ハッピー・クリスマス





12月24日は、クリスマスイブ。


いつも一生懸命頑張っている良い子にはね、サンタさんが素敵なプレゼントをくれるんだよ。


お金では買えない、けれど何より素敵なプレゼントを。





《ハッピー・クリスマス》






ピンポーン。


待ち望んでいたインターホンの音。

一見いつもの仏頂面で、その実さっきまでやたらそわそわしていた一兄がソファから立ち上がった。

「来たか。いのう…」
「織姫ちゃんだ~!」

けれど、ポーカーフェイスを気取って出足の鈍かった一兄を抜かし、遊子が真っ先に玄関に駆けつける。
私も負けずに遊子の後を追った。

「こんばんは~!」

扉を開ければ、寒さに頬を少し赤くした、笑顔の織姫ちゃん。

こんなに可愛い人が一兄の彼女だなんて…きっと一兄は一生分のクリスマスプレゼントを一括して貰ったに違いない。

「いらっしゃい、織姫ちゃん!」
「今日は招待してくれてありがとう!はい、これ!」

バイト先から直接ウチに来てくれたらしい織姫ちゃんは、パンがどっさり入った紙袋を遊子に渡した。

「わぁ、いつもありがとう!」
「よ、井上。」
「黒崎くん、お邪魔します。」
一瞬、一兄と織姫ちゃんが照れくさそうに見つめ合って。

「ささ、織姫ちゃん、上がって上がって!」

けれど鈍感な遊子にあっさり邪魔されて。

「良かったら、一緒に夕食の支度しない?」
「え?いいの?」
「いや、遊子、井上はバイトで疲れてて…。」
「クリスマスって準備から楽しいんだよ!ね、夏梨ちゃん!」
「じゃあ、ちょっと待っててね。支度をするから。」
「あ、おい…!」

織姫ちゃんは一兄の不服そうな顔に気づきもしない遊子に手を引かれて、キッチンに連れて行かれた。
一兄には悪いけど、私も止めない。
だって、3人で夕食の支度をしたいんだもん。






エプロンを着けて長い髪を纏めた織姫ちゃんと、遊子と私。

キッチンで、夕食の支度をする。

「えーと…このヨーグルトはミネストローネのお鍋に入れればいいかな?」
「ち、違うよ織姫ちゃん!そのヨーグルト、タンドリーチキン用だから!」

一兄から聞いていた通り、織姫ちゃんの料理センスには時々びっくりさせられるけれど。

ニコニコ笑う織姫ちゃんと、色んな話をしながら少しずつ夕食を完成させていくのは、やっぱり楽しくて。

学校の話、テレビの話、時々一兄の話…。
ふわふわした織姫ちゃんの笑顔は、どんな話もふわっと受け止めてくれるから。

私、こんなにお喋りだったかな…って、自分で自分に驚いちゃうぐらい、話に花が咲いて止まらない。

「えーと、このグラタンはもうオーブンに入れてもいいのかな?」
「うん!あ、夏梨ちゃん、冷蔵庫からサラダ出して!」
「了解。」

勿論キッチンを取り仕切るのは、当然遊子なんだけど。

…何でかな。

織姫ちゃんのいるキッチンは、まるでパアッと花が咲いたみたいだ。

それに、織姫ちゃんがいるだけで、何だかキッチンがあったかい。

「織姫ちゃん、ミネストローネの味見してくれる?」
「わぁ、いいの?」

遊子に差し出された小皿に、そっと口をつけて。

「…美味しい!」
「本当?!良かったあ!」

嬉しそうに笑う織姫ちゃんと遊子に、何だか私まで嬉しくなって。




…ああ、そっか。

私も遊子も、心のどこかで憧れてたのかもしれない。

織姫ちゃんはお母さんじゃないけれど。
一兄の彼女だけど。

こんな風に、優しくて綺麗な女の人と一緒に、クリスマスを迎える準備をするの、憧れてたんだ…。




「…嬉しいな。こんな素敵なクリスマスが過ごせて…。」
オーブンのグラタンを入れ替える織姫ちゃんが、そう呟いた。

「え?」
「お喋りしながら一緒にお料理して、食事して…こういうの憧れてたの!ありがとう、遊子ちゃん、夏梨ちゃん!」

そう言って振り返る織姫ちゃんの笑顔に、私も遊子もぽっと顔を赤くした。

そうなんだ、織姫ちゃんも一緒なんだ…!

「私達も、織姫ちゃんとお料理できて、とっても嬉しいよ!」
「ごめんね?家族水入らずじゃなくて…。」
「全然オッケーだよ、むしろ大歓迎!ね、夏梨ちゃん!」

そう言って遊子が私をバッと振り返る。

そりゃ、勿論。
…だけど、せっかくのクリスマスだし、ちょっと欲張りになってもいいかな?

「うん…ていうか、別に夕食だけじゃなくていいよ。」
「え?」
「ウチでお風呂入って、そのまま泊まっちゃいなよ、織姫ちゃん!」
「…いいの?」
「それいい!夏梨ちゃん!」


一兄には悪いけどさ。

今日は、いっぱい一緒にいようよ。
それで、沢山お喋りしよう。

ね、織姫ちゃん。


いつも二人で助け合って頑張る夏梨と遊子へのプレゼントは、『大好きな織姫ちゃんにいっぱい甘えられる素敵な時間』



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