ハッピー・クリスマス






「わぁ…!灯りが綺麗だねぇ…!」
「灯りって…別に近所の家のヤツだろ?」

楽しい夕食の団欒を終えて、今は黒崎くんの部屋。

黒崎くんのベッドにぴょんっと飛び乗って、曇った窓ガラスを指先でキュキュッと拭えば、そこに出来た小さな四角から滲んで見えるのは、沢山の家の灯り。

「皆それぞれに、クリスマスを迎えてるんだなぁ…。」

そう呟く私の隣に黒崎くんが腰を下ろしてベッドが少し沈む。

「井上…プレゼントありがとな。」
「いえいえ、こんな素敵なクリスマスが過ごせたんだもん、ちょっとでもお返しになれば幸いです!」




12月初め。
「今年のクリスマスはウチに来ないか」って黒崎くんに誘われて、サンタさんと一緒にソリで空を駆け巡りたいぐらい嬉しくて。

その日から、一生懸命編んだプレゼント達。

黒崎くんにはマフラー。
おじさまには膝掛け。
夏梨ちゃんと遊子ちゃんには編みぐるみ。

夕食後に手渡したら、皆喜んでくれて、それだけで私も本当に嬉しかった。

お兄ちゃんが亡くなってから、ずっと憧れてたの。
大好きな人と食卓を囲んで、プレゼントを渡して、皆で笑顔になる。
そんな温かくて幸せなクリスマス…。





「…井上。」
「なぁに?」

ずっと窓の外を見ていた私が黒崎くんの呼び掛けに振り返れば。

そっぽを向いた黒崎くんが、私の目の前に小さな紙袋を差し出した。

「…これ…プレゼント…。」
「…え?」

思わず、瞬きをして。

「え、ええっ?!私に?!」
「当たり前だろ!クリスマスだぞ、俺だってプレゼントぐらい用意するっての!」

そう言ってバリバリッと頭をかいた黒崎くんは、そのプレゼントをずいっと私に押し付ける様にして手渡してくれた。

「いい…の…?」

照れ臭そうに頷く黒崎くんに、私は袋のリボンをゆっくりとほどいて中身を取り出す。

「…これ…。」

シャラ…という音と共に出てきたそれは、シルバーのペンダント。

「安物で悪いんだけどさ…。それ、自分で好きなモチーフをトップに選んでチェーンに通すってヤツで…。」

私の掌の上、繊細なチェーンの中央で輝く2つのペンダントトップは。


三日月と、アスタリスク…。


「…その、つまりだな…三日月は俺で、アスタリスクは…。」
「…うん…。」

口元を手で覆い、恥ずかしそうに説明してくれる黒崎くんがぼやけて見える。
「い、井上?!」

黒崎くんが私を見て驚いてる。

「な、何で泣いてんだよ?!」
「へ?あ、あれ?」

黒崎くんに言われて頬に触れれば、自分でも気づかないうちに溢れていた涙が指先を濡らす。

「あ…ご、ごめんね?その…嬉しすぎて、胸がいっぱいになっちゃって…!」

慌てて涙を拭いて精一杯の笑顔を見せれば、黒崎くんが安心した様に笑い返してくれた。

「…貸せよ。着けてやるから。」

黒崎くんの大きな手が、ペンダントをそっと取って。
そのまま私の首の後ろに回されて、カチ…という小さな音が響く。

私の胸元に寄り添って収まる、三日月とアスタリスク。

ああ駄目だ、また涙が出そう…なんて思いながらそれを見ていた私の頬に、黒崎くんの手が添えられて。

「…え?」

両頬を包む大きな温もりに視線を上げれば、目の前には黒崎くんの顔。


そして、そのまま唇と唇が触れた…。











「…えへへ、幸せだなぁ…。」

ベッドに並んで腰かけて。
ちらりと隣を見れば、耳まで真っ赤な黒崎くんはずっとそっぽを向いている。

「どうしたの?」
「…や…その…我ながら気障すぎると思って…。」
「そうかなぁ?」
だって、こんなにこんなに幸せなんだよ?

この三日月とアスタリスクみたいに、来年のクリスマスも黒崎くんと一緒にいられたらいいのにな…。

そう願いを込めて、黒崎くんの肩にこつりと頭を乗せてみれば。

「…来年も、来いよ。」

ぼそりと耳元で響く黒崎くんの声に、私は顔を上げた。

「え?」
「来年のクリスマスも、その次のクリスマスも。ずっと、ずっと…一緒にいようぜ。」
「黒…崎くん…。」

声が、震える。
また涙腺が緩んでいくのが自分で分かる。

「…独りぼっちのクリスマスになんて、俺がさせねぇから。」

その言葉に、勝手に動き出す私の身体。

幸せ過ぎて思わず黒崎くんに飛び付けば、黒崎くんは優しく抱き止めて、頭をよしよししてくれた。

「黒崎くんのその言葉が、いちばんのクリスマスプレゼントだよ…!」


嬉しくて、嬉しくて。

ぽろぽろ溢れる涙が止まらない。

ありがとうサンタさん。

これ以上に欲しいものなんて、何もありません…。




一護を一途に想い続けてくれる織姫ちゃんへのプレゼントは、『もう独りぼっちのクリスマスにはしないよっていう約束』




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