恋のたまご




俺の驚きには気付かず、井上はニコニコとして続ける。

「あと2ヶ月だからね、頑張って作らなくちゃと思って。」

に、2ヶ月ぅ?!

驚愕し、思わず凝視する井上のお腹辺り。

…い、いや、落ち着け俺。別に膨らんでねぇぞ?
制服だって普通に着れてるし…。
あ、でも胸は心なしか前より更にデカくなってる気が…。

あれこれ考えながら井上の身体をガン見する俺。

ええい、くそっ!

アレコレ推測したってしょうがねぇ!
全ては、井上に聞けば解ることなんだ!

「…い、井上!」
「は、はい!」

俺は井上の肩をがしっと掴んで、真っ正直から見据えた。

俺が告った時、ぼろくそに泣いた井上。
「ずっと黒崎くんが好きだった」って、しゃくりあげながら打ち明けてくれた井上。

井上が抱えてる悩みは、石田じゃなくてカレシである俺が共有すべきだ。
そして、ただ一つ言えることは。
井上は、絶対に俺を裏切る様なことはしないヤツだってこと。

「…井上、オマエ昨日、石田と公園で話してただろ…?」
「え…。」

井上の顔から、サッと笑顔が消える。

「…話してくれ。石田じゃなくて、俺に。俺は井上の彼氏だろ?共有したいんだ、オマエの悩み。」
俺がそう言えば、井上がゆるゆると俯く。

「…でも…。」
「いいから。頼む、井上。」

井上はゆっくりと顔を上げると、俺をじっと見つめてきた。
俺が覚悟を決めて大きく頷けば、井上は戸惑いがちに唇を動かす。

「あのね、黒崎くん…。」
「おう。」
「家庭科の鈴木先生、もう少しで産休に入っちゃうから寂しいね。」
「…は?」





キーンコーン…





教室に響き渡るチャイム。

俺の予想を遥かに飛び越えた井上の一言に、俺は間抜けな声を漏らした。

「…鈴木…先生…?」

誰だそいつ?

井上の言葉をオウム返しする俺に、井上は縫いかけのにぎにぎをきゅっと握りながら続ける。

「黒崎くんはあんまり接点がないと思うけど、家庭科の先生で手芸部の顧問の鈴木先生、もうすぐで産休なの。それで、石田くんと寂しいね…って…。」

はい?

井上の台詞が耳から脳ミソに流れて行くのに、理解が追い付かない。

呆然として固まる俺を前に、井上が続ける。

「でね、せっかくだから手芸部で何かプレゼントできたらって思って…このにぎにぎはその試作品なの!」
「まさか…。」

そう言う井上の机の上の雑誌が、ひとりでにパタンと閉じる。その見覚えある表紙のタイトルは、俺の予測を確信に変えた。




『たまご○ラブ』




「…それで、オマエ『たまご○ラブ』買ったのか…?」
「うん!ちょうど今月号に『簡単に作れる赤ちゃんのおもちゃ』って特集があってね。どんな贈り物がいいのか検討もつかなかったし、買ってもいいかなって……黒崎くん?」

井上の言葉に、一気に脱力する俺。
井上の肩に手を置いたままがっくりと項垂れる俺を、きょとんとして見つめる井上。

「…良かった…俺は、てっきり…。」
「てっきり…なぁに?」

井上の突っ込みに、俺はハッとして言葉の続きを飲み込んだ。

「な、何でもねぇよ。」
「…でも、悩みってほどでもなかったのに、私のこと心配してくれたんだね。ありがとう、黒崎くん…。」
「お、おう…。」

とんでもない誤解をしてました…とは言えず、歯切れの悪い返事をする俺。

「黒崎くん、鈴木先生の話されても困るだろうし、『たまご○ラブ』にも興味なんてないだろうと思ったから、遠慮してたの。でもこれからは、何でも黒崎くんにお話するね!」

…確かに、鈴木先生の話はされても困る。
『たまご○ラブ』を井上と二人で見るのも、正直こっぱずかしい。
けれど、嬉しそうな井上の笑顔が本当に可愛かったから。

今日は顔も知らない鈴木先生とやらの話を聞いて、『たまご○ラブ』を井上と眺めるのもまぁいいか…なんて思ってしまった。

何より、それを望んだのは俺だから…。








鈴木先生の話を聞きながら、夕暮れの道を歩く。
二人で何気なく入る、昨日の本屋。
井上と店内をぶらぶらと歩いていたら、ふいに制服の裾をくいくいっと引っ張られる感覚。

「…どした?井上。」

俺が振り返れば、井上は真っ赤な顔で俺を上目遣いで見つめていて。

「…黒崎くんと一緒に見るなら…『たまご○ラブ』よりこっちがいいな…って…。」

今にも消えそうな声でそう呟く彼女が大事そうに抱えていた、その雑誌は。








『ゼ○シィ』だった。









「ねぇ見て、黒崎くん!この料理、美味しそう!」
「いや…普通、ドレスとか先に見るんじゃねぇのか?」
「わあっ、ケーキも大きいね、黒崎くん!」
「…にしても、結婚式って金かかるんだな…。俺頑張るな…。」
「え?なぁに?黒崎くん。」
「あ?いや、その…何でもねぇ…。」



恋のたまごがかえる日まで、ゆっくり君と。











《あとがき》



ダブル心ちゃん様から80001打記念にリクエストいただいたお話です!


リクエスト内容は、「織姫ちゃんと石田くんを本屋で見かける一護さん。二人が持っていた本は『ひよこ○ラブ』…そしてテンパる一護さん」でした。

和と同じ、0歳児子育て真っ最中のダブル心ちゃん様ならではのリクエスト、ありがとうございました!(^_^)v

いや本当、「たまご→ひよこ→こっこ」とお世話になりますからね、全国のママは。

…で、お話を考える中で、一織未然形とお付き合い済みのどちらで書こうかなかなか決まらず、この際どっちも書いてしまえ!ってことで、2本立てです。ある意味、新しい試みになりました。

基本的にお話の大きな流れは一緒ということで、文章もところどころコピペで同じものが使ってあります。なので、読み比べが楽しいお話になったかな…と思っています。

あと、今回のお話は伏せ字がいっぱいで、書いていて楽しかったです!(笑)

でも皆様に伝わるかちょっと心配で。
星飛○馬のお姉さん(電柱の影から特訓中の飛○馬をよく見てたんですよ…)は誰も知らないんじゃとか、100人乗っても大丈夫!なイ○バの物置のCMは全国区ですかとか、「たま~ごまごまご♪」っていう「おか○さんといっしょ」の歌とかね…。
もしかしたら風車の○七すらご存知ない方もいらっしゃるかも…ひーっ<<o(>_<)o>>

あ、ちなみに私もさすがに「巨人○星」は現役世代じゃありません…念のため(笑)。


それから、昔、私の友人が大学時代に普通に読み物として「ゼ○シィ」を購入してて、「そうか!別に結婚の予定はなくてもゼ○シィ買っていいんだー!」って目から鱗だったのを覚えていて(笑)、だから今回一織がオチで「ゼ○シィ」買ってもいいよね…って。あはは。一織はいずれ結婚するしねっ(≧ω≦)b!

…それでは、ダブル心ちゃん様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!




(2014.03.23)
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