恋のひよこ
《はじめに》
このお話は、ダブル心ちゃん様からの80001打ニアピンリクエストで、「織姫ちゃんと石田くんの二人を本屋で見かける一護さん。二人が手にしていた本は…」というお話です。
ダブル心ちゃん様からは「一護と織姫はお付き合い済みでも未然形でもどちらでもいいです」とのことでしたので、せっかくならと2パターン書くことにしました。
2つの話は連動しておりませんので、それぞれ独立したお話としてお読みください。
尚、今回のテーマは「一護さんをテンパらせよう!」ですので、一護さんが若干キャラ崩壊気味です(笑)。
その辺りもご承知おきくださいませ。
恋のひよこ
(一→織未然形設定)
恋のたまご
(一織お付き合い済設定)
…とある休日。
暇潰しを兼ねてふらりと足を運んだ本屋。
そこで見かけた二人連れに、俺は目を見開き固まった。
《恋のひよこ》
「あれは…井上と…石田?」
そう呟くと同時に、思わず霊圧を殺す。
胡桃色の髪をふわりと靡かせる井上と、プライベートでも相変わらず白い服に身を包んだ石田が、仲良く本屋へと入っていく。
その後ろ姿に、一気に不機嫌になる俺。
…いや、そりゃ俺と井上は付き合ってる訳じゃねぇから、井上が誰と一緒にいたって文句を言える立場じゃない。
それに、あの二人は真面目だし揃って頭がいい。
きっとちょうどいいレベルの参考書でも探しに来たんだろう…なんて自分に言い聞かせながら、本屋へ入りこっそりと後をつける。
いやいや、後をつけたとかじゃねぇ、俺だって本屋に用事があった訳だし?
…けれど、一人虚しく言い訳をする俺の予想とは裏腹に、井上と石田は受験生御用達の参考書売り場は素通りし、全く違うコーナーの角を曲がった。
…は?
この本屋は長いこと利用しているが、あんな方に用事があったこと、少なくとも俺は一度もねぇぞ?
だって、そっちのコーナーの看板は…。
『婦人・育児』
…おかしくねぇ?
首を傾げつつ、二人がそのコーナーから出てくるのを立ち読みするフリをしながら待つこと5分。
井上と石田は楽しげに話をしながら戻ってきて、手に1冊の本を持ってレジに並ぶ。
その本の表紙をちらりと盗み見た俺は、愕然として持っていた本を危うく落としかけた。
ポップな色使いのその表紙にでかでかと書かれたタイトルは、間違いなく。
『ひよこ○ラブ』
「…な…なにぃっ?!」
そう思わず声を上げて、慌てて自分で自分の口を塞ぎ、本棚の奥へと隠れる。
自分の目を疑った俺はもう一度本棚の影から井上達の様子を覗いた。
俺の叫びには気付かなかったらしく、井上と石田は談笑しながらレジに本を差し出していて。
やっぱりその表紙には、天使みたいな赤ん坊の写真と…
『ひよこ○ラブ』。
…いや、だからオカシイだろ?!
ああ、誰か俺の代わりにアイツらに突っ込んでくれよ!
しかし俺の心の叫びは天には届かず、井上と石田は袋に入れられた本を店員から受け取るといそいそと店を出ていった…。
そのまま井上と石田の後を尾行すれば、二人は公園へ。
ベンチに並んで座り、さっき買ったばかりの「ひよこ○ラブ」を早速広げ始めた。
数メートル離れた木の影から、こっそりと様子を伺う俺。
この際、傍目から見たら星○子(←古い)みたいだとかいう話は横に置いておく。
いや、だけど今の俺よりアイツらの方が明らかに変だろ?!
だってフツー高校生がベンチで仲良く「ひよこ○ラブ」読むか?!
しかも何だってそんな楽しそうに笑ってんだよ、井上!
石田もニヤニヤしやがって…ムカつく!
俺の手が掴んでいる木の枝が、みしり…と音を立てる。
けれど、眉間に皺を寄せてその光景をイライラしながら俺が見ていれば、今度は井上が急に深刻な顔になって、石田と何事かを話し出した。
「……。」
二人が楽しそうに話してる光景はムカつくが、ああして真剣に話し込まれるとそれはそれで急に不安になる。
俺はいてもたってもいられず、踵を返し足早に公園を後にした。
勿論…仲睦まじい二人を見るのが嫌だった…ってのもあるけど。
何て言うか…とにかく身体を動かして、頭の中を整理したかったんだ。
だって俺の脳ミソは、考えたくもないような悪いこと、信じたくないようなあり得ないことで溢れかえっていたから…。
家に戻り、ドスドスと階段を上って自分の部屋に入って、ベッドに飛び込む。
冷静になろうと枕に顔を埋める俺の脳裏でぐるぐると回る音楽は…
「たまご○ラブひよこ○ラブこっこ○~ラブ~♪…ってウルセェよ俺の頭ん中!」
自分で自分に突っ込んで、がばりと起き上がる。
「…井上…。」
無意識に呟くアイツの名前。
胡桃の髪をふわりと揺らし、笑顔で振り返る井上が脳裏に浮かぶ。
そしてその手には「ひよこ○ラブ」…
「…って、だからオカシイだろ!井上は高校生だっての!」
思わず枕を掴んで、バシッと壁に投げつける俺。
そのままずるずると下に落ちていく枕を、俺は眉間に皺を寄せて睨み付けていた。
「……。」
例えば、だ。
井上か石田に歳上の姉貴がいたりして、その姉貴がオメデタで…とかだったら、もう少し俺は穏やかでいられたりしたんだろう。
いや、井上と石田のツーショットは決して見ていて気分のいいもんじゃねぇが、それでも「ああ、姉貴の為に買ったんだな」とか自分を無理矢理にでも納得させられる。
けれど、井上は1人暮らし。
石田にだって姉貴なんがいない(と思う。多分)。
…じゃあ、…何で…?
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