a piece of Love 後編






「…2分、経っちまったな。」
「…う、うん…。」

そう言いながらも、織姫に覆い被さったまま離れようとしない一護。

織姫も暫くは離れがたくて真っ赤な顔のまま一護の腕に収まっていたが、深呼吸を1つすると彼の背中に回していた手をゆっくりとほどいた。

「もう帰らないと、遊子ちゃん達が心配するから…。」
「…あと1分。」
「でも…。」
「遅くなった分、走って帰るから。」

駄々をこねる子供の様な一護に、織姫はこのまま流されてしまいたい気持ちと、彼を家に帰さなければと思う気持ちの間で揺れる。


…しかし。

「…いつまで井上にくっついているのだ、一護。」

突然耳に飛び込んできた見知った声に、一護も織姫もがばりと跳ね起きた。

慌てて振り返り窓を見れば、そこには。

「な…ル、ルキア!」
「れ、恋次くん!」

呆れた様な顔のルキアと、ニヤニヤと意味深に笑う恋次がいた。

「…久しぶりだな、二人共元気そうで何よりだ。」
「…一護は元気の方向性がちょっと違う気もするけどな。」
「な…う、うるせぇ!」

胡座をかき気まずそうにバリバリと頭をかく一護と、その横でちょこんと小さくなって俯く織姫。その向かいに、ルキアと恋次もまたどっかりと腰を下ろした。

「い、いつからいたの…?全然気が付かなかった…。」

ぽそぽそと呟く織姫に、ルキアはにっこりと「いい笑顔」を作って見せる。

「うむ、こちらに来たついでに井上に会っていこうと思ったら、一護と井上の霊圧が重なる程に近いことに気が付いてな。もしかしたらと思って霊圧は断って近づいたのだ。」
「ルキア…お前…最悪だな。」
「いや、邪魔しちゃ悪いっていう俺達の心使いだろ。有り難く思え。」
「思うか!」

噛み付く様にそう言う一護をさらりと受け流し、ルキアと恋次は真剣な面持ちで織姫に語りかける。

「しかしな、井上。いかに相手が一護でも、嫌なことは嫌だときちんと言うのだぞ。でないと、一護はどんどん図に乗るからな。」
「おう、井上はぽやっとしてるとこがあるからな。気が付いたら一護に食われてた…なんてことがないように気を付けろよ。」
「…食われ??何を??」
「井上に余計なこと吹き込むな!つーか、井上の嫌がることなんかしねぇよ!」

ルキアと恋次からまるで発情期かの様な扱いをされムキになる一護のその言葉を、ルキアがすかさず拾った。

「…本当だな?」
「…あ?」
「本当に、井上の嫌がることや悲しむことはしないのだな?井上をちゃんと大切にすると、約束出来るのだな?」

ルキアの真っ直ぐな眼差しに一瞬目を見開いた一護の表情が、直ぐ様真剣なそれに変わる。

「…おう。でなきゃ、井上と一緒にいる資格なんかねぇだろ。」
「…ならいい。井上は私の大切な友人だからな。」

ふっ…と小さく笑って、ルキアが織姫に目をやれば、一護を見上げる織姫の瞳が僅かに潤んでいるのが解った。

「どうだかな。お前、くっつくまでは散々面倒くさかった癖に、井上とくっついた途端、手が早いんだもんよ。」
「…恋次、お前、今せっかく綺麗にまとまったところだったのに、水を差す様なこと言うな!」
「く、黒崎くん。私は十分嬉しかったよ?それに、もう帰らなくちゃ本当に遅くなっちゃう…。」

今にも喧嘩を始めそうな勢いの一護と恋次を、織姫がおろおろしながらも制止する。
結局、一護は心配する織姫に送り出され、ルキア達より一足先にアパートを後にしたのだった。




「…あ、遅くなっちゃったけど、飲み物淹れるね。」

一護の姿が見えなくなるまで見送った後、飲み物を出そうとキッチンへ向かう織姫に、ルキアは首を横に振った。
「いや…いい。もう今日は遅いしな。」
「でも、せっかく来てくれたのに…。」
「今日は、幸せそうな井上が見られただけで十分だ。あの後、二人がどうなっているか気になっていたのでな。まだぐずぐずしていたのなら、一護に一発喝を入れてやろうと思っていたのだが…杞憂に終わって良かった。」
「朽木さん…。」

嬉しそうに笑うルキアの横で、恋次もまた頷く。

「全くだ。お前らが両想いなのが見え見えだっただけに、随分イライラさせられたけどな。けど…良かったな。」

片目を瞑ってにっと笑う恋次に、織姫は頬を染めながらもふわりと笑った。

「うん…ありがとう。」

その本当に綺麗な笑顔に、ルキアも恋次も織姫が心の底から幸せなのだということを確信する。

「では、また来るとしよう。次は二人の馴れ初めをゆっくりと聞かせてくれ。」
「うん!じゃあ、朽木さんと恋次くんの話も聞かせてね!」

織姫にとっては特に深い意味はなく、さらりと言った言葉。
が、ルキアと恋次は同時にぼんっと赤くなった。

「べ、別に私達には何も話すことなど…!」
「お、おお?!何にもねぇぞ、本当に!」
「…ほえ??」





(2013.06.26)
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