夫婦のカタチ





ルキアのその言葉に、今度は俺がソファから飛び上がる様に立ち上がった。

「え、私も…?」

自分を指差しきょとんとしている織姫の両肩にぐっと手をかけ、ルキアは真剣に語りかける。

「そうだ織姫。せっかくだから、『実家に帰らせていただきます!』を二人でやろうではないか!」
「え、でも…。」
「ルキア!テメェ、旅行行くみたいに実家帰りに誘うんじゃねぇよ!」

困惑する織姫を間に挟み睨み合う俺とルキア。
そこに恋次が割って入ってくる。

「まぁ待て。織姫、冷静に考えろ。」

…そ、そうだ。恋次の言う通りだ。別に俺達は喧嘩してねぇし、夫婦として上手くやってるよな…?

「…この一護が旦那なんだ。不満の1つや2つあって当然だろう?」
「はあぁっ?!」

俺がギョッとして恋次の顔を見れば、俺をちらっと見て、気まずそうにニヤッと笑って…。

こ、コイツ…!

恋次テメェ、一人で白哉に頭を下げるのが怖いからって、俺と織姫を巻き込む気満々じゃねぇか…!

更に。

「…そう言えば…。」

今度は織姫の口から、ポロリと信じがたい単語が溢れる。

…そ、『そう言えば』って何だよ?!
上手くいってるって思ってるのは俺だけか?実はオマエには何か不満があるのか?!

ショックと焦りでサアァッと顔から血が引くのが自分でも分かる。

「では織姫、早速荷造りしてくるがよい!必要最低限の物さえあればよいぞ!」
「う、うん…。」

ルキアに促され、俺の横を素通りし寝室へと入っていく嫁さん。

「おい、ちょっと待てよ、織姫っ…!」

何だ、何でこうなるんだ?!

元凶の死神夫婦を思いっきり睨み付けた後、俺は慌てて織姫の後を追った。





「おい、織姫!」

俺の呼び掛けに振り返ることもせず、クローゼットを開け鞄に着替えを詰める嫁さん。

俺は後ろから織姫を抱き締め、その両手を掴んで作業を制止させた。

「織姫!何だよ、何だって急に…!」

俺の必死の問い掛けに、織姫はぴくりと身体を震わせて。

「なぁ…教えてくれよ。そりゃ俺は家事はオマエに任せっきりだし、仕事忙しくて寂しい思いさせてるかもしれねぇけど…。」

織姫の顔を俺がそっと覗けば、瞳には涙が溜まっている。

「…先週…。」
「先週?」

織姫の漏らすか細い声を逃さず拾い、続きを促せば。

「先週の金曜日ね、一護くんのワイシャツに…赤い口紅でキスマークがついてたの…。」
「…は?」「でね、ワイシャツから香水の匂いもしてね…。」
「はぁっ?!」
「やっぱり…浮気?」

そう言い悲しげに俯く織姫。

「な、何バカなこと言って…!」

何だ、その超ベタすぎる浮気の疑い方は!
それに、香水だの口紅だの、俺には全く心当たりがねぇ!

「何と、浮気とはけしからんな一護!」
「全くだぜ。」

その声に今度は俺が後ろをばっと振り返れば、部屋の入口にいるルキアと恋次がうんうんと頷きながら俺達を見ている。

「な…テメェら、いつからそこに?!喧嘩は?!」
「は?もうとっくに終わってるぜ。」
「何いぃっ?!」

しれっとそう言う恋次に、俺は目を見開く。

…そう、コイツらは。
喧嘩ばかりしているだけに、仲直りもこれまた異常に早いのだ…。

「ふ、ふざけんなよ恋次!」

元々テメェらの火種だってのに…!
ついさっきまで、千本桜の刀の錆になるのはオマエの予定だったんだろうが!

くそ、瀞霊廷にこの迷惑夫婦を訴える施設を誰か作ってくれ!

俺は織姫を片手で抱き締めたまま、寝室のドアを蹴飛ばした。
ドアがバタンと閉まるのを確認し、織姫の身体を俺の方に向かせて。
俺は脳ミソフル回転で先週の金曜日のことを思い出す。
「そ…そうだ!先週の金曜は、珍しく帰りが早くてラッシュの電車に乗った!その時、隣だった女の香水がやたらキツくて、我慢しながら乗ってたんだ!」

俺のその言葉に、織姫が潤んだ瞳で俺を見上げる。

「電車…?じゃあ口紅は…?」
「俺は覚えてねぇけど…電車に揺られた拍子にぶつかってついた、とかじゃねぇの?多分…。」
「本当に…?」
「当ったり前だ!浮気なんかするか!」

そう叫んで織姫を抱き寄せれば、彼女は俺の胸板に顔を擦り付けた。

「さぁ一護、ここで決めの台詞だ!『織姫愛してる!お前は俺の太陽だ!』と叫ぶがいい。」
「いやルキア、このヘタレにそりゃ無理ってもんだぜ。」
「…だからテメェらはどっかに消えやがれ!」

いつの間にかドアを開け後ろから再び俺達を観察していたらしい最凶夫婦に、俺の血管はぶちギレ寸前。

畜生、今すぐこの夫婦をロケットに詰め込んで銀河の果てまで飛ばしてやりてぇ…!

「…して織姫、今日の昼食は?」
「…ピザでも取ろうか?」
「それはいい。」
「ウチで昼飯まで食ってくんじゃねぇ!」



…そうして。

迷惑死神夫婦は、何事もなかったかの様にピザを綺麗に平らげ帰っていったのだった…。

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