a piece of Love 前編






「な、また虚か…?!」
「祭りだの神社だの、虚が好きそうな条件ではあるけどな…!」

斬月に手をかけ、直ぐ様その場に駆け付けようとする一護。
しかし、ルキアがその腕をぐっと掴み、一護の動きを制する。

「何だよ、ルキア!何で止めるんだよ!」
「霊圧からして、大した虚ではない!恋次と井上二人一緒にいるなら大丈夫だ!まずは義骸に戻るのが先だ!」
「俺は井上をもう戦いに巻き込みたくねぇんだよ!井上は俺が護る!」
「一護!恋次がいる!井上は絶対に大丈夫だ!信じてやれ!」

ルキアのその言葉に、一護の身体がぴくりと反応した。

「…恋次と井上も、私と一護を信頼した。だからここへ来なかったのだ。一護も、もっと二人を信じろ。井上だって、それを願っている筈だ。」

ルキアの述べる正論を理解しながら、それでも悔しさを滲ませる一護に、ルキアは静かに、しかし威厳を持って語りかける。

「…井上を自分の手で護りたいのは解る。けれど、今は恋次に任せればいい。井上もあれで、芯は強いからな。大丈夫だ。」

己の掴んでいる一護の腕から力が抜けたのを確認し、ルキアはゆっくりと手を離した。
「…身体に戻るぞ、一護。義骸が見つかって騒ぎになれば、その方が厄介だ。」
「…くそっ…!解ったよ。」

一護はぎりっ…と奥歯を鳴らしたが、ルキアに従い己の身体へ戻ったのだった。






「突っ込むぞ!井上、フォロー頼むぜ!」
「うん!任せて!…三天結盾!」

義骸を織姫に任せ、恋次は死神姿になると空へと舞い上がった。
それと同時に織姫もまた、六花を解放する。

多方向から次々と伸びてくる虚の刃に怯みもせず、正面から切り込む恋次。

恋次の義骸を守りつつ織姫が空へと手をかざせば、恋次の死角から襲いかかろうとする虚の刃がキイ…ンと音を立て次々と弾かれる。

その隙に虚を射程圏内へと収めた恋次の刀は虚の本体目掛けて振り下ろされた。

「行け、蛇尾丸!」

星が輝く群青色の空に、一筋の目映い光が走る。
それと同時にガアァァ…ッという叫び声が辺りに響き、天へと還っていく虚。

辺りが何事もなかったように静かになり、魂葬が完了したことを確認すると、恋次は義骸へと戻った。

「恋次くん、大丈夫?怪我してない?」

むくりと起き上がった恋次の顔を、織姫が膝をついて覗き込む。

「おう。井上のフォロー、完璧。」「…よかった。まさか本当に真っ正面から突っ込むなんて、ちょっとびっくりしちゃったよ。」

ほっとしたように笑顔を見せる織姫に、恋次もまたニッと笑って見せた。

「俺は回りくどいのは嫌いなんでな。まぁ、そんでいつもルキアに怒られるんだけどな。」
「そりゃ、誰だって大事な人には怪我してほしくないもの。」

恋次はパンパンと身体についた土や草を払いながら立ち上がると、同じように立ち上がった織姫をじっと見た。

「…なぁに?」

きょとんとして小首を可愛らしく傾げる織姫に、恋次はニカッと笑う。

「…今のままで、いいんじゃねぇの?」
「…え?」
「一護に対しても、今みたいにすればいいんじゃねぇかってこと!俺ほどじゃねぇけど、あいつも結構無鉄砲なとこあるしな。」

恋次の言葉に、織姫は一瞬目を見開いたが、直ぐにゆるゆると視線を逸らせた。

「でも…。」
「それに男は単純だからな、戦い終わった後に心配してもらって、『無事でよかった』ってにっこり笑ってもらえりゃ、そんで結構満足するもんなんだぜ。…まして井上みたいな美人なら効果百倍だ。」
「び、美人だなんてそんな!」
真っ赤な顔で両手を振ってあわあわと否定する織姫に、恋次はゲラゲラと笑って見せる。

「本当に井上は謙虚だよなぁ。ついでに御人好しだし。一護が過保護になるのも解らないでもないけどな。」
「???」

恋次の言葉の意味がよく解らず、再び小首を傾げる織姫の頭を、恋次のがっしりとした手がぽんぽんと叩いた。

「…ま、とりあえず頑張れよ、井上。一護は好きでもねぇヤツと義理でつるんだりしない。…少なくとも、転ばないようにって手を出すぐらいには、井上が大事なんだからよ。」
「…見てたの?」
「あんまり難しいことは考えず、井上は井上らしくいればいいさ。」
「…恋次くん…。」

『自分らしく』などという曖昧でありきたりな言葉がなぜかその時の織姫の心には心地よく、ことり…と音を立てて落ちてきた。
織姫の表情がふわりと明るくなる。

「…ありがとう、恋次くん。ふふ、何だか頼りになるお兄ちゃんみたいだね。」
「…いつもルキアや隊長に怒られてばっかりだから、そういう感想は新鮮だな。」

はにかんだ様に笑う織姫。
漸く彼女らしい笑顔が戻ってきたことに内心安堵しながら、恋次もまた照れ臭そうに笑顔を返したのだった。







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