a piece of Love 前編







例えるなら、パズルの欠片。
足りない、最後の1ピース
それを、握っているのは…。



《 a piece of Love 》



「…何で、オマエらがいるんだよ。」

ぽつり、一護が不満気にそう溢す。

「ああ?いいだろ別に。井上が誘ってくれたんだ。アッチにゃあこういうイベントはないからな。」

辺りは大勢の人で賑わっていたが、それでも一護の呟きは隣にいる恋次の耳に届いたらしい。
しかし、言葉を返しながらも、恋次は立ち並ぶ屋台をキョロキョロと見回すのに忙しく、それ以上の言い合いにはならなかった。
そして二人の少し前には、浴衣姿で楽しそうに歩く織姫とルキア。

「おおっ、井上、あれは何だ?」
「チョコバナナだよ、朽木さん。食べる?」

揺れる提灯の灯りの下でキャッキャッとはしゃぐ二人に、一護はそっと溜め息をついた。



…数日前。
一護は織姫に声をかけられ、週末に神社で行われる祭りに行かないかと誘われた。

「まぁ、別に予定はないけど…。」
「じゃあ、約束ね。…あ、これ、みんなには内緒だよ?」

唇に人差し指を当てそう言う織姫に、浮き立つ心を押し隠しつつ一護は素っ気ない素振りで了承した。
去年はたつきや水色達、いつものメンツで賑やかに来ていた夏祭り。
それが、今年は織姫から「みんなには内緒で」との提案。
一護は当然二人きりなのだろう…と内心ひどく期待していたのだ。

しかし、一護が浮き足立ちつつ平静を装って待ち合わせ場所に来てみれば、織姫と一緒に居るルキアと恋次。

「浦原商店で、夜一さんに着せてもらったんだよ!ね、朽木さん!」

そう無邪気に笑う浴衣姿の織姫に一護は何も言葉が返せず。

結局、神社に来てからも織姫はずっとルキアと一緒に歩いていて、一護とはほとんど話をしていなかった。


「…はあ。」
「お前、さっきから暗いなあ。」

のほほんとそう言う恋次に一護はムッとしたが、言葉を返すことすら今の一護には面倒くさい。

そのまま黙って歩いていれば、チョコバナナと綿飴を持った織姫とルキアが駆け寄ってきた。

「黒崎くん、甘いもの好きじゃないかもしれないけど…よかったら一口いかがですか?」

織姫から笑顔で差し出されたそれらに、一護の眉間の皺が一気に緩む。

「…ああ、じゃあせっかくだし、ちょっとだけ貰うよ。」

一護は綿飴を一口サイズに千切るとそれをそのまま口へと運ぶ。
その横で織姫はルキアや恋次と折半したチョコバナナや綿飴を満足そうに頬張っていた。

「やっぱりお祭りは楽しいね、黒崎くん!」
「そんなことより、井上は只でさえ転びやすいんだから、下駄で走るなよ。足元も結構段差が多いし、砂利道だからな。」

相変わらずの口調で織姫に注意を促す一護に、本当は織姫が駆け寄って来てくれて嬉しかった癖に…と、側で聞いていた恋次は思わず小さく吹き出す。

「…ほら、井上は本当に危なっかしいから。」

一護は一瞬迷ったが、僅かに赤くなった顔を隠すようにそっぽを向き、織姫の方にさりげなく手を差し出した。

…しかし。

「大丈夫ですぞ、黒崎くん!…あ、恋次くん!見て、あっちに鯛焼き屋さん発見!」
「え?!おい、井上!俺はまだバナナ食ってる最中だって…!」

一護の手には気付かなかったのか、織姫はくるりと身体の向きを変えると恋次の腕を半ば強引に引っ張り鯛焼き屋へと走っていってしまった。

「……。」

差し出した手を、立ち尽くしたまま黙ってじっと見る一護に、綿飴を頬張っていたルキアがニヤニヤと笑いながら話しかける。
「…一護、せっかく手を出すなら、もう少し分かりやすく出さねば井上には伝わらんぞ。まぁいい、この後、私と恋次は適当に消えてやるから、その後に井上を思う存分口説くがいい。」

そう言ってカラカラと笑うルキア。
しかし、いつもの様にムキになって言い返すこともせずただ俯いている一護に、ルキアは彼の様子がいつもと少し違うことに漸く気が付いた。

「…どうした?」
「…井上には、俺の手がちゃんと見えてた。…けど、取らなかったんだ。」

織姫に触れられることのなかったその手をぎゅっと握りしめ、その場に立ち尽くす一護に、ルキアは困惑する。

「…そう、卑屈になるな。らしくもない。もしかしたらただ照れていたのかもしれん。」

しかし、ルキアの慰めに、一護はゆるゆると横に首を振った。

「そうでもねぇよ。アイツ、最近俺の前だと昔みたいに笑わなくなった…。」

重い溜め息を一つ吐き出し、自嘲気味に笑う一護。
そうしている間にも、立ち尽くす一護と、先を行く織姫達との距離はどんどん開いていく。

そうして、人混みがいつの間にか織姫と恋次の姿をかき消してしまい、ついにルキアは二人を完全に見失ってしまったのだった。





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