夫婦のカタチ





…その後も。

嫁さんの「うるうる上目遣い」と「胸押し付け」の必勝コンボに抗えない俺がいて。

彼女のおねだりのまま、今日は夕飯まで作ってしまった…。

「ありがとう!一護くんの作ってくれたご飯、すっごく美味しかったよ!」
「そ…そうか?」
「うん!もう感激です!」

しかも嫁さんの喜び方が半端なくて、まぁいいか…とか思わされてしまう。
いや、そりゃいいんだけどな?タマには俺が作ったって…。

「…で、あのね、一護くん…。」

きれいに空になった皿の並ぶテーブルの前で、俺をじっと見る嫁さん。

…来る、次のおねだりが!

けど、今はソファじゃないから少なくとも「胸押し付け」攻撃は封じられてる訳だし…今度ははねのけてやるぜ!

…そう身構える俺の前で、彼女はごそごそと背中側に手を回し、何かを取り出すと頭にちょこんと乗せた。

それは…。

「猫耳の…カチューシャ?」
「うん。しっぽもあるんだよ。」

そう言って嫁さんは腰の辺りから「ぴろん」としっぽを引っ張り出し、胸の前で両手を添えて主張した。
そして可愛らしく小首を傾げて、小動物みたいな瞳で俺をじっと見つめて。

「一護くん…食器洗ってほしいなぁ…。」
…き、キタネェ…!

しかもゆらゆら揺れるしっぽの向こうには、襟ぐりの大きく空いたカットソーから禁断の谷間が「むにゅっ」て…それも無自覚か?そうなのか?!

「オマエ…そんなもんどこから…!」
「乱菊さんがくれたんだよ。新婚さんはこれ付けるのが普通だって。」

あの人はまた余計な事(つーかむしろ嘘)を…!

いや、目の前の眺めはそりゃ悪くはないですが…とか、おおい!ダメだろ、俺!

…しかし。

「…一護くぅん…お願い…。」
「…し、しょうがねぇ…なぁ…今日だけだぞ?」

ああ、今度は「猫耳としっぽ」プラス「小首傾げ」プラス「胸の谷間」のトリプルコンボに撃沈な俺…。

我が嫁ながら、恐るべし。

「えっ、本当に?!ありがとう一護くん!」

驚きながらも喜ぶ嫁さんを尻目に、俺はテーブルの皿をシンクへと運んだのだった…。







「はぁ…。」

溜め息を1つついて、スポンジに洗剤をブシュッと付ける。

何か俺、関白失脚って感じ?
そういやそんな歌もあったっけなぁ…。

そんなことを考えながらスポンジを泡立てて皿を洗う俺の背中に、「ふにっ」という柔らかい物体の感触と体温。
俺の腹にはちっさい手が回っている。
「…どした?織姫。」
「…やっぱり、私がやる。」
「何で?別にいいぜ、たまには俺が家事やったって。」
「うん…でも…やっぱり私がやる。一護くんが優しいのは嬉しいけど、何だか申し訳なくて…。」

そう言って背中にすりすりっと頬擦りする嫁さんに、俺は思わず吹き出した。

…何だ、俺だって「亭主関白」になんざなりきれないけどさ、オマエだって「かかあ天下」なんか程遠いじゃねぇか…。

「…じゃ、一緒にやるか?」
「うん!」

俺の申し出に嫁さんはそれは嬉しそうに笑って。
狭いシンクに二人並んで、クスクスと笑いながら俺が洗った食器を嫁さんが水で流す。

「本当、お人好しだなオマエ。」
「一護くんだっていっぱい優しいよ?」
「そりゃどうも。」

ああ、これが俺とオマエの夫婦のカタチなんだよな、きっと。

洗剤の泡が綺麗に流されていくのを眺めながら、そんな幸せを改めて思った。







その夜。

「ねぇ…一護くん。」
「何だ?」

ベッドに並んで横になりながら、本日最後の夫婦の団欒。

「実は昨日、ルキアちゃんに『最強の奥様を目指すのだ!』って言われてね。今日は言われた通りにやってみたの…。けど向いてないみたい。」「何だそれ。」
「あの猫耳もね、乱菊さんが『最強の奥様必携グッズよ!』って言ってくれたんだよ。」
「……。」

本っ当に、余計なことばっかり吹き込むな…。

…まぁそれならそれで俺だって有効利用させていただきますけど?

「…あのさ、織姫。」
「うん、なぁに?」

俺がよいしょと上体を起こせば、嫁さんも何事かと身体を起こす。

「…ほれ。」
「ほえっ?!…あ、これさっきの?」

そんな彼女の頭の上に、俺は隠しておいた猫耳をつけてやった。

「…うん、やっぱりそれがあった方がいい感じだな。」
「…な、何が?」

俺の意図が読めず、きょとんとする嫁さんに、俺はニッと笑ってみせる。

「…なぁ、織姫。」
「は、はい?」
「…しよっか。」
「あ、うんっ…て、ええっ?き、昨日したばっか…!」

真っ赤になっておたおたする嫁さんの身体を、くつくつと笑って再びベッドへと沈めて。

「間違いなく最強だぜ?それつけてりゃ。」
「ふえぇっ…は、恥ずかしいよぅ…。」



亭主関白にも、かかあ天下にもなりきれない俺達で十分だけどさ。


…とりあえず、ベッドの中だけは、俺が関白ってことで。





(2013.09.20)
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