a piece of Love 後編






…数日後。

織姫は授業後、借りていた本を返そうと学校の図書室へと向かった。
そして、一歩図書室へと足を踏み入れた瞬間、織姫の大きな瞳に飛び込んでくるオレンジ色。

「あ、黒崎くん!」

3年になってクラスが別れてしまい、なかなか会えない一護と偶然出会えたことで、織姫の心臓はドキリと跳ねた。
思わず声に出して彼の名を呼べば、問題集と向き合っていた一護の顔が上がりバチっと目が合う。

「…よ、井上。」

一護もまた、ふわりと心が軽く跳ねたのを感じつつ平静を装い軽く手を上げた。

「どうしたの?勉強?」

織姫は一護の傍に駆け寄り彼の前に広げられた問題集や英語の辞書達を眺める。

「いや…俺よく授業を抜け出してるからさ、これ明日提出なのに空いてるページがいっぱいあってよ…。マジでやべぇんだ。」

未だ白いページだらけの問題集をぱらぱらと捲りながらげんなりとしてそう言う一護に、織姫は状況を把握するとにっこりと笑って見せた。

「…私、その問題集もう終わってるよ?」
「な…マジか?!」

その言葉に一護がバッと織姫を見上げる。

「うん。私文系クラスだから英語の進度速いし。多分、今持ってると思うけどな…。」
一護の隣に腰掛け鞄をごそごそと探った織姫は、一護と同じ問題集を取り出した。

「じゃーん!ありました~!」
「…頼む!貸してくれ!」

両手をパンと鳴らして織姫を拝む一護。
織姫はクスクスと笑うと自分の問題集を一護に差し出した。

「よかったら、どうぞ。まずは期限にちゃんと提出物を出さなくちゃ、ね。」
「…悪い!助かる!…あ、でもコレ借りてる間、井上は…?」
「私も今日はバイトお休みだから、勉強していこうかな。あ、もし分からないところがあったら、いつでも聞いてね。」
「サンキュー!本っ当、助かるぜ!」

一護の役に少しでも立てたことが嬉しい織姫と、織姫のお蔭で何とか問題集を終わらせる目処が立ちほっとする一護。

何より、お互い思いがけずこうして一緒にいられることが幸せで。
二人は並んでそれぞれの課題を進めながら、束の間の幸福に浸った…。





「…付き合わせて悪かったな、井上。」
「ううん!全然大丈夫だよ!それに、わざわざ送ってくれなくてもよかったのに…。」

薄暗くなった帰り道、一護と織姫は織姫のアパートへと歩いていた。

「バイトの帰りとか、もっと暗いよ?」
「は?!井上それアブねぇだろ!」

あっけらかんとしている織姫に一護が驚いて言葉を返した、その瞬間。

「…あ…!」

一護も織姫も、バッと西の方角を見つめる。
それと同時にけたたましく鳴る代行証。
ピリッとした緊張感が二人の間を走る。

「…虚だ…!黒崎くん、ここから近いよ!」
「井上は先に帰ってろ!俺は…。」

一護はそこまで言うと、はっとして織姫を見た。
織姫の瞳が一瞬悲しげに揺れる。
そしてそのまま俯いてしまった織姫に、一護は言葉の続きを飲み込んだ。

織姫を、護るのは自分。
それだけは変わらないし、譲れない。
けれど、ただ虚から遠ざけるだけが全てじゃなくて。
…もし、違うカタチがあるとしたら…。

「…一緒に…来るか?」

迷いながら発せられた一護の言葉に、俯いていた織姫の顔がバッと上がった。

「…いいの?私、足手まといになるかもしれないのに…。」

ついて行きたい気持ちと、一護の迷惑になりたくない気持ちの間で揺れる織姫もまた、迷いながらそう問い掛ける。

「井上をそんな風に思ったことは一度もねぇよ。これまでだって、井上にいっぱい助けられた。ただ…アブねぇことに変わりはないだろ。霊圧もかなりデカそうだし。…それでも、行くか?」
その一護の言葉に、織姫は泣きたい気持ちになった。

一護が、自分の力を必要としてくれているなら。
自分の力で、少しでも一護を護ることができるなら。
それ以上に欲しいものなんて、何もない…。

織姫の儚く揺れていた瞳に、穏やかだが確かな光が宿る。

「…大丈夫だよ。自分と黒崎くんの身体ぐらいは、ちゃんと護ってみせるから。だから…。」

一護の真っ直ぐな視線に答える様に、織姫もまた彼の瞳をしっかりと見据えて。
…今までずっと隠し続けていた思いを、ゆっくりと言葉にした。

「…私も、行きたいです…!」

織姫のその凛とした表情に一瞬見とれた後、一護は大きく頷き、確信する。

…やはり、織姫は強い。
勿論何かあれば、織姫を護るのは自分だけれど。
…もっと、彼女を信じてもいい。
それがきっと本当の意味で織姫を大切にすることだと、今なら思えるから…。

「…うし!行くぜ!」

迷いを吹っ切る様に織姫の頭をくしゃりと撫でると、一護は虚がいる方向を見た。

「…うん!」

織姫はこくりと頷き、既に死神代行の顔をしている一護を見上げる。

そして、一護も織姫もそれぞれの覚悟を胸に、虚の元へ走り出したのだった。





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