とある男子中学生のフクザツなデート
その後は、水族館のまだ見ていない残り半分を見て回った。
ペンギンとかカワウソとか可愛かったし、爬虫類コーナーにはワニやトカゲやカエルが沢山いて、遊子ちゃんが「気持ち悪い」って騒いでた。
…けど僕が何より見ていたのは、斜め後ろを歩く一護さんと織姫さん。
並んで歩く二人は、ただ大人っぽいだけじゃなくて、何だかやけに眩しくて。
控え目に繋いだ手から、強い絆を感じた気がして。
僕達はまだ中学生だから、「お付き合い」とか正直よく分からない。
…でも、一護さんと織姫さんは本当にお似合いだなって。
僕と遊子ちゃんも、いつかあんな風になれたらいいなって。
そう思ったんだ…。
「じゃあ、今日はありがとうございました!」
「私もすごく楽しかったよ!またね、佐藤くん!」
Wデートの終わり。
電車を下りて、駅に着いたのは夕方。
オレンジ色の光が差し込む駅の入り口で、僕と織姫さんはそう挨拶を交わした。
遊子ちゃんは一護さんと帰るだろうから、僕と織姫さんはここで解散…そう思っていたから。
…けど。
突然、頭に「ポン」って優しい衝撃。
驚いて隣を見上げたら、そこには一護さんがいて。
「…俺は井上を送ってくから、オマエは遊子を送ってけ。」
…そう言った。
「…え?」
「…さっき、遊子から聞いた。昼間、遊子があの連中に絡まれたとき、身体張って守ってくれたんだってな。」
「…え…!ぼ、僕は何もしてないです…!」
慌てて首を振る僕に、小さく笑う一護さん。
僕の頭に乗った一護さんの大きな手が、じんわり温かい。
「…それでいい。勿論、遊子を置いて逃げる様な奴は論外だけど、辺り構わず殴りかかる様な奴にも遊子は任せたくないからな。…正しいと思うことが言える、行動できる…それだけで今は十分だ。じゃ、帰りは頼んだからな。」
そう言って、一護さんはもう一度ポンって僕の頭を軽く叩いて、「バイバイ」って笑顔で手を振る織姫さんと二人で歩いていった。
「…ねぇ佐藤くん、私達も帰ろうよ!」
小さくなっていく二人の背中を呆然として見つめていた僕は、遊子ちゃんの呼び掛けにはっとした。
「あ、うん。そうだね!家まで送るよ!」
一護さんが僕に遊子ちゃんを任せてくれたんだ…そう考えたら何だかすごく嬉しい。
「そうだよ、家に着くまでがデートなんだよ!」
「…それって遠足みたい。」
そう言って、二人でふふって笑って。
僕と遊子ちゃんは手を繋いで夕暮れの道を歩き出した。
「そうだ、遊子ちゃん。」
「なぁに?」
「ずっと気になってたんだけど…織姫さん、今朝待ち合わせが10時15分って言ってたよね。あれってもしかして…。」
「うん、わざとだよ。」
長く伸びる2つの影を踏みながら歩く僕達。
遊子ちゃんはにっこりと笑ってそう言った。
「本当の待ち合わせ時間は10時。でも織姫ちゃん、あの性格だから待ち合わせ時間よりかなり早く来るんだって。1人で待たせておくとナンパされやすいからって、お兄ちゃんが心配して、ね。」
「そっか。だからあの時…。」
今朝、一護さんが僕にドンとぶつかってきた理由が分かって、僕はすっきりした。
「…ねぇ、遊子ちゃん。前に僕が『どうしてWデートがしたいの?』って聞いたら、遊子ちゃん言ってたよね。『二人だけより遠いところへ行けるし、一護さんと織姫さんのお付き合いが大人っぽくて憧れるから、参考にしたいんだ』って。」
「うん。」
「僕、本当はWデートなんて乗り気じゃなかったんだ。でも、今日Wデートできて良かったよ。僕も一護さんと織姫さんみたいになりたいって、そう思った!」
「本当?良かった!」
「僕…一護さんみたいにカッコよくなれるか分からないけど…頑張るよ。」
「いいよ、私は今のままの佐藤くんが大好きだよ!それにね、お兄ちゃんは絶対にお世辞で人を褒めたりしないの。だからお兄ちゃんも今のままの佐藤くんがいいって思ってるんだよ。」
「そうかな?」
「そうだよ!…ねぇ佐藤くん、またWデートしようよ!次は遊園地とかどう?」
「いいよ!…あ、せっかくなら、次はトリプルデートとかどう?実はさ、夏梨ちゃんと僕の友達の加藤が最近すっごく仲が良いって知ってた?」
「え?!加藤くんって…あのサッカー部の加藤くん?!」
「うん、あの二人部活中いつも一緒だよ!サッカー部じゃ前から噂なんだ。」
「わああっ!夏梨ちゃん、私には何も教えてくれなかったよ!…よーし、次は遊園地でトリプルデートだ~!」
そう、嬉しそうに言って拳をオレンジ色の空へと突き上げる遊子ちゃん。
僕も、楽しみだな。
僕は憧れの二人にまた会える日を思いながら、綺麗な夕焼け空を見上げた。
「へっくし!」
「あれ?黒崎くん、風邪?」
「いや…違うと思うんだけど…何か嫌な予感がする…。」
《あとがき》
はい、「とある~」シリーズ続編です!
「とある男子高校生の~」を書き終えた後、サイトのお客様からのコメントで「Wデートとか楽しそう」といただいたのをきっかけに生まれたお話です。コメント下さった方、今もサイトにいらっしゃってるかどうか分かりませんが、ありがとうございました!(*^_^*)
今回、佐藤くんの目を通しての一織…ということで、佐藤くんが思わず憧れちゃうような二人を目指しました。
織姫については、可愛さと芯の強さ。
絡んできた男二人に毅然として対応する織姫は、原作で言うと消失篇で獅子河原くんと対峙した時のイメージです。実はあのふっと雰囲気が変わる場面、好きなんです。天然な彼女が垣間見せる意外な一面って部分に萌えます(笑)。
一護については、強さと場をわきまえた大人なかっこよさ…ですかね。
織姫のピンチになりふり構わず相手を殴り飛ばすような一護もカッコいいですが、ああいった公共の場で相応しい態度が取れるのも一護のカッコよさかなぁと。彼は頭がいいですしね。
あとは、カップルとして完成しつつある二人…です。これは私の技量不足で上手く書けたかどうか分かりませんが、イメージは「血戦篇」の1・2話あたりです。
「廃棄って言う人にはパンあげませーん」とか、一護が死神化して部屋を出てくのを100%安心して見送る織姫とか、逆に戻ってきた時に「怪我しなかった?」「おう」みたいなやり取りとか…(すいません、単行本手元にないのでうろ覚えです)。
それらがあまりに自然すぎて、君たち夫婦?それ旦那の出勤&帰宅の場面ですか?みたいに一織フィルター全開で見ていた和は(私だけかなぁ…)、今回その雰囲気に近づけたくて書いてみたつもり…です。
そんなわけで、いつもの両片想いやモダモダとはちょっと違うテイストになりましたが、楽しんでいただけたなら幸いです!
この後、例によってオマケに一護Sideをちょろっと書きますので、また読んでくださいね。
それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました!
(2014.01.24)