a piece of Love 後編







《a piece of Love・~エピローグ~》


「…よっ…と。到着。」

ふわり、織姫を抱えた死神姿の一護が、織姫のアパートに舞い降りる。

「ありがとう、黒崎くん。瞬歩って、本当にあっという間だね。」

虚退治を終え、織姫のアパートに戻った一護と織姫。
一護は織姫の部屋に残してあった自分の身体に戻ると、大きく伸びをした。

「…ったく、こっちはテスト週間で必死だって言うのに、虚のヤツは容赦ねぇよなあ。」

死神代行も、身体に戻ればただの高校生。
一護は虚退治で遅れている勉強を挽回すべく、織姫のアパートで連日テスト勉強に励んでいた。

「赤点取ったら、誰が責任取ってくれるんだか。」
「あはは、大丈夫だよ、黒崎くんは『やるときはやるこ』ですから!」

コーヒーを淹れた織姫がカップをテーブルに置きながら一護を励ます。

「…それで、英語の途中だったんだっけ。」
「ああ、そういやそうだったな…。」

テーブルには、虚退治に行く前に広げていた問題集。
一護はコーヒーを一口飲むと渋々それを手に取った。

「…で、井上センセ。早速だけど、何でこの問3の答えは『イ』になるんだ?」
「あ、それはですね…。」

以前、織姫に借りた英語の問題集が今度のテスト範囲なのだが、なにぶん借りた時には提出できるよう形を整えることで精一杯だった一護。

いざテストとなって改めて問題に向き合えば、なぜ答えがそうなるのか、解らないところが山積みだった。

「…という訳で、答えは消去法で『イ』しかないのですよ。」
「ああ、成る程な…。」

織姫の説明に納得し、次の問題を睨み始める一護にくすりと笑うと、織姫もまた自分のテスト勉強を始めた。

いつもなら、憂鬱な気分で黙々とノートや問題集に向かうだけのテスト勉強。

けれど、今は一護が隣にいて、時には一護に必要とされて。
虚退治にも、一緒に行ける。

織姫にとって、こんなに幸せなテスト週間は初めてだった。


…そして、もう1つ。


「あ…やべ、もうこんな時間か…。」

一護の呟きに織姫が時計に目を向ければ、針は9時10分前を差している。
一護は織姫の迷惑にならぬよう、また妹達も心配するためいつも9時に帰ることにしていた。

「あっという間だね…。」
「だな。」

そう短く相槌を打った一護は、すかさず織姫の身体を抱き寄せる。

「…く、黒崎くん…。」

真っ赤な顔の織姫が、一護の腕の中に収まる。
織姫は、一護の温もりを確かめる様にゆっくりとその広い背中に腕を回した。


テスト週間だから、一緒にいてもすることはあくまでも勉強。

けれど、両想いになったばかりの二人がそれだけで満足出来る訳がなく。
勉強をしっかり頑張ったら、一護が帰る前の10分だけはこうして思い切りくっつこう…というのが、二人で作ったルールだった。

「…黒崎くんと一緒に勉強してるとね、幸せすぎて時間があっという間に過ぎちゃうの。」
「…それは俺も同じだな。」
「でもね、この10分が過ぎるのはもっとずっと早く感じちゃう…。」
「それも、同じだ。」

一護のその言葉に、織姫は一護の肩に埋めていた顔を上げる。

「…本当に?」
「…嘘ついたってしょうがねぇだろ。」

一護はそう言うとそっぽを向いてしまったが、織姫は一護が自分と同じ気持ちでいてくれるということが嬉しくて仕方がなかった。

「えへへ…幸せ。」

無邪気にすりすりとすり寄ってくる織姫に、一護は内心焦りながらも平静を装う。

織姫は、多分解っていない…と一護は思った。
自分がどれだけ織姫を欲していて、触れたくて、けれどその感情を必死で押さえ付けているか、を。
柄にもなく真剣に勉強して見せるのも、すべてこの10分の為だ…ということを。

「…井上。」
「はい?…んっ…。」

名を呼ばれて顔を上げた織姫の唇が、一護のそれに塞がれた。

途端に身体を固くし、ぴくんっと反応する織姫。
それは身体も心も、まだ一護とのキスに慣れていない証拠。

それでも角度を変えては幾度も繰り返されるその行為に、織姫は一護の背中にしがみつきながら必死に追い付こうとしていた。

「…は、はぁっ。く、くろさ…。」
「…あと2分しかねぇから。」
「んんっ…!」

僅かに唇が解放されたかと思えば、織姫の身体は緩やかに床に押し倒され、酸素を十分に取り入れる間も与えられず再び一護に唇を塞がれる。

静まりかえった部屋に、時折織姫の漏らす甘い吐息が微かに響いて。

残り2分、一護からの名残を惜しむようなキスを、織姫はひたすらに受け続けたのだった…。





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