a piece of Love 後編






「…終わった…かな?」
「その様だな。」

先程から窓の外をちらちらと何度も伺っていた織姫と、何事もないかの様にティータイムを過ごしていたルキア。

しかし虚の霊圧が消えると共に、見知った二人の昂っていた霊圧が次第に収束していくのを感じ、織姫はほっと胸を撫で下ろした。

「二人とも、怪我をしてないといいんだけれど…。」
「大丈夫だ。大した虚でもなかった様だし。ああ見えて頼りになる男だからな。」

2杯目の紅茶を飲み干しそう言うルキア。
その堂々とした姿に、織姫は一護とルキアの信頼関係を目の当たりにした様で、思わず「勝てないな」と小さく一人ごちた。

「…アイツを信じている、それだけだ。まぁ、本人の前では口が裂けても言わないがな。」
「…朽木さんは、やっぱり強いね。私は…。」

そこまで言うと、織姫はスカートの裾をきゅっと握りしめる指先に視線を落とした。

いつも、凛とした真っ直ぐな瞳で悠然と前を見ているルキア。

…それに比べ、自分は。
一護が怪我をしていないか、苦戦していないか心配し、けれど彼が強くなればなるほど、自分が全く必要のない存在になってしまうこともまた恐れて。結局は何も出来ず、ただおどおどしているだけ…。

一護が自分ではなくルキアを選ぶのも仕方のないことだ、と織姫は自嘲し溜め息を漏らした。

「…長い付き合いだからな。色々あったが、今ではこうして言葉にしなくても大事なことは何となく通じる様になったのだ…恋次とは。」

しかし、そこに続いたルキアの台詞に、織姫は驚いて顔を上げきょとんと目を丸くする。

「え?あの…恋次くん?」
「そうだ。私が恋次を誉めるのはそんなに可笑しいか?」
「い、いえ、そうじゃなくて、てっきり黒崎くんのことだとばっかり…!」

不思議そうな顔をするルキアに、織姫は慌ててわたわたと手を振った。

「…それだけ、井上の頭の中は一護で一杯…ということか。」
「え、えええっ?!ち、違います!」

織姫が真っ赤になって否定するが、その態度が何よりの肯定の証。
ルキアはくつくつと笑った。

「…別に、否定することはないであろう?井上に想われて不快に感じる男などいるわけもない。…ただ、な。」

そこまで言うと、ルキアは真剣な眼差しを織姫に向けた。

「私達死神と違って、井上達人間に与えられる時間は少ない。『言わずとも伝わる』…などと呑気に構えている暇はないだろう。井上は本当に謙虚だが、時には声に出さねばならんこともあるぞ。」
「…朽木さん…。」

その言葉に薄茶の瞳を揺らす織姫。
ルキアに再び優雅な笑みが戻る。

「応援しているぞ、井上。しかし、肝心の一護がああヘタレではな。無駄に独占欲が強い癖に…。」
「…???」

ルキアの呟きに織姫が小首を傾げたその時。

「おう、ルキアいるか?」
「あ、恋次くん!」
「無事であったか。魂葬ご苦労だったな。」

窓から現れた恋次が織姫に招かれるより早く部屋に入ると、ルキアの隣にどっかりと腰を下ろした。

「まぁ、あの程度の虚、大したことねぇよ。ただ腹が減った。」

そう言いながら目の前のパンを物欲しげに見る恋次に、織姫はクスクスと笑う。

「沢山あるから、好きなだけ食べて。今、お茶も淹れるからね!」
「おお、悪いな!」

織姫が胡桃色の髪を翻してキッチンへ行くのを見送ると、ルキアは小声で恋次に尋ねた。

「…一護は?」
「…来ねぇみたいだな。アイツ、本当めんどくせぇな。」

恋次ははぁ~っと盛大に溜め息を漏らす。

「…その面倒な男をここへ連れて来るのが、恋次の役目だろうが!」
「そうは言ってもよ…。」

ルキアと恋次がコソコソと小声で言い合っている間に、お茶を用意した織姫がキッチンから戻って来てテーブルにマグカップをことりと置いた。

「はい、恋次くん!どうぞ!」
「お?おおうっ!い、頂くぜ。」

織姫に笑顔で差し出されたそれらを、恋次は慌てて口にする。

暫くはにこにこしながら恋次の見事な食べっぷりを見ていた織姫。
しかし彼が3つ目のパンを食べ終えた時、織姫は思い切った様に口を開いた。

「あの…恋次くん。黒崎くんは、怪我とかしなかった?」
「ぐっ?!あ、ああ…た、多分な。」

恋次は一瞬言葉を詰まらせたが、それはパンのせいと上手く見せ掛け、曖昧な返事を返す。

「…そっか。良かった。やっぱり黒崎くんは強いね。もう、私なんて本当に必要ないぐらい…。」

安堵しながらも何処か寂しそうに笑う織姫に、ルキアと恋次は顔を見合わせる。

「…悪い、井上。」
「え?どうして恋次くんが謝るの?」

やはり引きずってでも一護をここへ連れてくるべきだったか…と、恋次は4つ目のパンを口にしながら今更の様に後悔したのだった。




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