夫婦のカタチ






「…あーあ、せっかくの休日だったのによ…。」

…結局。

午後は掃除だの買い物だの、いつもの家事や雑用をこなすだけであっという間に過ぎていき、気がつけばもうすっかり夜。

ベッドに疲れた身体を投げ出しながら愚痴をこぼす俺の横で、織姫は困った様に笑ってみせた。

「…でも良かったよ、ルキアちゃんが実家に帰らずに済んで。」
「喧嘩するほど仲がいいとは言うけどさ…その度に俺達を巻き込みやがって…冗談じゃねぇぜ。」

舌打ちし、そう呟きながらも。
実は、それでも少しだけあの二人に感謝しなくちゃいけないこともあったりして…。

「…なぁ、織姫。」
「なぁに?」

無邪気に小首を傾げる嫁さんをちらりと見て、俺は言葉を続ける。

「今回のことがなかったら、ワイシャツの口紅のことも香水のことも黙ってるつもりだったのか?」

俺のその言葉に、織姫はびくっとして大きな瞳をうろうろとさ迷わせた。

「…うん…多分…。」
「で、浮気だったらどうしようって、ずっとモヤモヤ悩んでたってことか?」
「…そう…かな…。」

そう答えながら身体を丸めて小さくする織姫の頭を、俺はぐしゃぐしゃっと乱暴に撫でた。

「ばぁか!」「わひゃっ!…だ、だって…!」
「それ、本当にお前の悪いところだぜ?!」

「うーっ」と小さく唸って乱れた髪を直す織姫の肩を、俺はグイッと抱き寄せる。

「ルキアと恋次ほど頻繁に喧嘩するのはどうかと思うけどさ。…オマエみたいに衝突するのを避けようとして、そうやって我慢ばっかするのもどうかと思うぜ?」
「…でも…。」
「不安や不満があるなら、ちゃんと俺に話してくれよ。俺達、夫婦だろ?」
「うん…。」

俺にすがる様にこつりと額を俺の胸板に当てて、織姫はゆっくりと頷く。
一瞬垣間見たその瞳は、心なしか潤んでいるように見えた。

「ルキアちゃんと恋次くんみたいに…喧嘩しても一護くんと仲良しでいられるかな。」
「当たり前だっつーの。…まぁ、オマエが争い事嫌いなのは知ってるから、進んで喧嘩しようとは思わないけどさ。けど、思ってること溜め込んでたら、永久に分かり合えないだろ?」
「うん…。」
「そんで、思ってること言い合って、もしぶつかって喧嘩しても…俺はオマエを絶対に手放さねぇから。」
「…一護くん…。」

俺を見上げる織姫の目は少しだけ赤くて。
それでも彼女は、はにかんだ様な笑顔を見せてくれた。
「これからは…ちゃんと言え。喧嘩しないに越したことねぇけど…オマエがそうやって1人で抱え込む方が、俺はずっと辛い。」
「うん…。」
「俺はもうオマエを泣かせない。その為に結婚したんだ。」
「うん…。」
「約束な?」
「…うん…。」

そう言って、指切りの代わりに。
俺と織姫はゆっくりと唇を重ねた…。






「ねぇ…もし、今日あのまま私がルキアちゃんと一緒に白哉さんのところへ行っちゃってたとしたら…迎えに来てくれた?」
「当たり前だろ。命懸けで取り返してやるぜ。」
「えへへ…ありがとう…。」

俺の迷いのない返事に、俺の背中にギュッと腕を回して子犬みたいに甘えてくる織姫。

「じゃあ今度、『実家に帰らせていただきます!』ってやってみようかな。あ…でも私実家がないから…黒崎家に帰るのかな?たつきちゃんの家かな?ルキアちゃんのところでもいいかなぁ…。」
「いや…どれもマジで勘弁してくれ。もしそんなことになってみろ。黒崎家には入れてもらえなくなるだろうし、たつきやルキアにはボッコボコにされるに違いねぇ。」
「あはは。」
「オマエは大事な旦那がボッコボコにされていいのかよ?」
「あはは。それは困りますなぁ。」「困ってねぇだろ、その顔は!」
「わひゃっ!くすぐったいよぅっ!」

嬉しそうにキャッキャと笑う織姫とじゃれあいながら。

…ああ、これが俺達なりの愛情の確かめ方で、深め方なんだろうな…なんて、ちらりと思ってみた。

たまには喧嘩して、怒ったり泣いたりするのもいいかもしれないけど。

…織姫にはやっぱり、笑った顔がいちばんだって思うから…。









「あのさ…織姫。」
「あはは…なぁに?」

沢山遊んで満足した子供みたいな笑顔を見せる織姫。
それに対し、まだまだ満足しちゃいないんだぜ…と意地悪くニヤリと笑って見せる俺。

「…しよっか。」
「あ、うんっ…て、ええっ?き、昨日したばっか…!」
「ルキアと恋次は、しょっちゅう喧嘩して愛情深めてるんだろ?…つーわけで、俺達は俺達の手段で愛情深めようぜ。な?織姫。」
「ふえぇっ…は、恥ずかしいよぅ…。」




…そう、オマエのその心配性には、多分「溺愛」ってぐらいの手段がちょうどいいんだろう?



しょっちゅう喧嘩は俺達らしくないし、勘弁だけどさ。


…「こっち」なら、どれだけでも大歓迎ってことで。









(2013.12.05)
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