持ち、悲しい気持ち、数え切れないほどのいろんなピースが集まって出来ている、この気持ち。

…いつか、このパズルが完成する日は、来ますか…?



《a piece of Love・後編》



「…あ。」

織姫はノートに落としていた視線をふと上げ、授業をしている教師の声を遮断するように静かに目を閉じる。

(…黒崎くん、今、いった…。)

一護の霊圧が、織姫のはるか頭上から空へと更に舞い上がったのを感じる。

(多分、身体は屋上かな…。)

窓にちらりと視線を向ければ、外は快晴。
織姫は授業終了のチャイムが鳴ると同時に席を立ち、周りに気付かれないようそっと屋上へ向かった。




「…やっぱり。」

屋上へと来た織姫は、ちょうどその入り口から正反対の壁に座ったまま眠る様にして身体を預けている一護を見つけた。
織姫はその横にぺたりと腰を下ろし、他の誰にも見つかっていないことに安堵する。

しかし、一護が身体を抜け出した頃には日陰だったのであろうこの場所も、太陽が高く昇ったこの時間には日が当たるようになっていて。
「黒崎くん、日焼けしちゃうよ。」

初夏の太陽の陽射しにキラキラと透けるオレンジ色を眩しく感じながら、織姫はどうしたものかと思案した。
日陰まで一護の身体を移動したいが、アスファルトの上を引きずる訳にはいかないし、当然彼の身体を持ち上げるだけの腕力も自分にはない。

織姫は仕方なく身体を移動し、一護の身体に自分の影を重ねる。

「これで…ちょっとは違うかな…。」

織姫は一護の無防備に眠る顔を覗き込みながら、そう呟いた。



死神代行に復帰した一護は、高三だというのに虚退治に忙しい。
それでも、織姫は文系、一護は理系クラスで、高一の頃のように勉強を教えるというフォローの仕方も、今の織姫には難しくなっていて。

恋次の言った「自分らしく」という言葉を、織姫は「自分に出来ることを精一杯すること」と捉え、努力しようと決めた。
…しかし、考えれば考えるほど、彼の為に出来ることの少なさに気付いてしまう。

「…ごめんね、こんなことしか出来なくて…。」

一護の為に何も出来ない癖に、それでも、少しでもいいからこうして彼の傍にいたくて…。
織姫はひどく自分が身勝手に思えて、罪悪感から静かに目を伏せた。


「…井上?」

虚退治から戻った一護は、自分の身体に寄り添う様に座っている織姫を見つけた。

「…もう、授業始まってんじゃねぇかよ。サボりやがって…。」

そう口にしながら、一護は心がふわふわと温かくなるのを感じる。
しかも織姫は、じりじりと一護の身体に接近していた。

「何してんだ?」

無意識に霊圧を押し殺し、一護はそっと織姫と自分の身体に近づく。
一護の身体をじっと見ている織姫は頭上に一護が戻ってきていることに気付かず、一人言を呟いた。

「…まだかなぁ、黒崎くん。でもこのままじゃ、熱射病になっちゃうし…。」

その言葉に、織姫の意図を理解した一護が目を見開く。

どんどん高くなる陽射し。
当然織姫の影も短くなっていき、相当至近距離まで近付かなくては一護を自分の影に収めることが難しくなっていて。

(つーか、コイツここでずっと影を作る為に盾になってたのか…?!)

「…てか、これじゃあオマエが直射日光に晒されてんじゃねぇか!」
「き、きゃああっ!」

考えるより先に身体に戻った一護が突然がばりと起き上がったので、織姫は驚きの声を上げる。

「び、びっくりした~。お、お帰りなさい、黒崎くん。」
「びっくりしたのはこっちだっつーの!…ったく、井上はいつもそうやって他人の事ばっか大事にして…。」

一護の大きな手が、織姫の後頭部に回る。
触れれば、長い間日光に晒されていた髪は相当な熱を持っていた。

「ほら見ろ、めちゃくちゃ熱いじゃねぇか!オマエの方が日射病になっちまうだろ!」
「く、黒崎くん…!」

一護の無意識の行動に、織姫が頬を染め戸惑った様な表情を見せる。
一護は自分のしていることに漸く気が付き、ばっと手を引っ込めた。

「…あ、ワリィ…。」
「う、ううん、心配してくれてありがとう…。」

照れたようにそっぽを向く一護に、織姫は胸がきゅん…と高鳴るのを感じた。

ぶっきらぼうだけど、一護は優しい。
だから、こうしてまた一つ、「好き」という気持ちが増えてしまう。

…そして、いつまでもこの想いを断ち切れないまま…。

「…井上、大丈夫か?ぼーっとして…まさか本当に太陽にやられたか?」
「…え?あ!いえいえ、この織姫、太陽とはお友達ですから!全然平気ですぞ!」

目の前でひらひらと振られる一護の手にはっとした織姫は、慌てて笑顔を繕った。





.
1/13ページ
スキ