a piece of Love 後編






「…お腹すいたねぇ。」
「俺も、腹減った。」

織姫のアパートまでの帰り道。
そんなことを呟きながら、二人で月明かりの下を歩く。

空腹を訴えながら、それでもお互い穏やかに微笑んでいられるのは、それ以上に気持ちが満ち足りているから。

「…あのさ、井上。」
「うん、なぁに?」

織姫が右上にある一護の顔を見上げる。
けれど、一護は呼び掛けた癖にそっぽを向いていて。
小首を傾げる織姫と視線を合わせないまま、一護は言葉を続けた。

「俺さ…白状すると、井上が好きなのは恋次なんじゃないかって思ってたんだ。」
「え…えええっ?!な、何でそうなるの?」

驚きで目を真ん丸くする織姫が夜道であまりに大きな声を上げたので、一護は慌てて織姫の口を手で塞ぐ。

「ばっ…!声でけぇよ!」
「…ご、ごめんなさい…。」

織姫が落ち着いたのを確認し、一護はそっと手を織姫の口から離した。

「…で、でも何で…?」
「何でって…あの祭りの時、何かすげぇいい雰囲気だったからさ…。内緒話したり、嬉しそうに笑ったりしてて…もしかしたら、って思ったんだよ。」

少し気まずそうに頭をバリバリとかく一護。
「そ、それは壮大な誤解ですな…。」
「壮大…って、オマエだって俺とルキアの仲を勝手に誤解してたんだろ。」
「そ、それはそうだけど…。」

織姫は自分が一護とルキアの仲を誤解していたことは棚に上げ、一護がそんな目で自分を見ていたことを知り、ただ驚くしかなかった。

「…あれはね、黒崎くんのことでうじうじ悩んでる私を、恋次くんが励ましてくれたの。だから、ありがとうって伝えただけだよ。」

そう言ってくすりと笑う織姫に、一護は黙って頷き、夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げた。

…今となってはただの勘違い。
それでも一護は恋次に、織姫はルキアに嫉妬し、悩んで。
散々すれ違ったり、強がったりもした。

けれど、多分それはお互いに必要な時間だったのだろう。
沢山迷って、傷付きもした。だからこそ、こうして大事な答えを見つけられた様な気がするから…。

「オマエ、あの時俺を無視して恋次と二人でどっかいっちまうし…正直、嫌われてんのかと思った。」
「き、嫌うなんてそんな!地球が逆立ちしても有り得ません!」
「…地球の逆立ちって何だよ。」

ぷっと小さく吹き出した後、一護は織姫の肩をそっと抱き寄せる。
「…じゃあ、これからはずっと信じてていいか?」

一護が耳元で囁くその低く甘い声に、織姫は身体中がかあぁっと熱くなるのを感じた。

「…うん…。私も…黒崎くんを信じるね…。」

そう織姫が言い終わると同時に、一護の顔がゆっくりと近付いて来る。
織姫は今日の経験で、漸く唇が触れ合う前に一護の意図に気付ける様になった。
慌てて目を閉じ、一護に身体を委ねる。

「…ん…っ。」

そうして織姫は、今日4回目で、やっと目を閉じてキスをすることに成功したのだった。






「…か、帰るか。」
「う、うん…。」

他に誰もいない夜道とはいえ、道路でキスしてしまったことに今更の様に恥ずかしくなった二人は、お互い目を合わせないまま歩き出した。

織姫が火照った身体をどう鎮めようかと思案していると、右手にふっと一護の左手が当たる感覚を覚える。

ぴょこんっと跳び上がって隣を見れば、やはり明後日の方向を見たまま、照れ臭そうに織姫の手を握る一護が視界に入った。

月明かりの中、一護の耳が赤く見えるのは気のせいだろうか…と織姫はくすぐったく思いながら、そっと一護の大きな手を握り返す。
「えへへ…。黒崎くん、ずっと一緒にいさせてね…。」
「…おう。」

いつものようにぶっきらぼうに短く答える一護だったが、織姫には手から伝わってくる確かな温もりだけで十分だった。


…そして、思う。

この恋をジグソーパズルに例えるなら。

1人では決して完成させることのできないパズルだから。

最後の1ピースは、きっと今繋いでいる二人の手の中にある様な気がする。

そして、このピースをはめてパズルが完成したとき、そこには見たこともない景色が広がっていくに違いない…と。

そこに広がる景色はどんなものかは解らないけれど、一護となら大丈夫…そう信じて歩いていこう、と織姫は繋いだ手と空に浮かぶ明るい月に誓った…。
















《あとがき》


終わりました!

前編から通してみると、後編ラストはびっくりするほど甘々ですが…(笑)。
その辺り、不自然に見えたらごめんなさい。
書き手としても悩みましたが、やっぱりうちのサイトは一×織ラブラブが基本なので。
一護さんには、「後から照れるくせに、ちゅーはしたいから取り敢えずしちゃう健全男子高校生」になってもらっちゃいました(笑)。
本当、原作一護とはかけ離れてますが、その辺りはご容赦くださいませ。



さて、ここからはぐだぐだ話です。(本当に読まなくてもいいぐらいの…)

このお話を立ち上げたのは、前編あとがきにも書いたように「きれいな感情」の余りの酷さに(特に前編)、改めて焼き直してみようと思ったのが1つ。

あとは、今連載中の「千年血戦篇」の第1話で、一護と織姫と石田くんとチャドが並んでる絵が自分としては良い意味で衝撃的で。
「わぁ、織姫も立派に戦力扱いされているよ!」とか思ったわけです。

…で、「消失篇」からそこに行きつくまでの二人の葛藤みたいなものを勝手に妄想した、みたいな経緯もあります。
上記のシーン、小学生の頃かなりの戦隊モノ好きだった私には美味しすぎて(笑)。

ヒメはピンクです。
一護はレッドです。
多分石田くんはブルーでチャドはグリーンです。
で、レッドとピンクはラブラブなのです!(笑)

ちなみにピンクは勝ち気な娘より、「何でこんな優しい子戦いに巻き込むねん」みたいな娘が好みでした。
で、それをレッドがほっとけない…みたいな(笑)。

多分、私の一×織の基盤の1つだと思います。

…何の話だ、これ…。


そんな訳で、最後まで読んでいただきありがとうございました!






(2013.06.14)
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