a piece of Love 後編
「…いた…!」
街灯も疎らな公園に駆け付けた二人は、一護の身長の3倍はあろうかという大虚を見つけ、息を飲んだ。
「…黒崎くん、あれ…!」
「…っ!」
間近で大虚を見た織姫が指差す先を見て、一護は思わず舌打ちする。
巨大な大虚の禍々しい4本の腕。
そのうちの2本に、それぞれ小学生ぐらいの子供が既に捕らえられていたのだ。
ぐったりとしたその子達は気を失っているのか、それとも…。
「…俺の身体、頼んだぜ井上!」
「…は、はい!」
青ざめる織姫に己の身体を託し、一護は死神化すると大虚と対峙した。
子供二人を人質に取られた状況で、迂闊な攻撃は許されない。
しかも、大虚にはまだ自由に動く2本の腕が残されている。
「…くそ、やりづれぇっ…!」
一護目掛けて降り下ろされた虚の拳をひらりとかわし、一護は反射的にその腕目掛けて斬月を降り下ろす。
グァアア…ッ!!
虚は腕を斬られた痛みに地響きの起こる様な声を上げ、子供を掴んでいる腕を狂った様に振り回した。
「しまった…!」
一護は子供を助けようと体勢を整え再び斬月を構える。が、子供を掴んだ2本の腕は不規則かつもの凄い速さで動き、残り1本の腕の攻撃をかわしながら一護は狙いを定めあぐねていた。
「くそっ…!どっちのガキから…!」
2本の腕を同時に捉えることは難しく、僅かな迷いから一護の動きに一瞬の遅れが生まれる。
その隙をまるで狙ったかの様に、虚が一人の子供を地面に叩きつけようと腕を振り上げた。
「しまった…!」
「…三天結盾!」
その瞬間、織姫の凛とした声か響き、子供の身体は大虚の拳ごと三角形の光にクッションの様に受け止められた。
「…黒崎くん!今だよ!」
「おう!ナイス、井上!」
それと同時に真一文字に振り払われた一護の斬月が大虚の腕を切り落とす。
大虚から解放された子供の身体はそのまま三天結盾にふわりと包まれた。
ギャアア…ッ!
痛みに天を振り仰ぐ大虚の残りの腕を睨み、一護は直ぐ様飛び立つ。
「…もういっちょ行くぜ、井上!」
「…うん!」
織姫は急いで受け止めた子供に駆け寄り息があることを確認すると、再び一護をフォローすべく大虚を見上げた。
助けるべき目標は一人。
最早一護に迷いはない。
「…行くぜ!」
一護は大虚の数メートル上空に飛び上がると、落下の勢いそのままに大虚がもう一人の子供を掴んでいる腕を切り落とした。
「三天結盾!」
再び現れた光輝く柔らかな盾が、落ちてくる子供を難なく受け止める。
「…よし!」
一護は子供達が織姫によって救出されたのを目の端で確認すると、大虚に向かって一気に突っ込んだ。
「…三天結盾!」
織姫の詠唱と共に、今度は一護を護る様に六花が飛び交う。
一護はその鉄壁かつ柔らかな光の中、狂った様に暴れる大虚に躊躇うことなく向き合い、ゆっくりと斬月を構えた。
「…月牙天衝!!」
一護の叫びと共に、一刀両断される大虚の身体。
ガ…ア…ァ…ッ…!
断末魔の叫びと共に、大虚は光の粒子となり、夜空へと帰っていった。
「…井上!ガキは…?」
「大丈夫、怪我はしてるけど、ちゃんと生きてる!」
自分の身体へと戻り織姫の元に駆け付けた一護は、彼女の横に片膝をついて屈みこんだ。
「…双天帰盾!」
織姫の手が横たわる二人の子供にかざされた。
一護が見守る中、優しい光が子供達を包み、身体中にある痛々しい傷が次々に癒されていく。やがて苦痛に歪んでいた子供達の顔が、穏やかなそれに変わっていった。
「…すげぇな…。」
思わず感嘆の声を漏らす一護に、織姫は安堵した様に微笑む。
「…もう大丈夫だよ…!」
そのあまりに綺麗な笑顔に、一護は一瞬見惚れて言葉を失った。
そして、漸く辿り着いた確信。
ああ、俺が見たかった笑顔はやっぱりここにあったんだ…。
誰よりこの力に、そして笑顔に助けられていたのは自分だったのに。
それを失うことを恐れるあまり、織姫の気持ちを考えもせずただただ彼女を篭へと閉じ込めて…。
「…あ!黒崎くん、目を覚ましそう!」
織姫に制服の裾をちょんと引っ張られ一護がはっとして子供達を見れば、「うーん」と小さく唸りながら、眉根をぴくぴくと動かしている。
一護と織姫は急いで近くの茂みに隠れると、二人の子供が目覚める様子を見守った。
「…あれ?ここ、公園…?僕、何で寝て…。」
「あ!塾の時間、とっくに過ぎてる!ヤバいよ!」
どうやら、大虚の姿は二人の子供には見えていなかったらしい。
辺りに散らばった塾の荷物を慌ててかき集めると、二人の子供は何事もなかったかの様に公園を後にしたのだった。
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