とある男子中学生のフクザツなデート





「はあ…。」


待ち合わせ時間は10時。

待ち合わせ場所は駅の改札。

楽しげに行き交う家族連れやカップルを眺めながら、僕は幾度も溜め息をつく。


だって、今日のデートは…。







《とある男子中学生のフクザツなデート》







「あ、佐藤くーん!」

僕を見つけると同時に弾けるような笑顔でこちらに駆け寄って来る、ツインテールの女の子。

黒崎遊子ちゃん。
僕のガールフレンド。
可愛くて明るくて、しっかり者。料理も裁縫も上手なんだ。

「ごめんね、待たせちゃって。」
「ううん、いいんだ。僕が早く着いちゃっただけで…。」

息を切らせて謝る遊子ちゃんにそう答えれば、彼女の肩越しに見えるオレンジに思わずひきつる僕の笑顔。

「…あ、お、おはようございます…。」
「…おう。」

僕の小声での挨拶に、オレンジの髪の長身の高校生がちろりと僕を見下ろした。

黒崎一護さん。
遊子ちゃんのお兄さんで高校3年生。

遊子ちゃん曰く、「優しくて、かっこよくて、妹思いのお兄ちゃん」なんだそうだ。

…けど、僕にとっては…。

一護さんを嬉しそうに振り返る遊子ちゃんの視線を追って僕もちらりと彼を見れば。遥か上から鋭い目付きでギロリと見下ろされて、僕は慌てて視線を逸らした。

…こ、怖い…!

僕が思わず身体をぶるっと震わせた、その時。

「あ、織姫ちゃんだ!」

嬉しそうな遊子ちゃんの声に顔を上げれば、遠くから走ってくる胡桃色の髪の女の人。

でも、僕がそちらを見ると同時に一護さんが叫ぶ。

「馬鹿、走るな!」
「…っ!」

思わずびくっとして固まる僕をよそに、一護さんは彼女の方に駆け寄っていて。

「ご、ごめんね遅くなっ…きゃあっ!」
「ほら見ろ、言わんこっちゃねぇ…。」

躓いた織姫さんを見事にキャッチしていた。

…すごい反射神経…だけど、あの怒鳴り声とかやっぱり怖い…。

「あ、ありがとう黒崎くん。」
「…おう。」

けれど、無愛想に返事をする一護さんの腕の中で嬉しそうに彼を見上げた後、織姫さんは僕と遊子ちゃんを振り返ってふわりと笑った。

「…あ、遊子ちゃん、佐藤くん、おはよう!」
「おはよう!織姫ちゃん!」
「お、おおおはようございます!」

その笑顔に思わず姿勢を正し、かああっと顔が熱くなるのを感じながら挨拶する。

井上織姫さん。
一護さんの彼女。とっても美人で優しそうで、いかにも歳上のお姉さんって感じで正直ドキドキする。

…本当に、何でこの人が一護さんの彼女なのか、僕にはちょっと解らない…。

「ごめんね、待たせちゃって。早めに家を出たつもりだったんだけど…。でも、みんな早いんだね!待ち合わせ時間、10時15分じゃなかった?」

そう謝りながら言う織姫さんに、僕は思わず小首を傾げる。

「え?待ち合わせ時間って確か10時じゃ…うわっ!」
「…もう行くぜ。ちょうどいい電車があるからよ。」

僕にドンッとぶつかりながら、一護さんがそう言って切符販売機へすたすたと歩き出す。

「…っ!」
「もう、お兄ちゃんたら!ごめんね、佐藤くん。」
「あ…わざとじゃないんだよ、佐藤くん。私達も行こうか、ね。」

声を失う僕に、一護さんの代わりに謝る遊子ちゃんとさりげなくフォローする織姫さん。

…そう、今日はこれからこの4人で。

電車に乗って、市外の水族館へ出かけるのです…。








「今日はありがとう、織姫ちゃん!」
「ううん、私もとっても楽しみだったんだ!」

電車の中、席を向かい合わせにして4人で座る。

僕の隣に遊子ちゃん。
一護さんの隣に織姫さん。
遊子ちゃんと織姫さんは早速お菓子をつまみながら楽しそうにお喋りを始める。

それを横目で眺める僕の向かいには一護さんが座っていて、彼の長い脚がドンッと広がっていて。

…僕は間違ってもその脚に触れないように座席に小さくなって座っていた。

遊子ちゃんから、Wデートのお誘いを受けたのは2週間前。

「一緒に水族館に行きたいな」なんてあの笑顔で言われたら、そりゃあ僕だって嬉しかった。

…けど…。

「はい、黒崎くんもチョコ食べる?」
「…おう。」

相変わらず無愛想なまま、織姫さんからチョコを受け取り口に放り込む一護さん。

Wデート…と聞いて、正直困った。

だって、遊子ちゃんのお兄さんの一護さんは、どこからどう見ても怖いんだ。
でも、そんなこと遊子ちゃんに言える訳ないし…。

「はい、佐藤くんもどうぞ!」
「私のお菓子もあげる!」
「え?あ、ありがとう!」

伏し目がちだった僕がはっとして顔を上げれば、そこには遊子ちゃんと織姫さんの眩しい笑顔。

…この二人が姉妹ですっていう方が、よっぽど納得するんだけど…。

ああ、今日は無事に帰って来られるのかな…そんなことを思いつつ、僕はお菓子をかじった。



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