a piece of Love 前編





「井上!恋次!無事か?」
「…あ!黒崎くん、朽木さん!」
「そっちも魂葬、ご苦労様だったな。」

程なく、織姫と恋次の元に、一護とルキアが合流した。

とりあえず織姫が無事らしいことに安堵したものの、一護の目に映った織姫と恋次はまるで寄り添って立っているかの様で、それが一護をひどく不快にさせる。

「まったく、離れすぎだってんだ。」
「…ごめんね、黒崎くん。」

心配からそう言う一護だったが、織姫は一護の声に苛立ちの色を感じ、叱られた子供の様に小さくなって俯く。

「…別に、怒ってねぇから。怪我とかしてないか?」
「あ、うん!大丈夫だよ、恋次くんがいてくれたから、ね!」

ぱっと顔を上げて織姫が恋次を見ると、恋次もまたニッと笑って答える。

「…まあ、井上に何かあっちゃ、一護とルキアに俺が殺されるからな。」
「恋次も無傷か?珍しいな。」

感心したようにそう言うルキア。

「井上のフォローがよかったんだよ。な?」
「いえいえ、そんな!」

頬を染めて照れた様に謙遜する織姫と、それを温かい目で見守る恋次。

一護は胸の奥で、何かがチリリ…と焼ける様な痛みを感じた。自分が心の何処かで思い描いていた、織姫との関係、距離感、空気。
それを現実に手にしているのが自分ではなく恋次であることに、一護は焦りに似た感情を覚えていた。

「…さて、私達はそろそろ戻るとするか!」
「え、もう?」

突然のルキアの発言に、織姫が驚いて声を上げる。

「もう十分『祭り』とやらは堪能したし、あまり長く任務を離れるのもまずいのでな。」
「まぁ、そうだな。後は二人でゆっくり楽しめよ。」

激励の思いを込め恋次が意味ありげな視線を織姫に投げ掛けるが、織姫はそれに気付かず、何かをキョロキョロと探している。

「…どうした?井上。」
「…あ、あった!」

織姫は先程まで恋次の義骸が寝ていた辺りに駆け寄り、そこに置いてあった紙袋を手に取る。

「よかった!鯛焼き、無事です!」

がさがさと中身を確認すると、今度は恋次に駆け寄りその紙袋を差し出した。

「はい、お土産!」

にっこりと笑う織姫に、恋次は躊躇いながらもそれを受け取った。

「有り難いけど…いいのか?確か井上、ほとんど食ってねぇだろ。半分ぐらい、井上が持っていけば…。」
「いいの。それはお礼だから。」

鯛焼きを半分差し出そうとする恋次に、織姫はふるふるっと首を振る。

「お礼…?」
「うん。さっき、虚から守ってもらったお礼。あとね…。」

そこまで言うと、織姫は精一杯の背伸びをし、一護とルキアには聞こえない様、恋次の耳元でそっと囁いた。

「…励ましてくれたのが、嬉しかったから。恋次くんのお蔭でね、ちょっとだけ気持ちが楽になったよ。」

驚いた様に目を丸くして自分を見下ろす恋次に、織姫は綺麗な笑顔を見せる。

「…だからその鯛焼きが、ありがとう、の気持ちです。」
「…そっか。じゃあ、遠慮なくいただくとするかな。」

ニカッと笑って、紙袋を抱える恋次。

しかし、そんな二人のやり取りを少し離れた所で見ていた一護は、気が付けば痛みが走るほど拳を握り締めていた。

一護の中の焦りが、次第にどろりとした不安と嫉妬に変わっていく。

…恋次は、仲間だ。
そして彼が誰より大切に想っているのは、黒髪の幼なじみ。
…解っている筈だ。それなのに、この感情は…。

ぐっと握りしめた一護の拳が僅かに震える。
しかしそれに気付かない織姫は今度はくるりとルキアを振り返った。

「朽木さんも、今日は来てくれてありがとう。また遊びに来てね。」
「うむ。今日は井上とあまり話せなかったしな。また、女同士ゆっくり話をしに来るとしよう。」
「絶対だよ。きっと、黒崎くんも待ってるから…。」

恋次はそう言う織姫の瞳が若干揺れたのを感じる。
しかしルキアはそれに対して何も答えなかったので、恋次も口を挟むことを止めた。

「…じゃあ、またな!一護、井上。」
「うん、鯛焼き二人で食べてね!」
「ありがとう井上、有り難くいただく。」
「…またな。」

そう互いに別れを告げて、一護と織姫は浦原商店へと向かうルキアと恋次を見送ったのだった。

…お互いに、言い様のない複雑な想いを抱えながら…。







.
5/6ページ
スキ