とある男子中学生のフクザツなデート





「お兄ちゃん!」
「黒崎くん!」

遊子ちゃんと織姫さんが嬉しそうに同時に叫ぶ。

「なっ…何だテメェ!」

突然現れた一護さんに驚く男の声を無視し、一護さんは男の腕を掴んだまま左手で持っていたフライドポテトを織姫さんに手渡す。

「揚げたてだから気を付けろよ、井上。」
「うん。」

一護さんはポテトを渡すついでに織姫さんと男の間に割って入り、相手を睨み付けた。

「カッコつけやがって…!やるのか?!ああ?!」
「…こんな場所でやる訳ねぇだろ、ばーか。」
「けっ!結局は怖いんだろうが!何なら場所を変えたっていいんだぜ?!」

挑発してくる男にあくまでも冷静にそう答えて、一護さんと大柄な男は暫く睨み合っていたけど。

「…い、痛っ…イテェ!」

涼しい顔をしている一護さんに対し、男はそう叫びながら真っ赤な顔で身体を捻り出した。

「は?何言ってんだお前…。」
「バカ…本当にイテェんだって…う、腕が折れる…!」

一護さんに腕を掴まれた男が滅茶苦茶に拳を繰り出したけれど、全部あっさりと避けられて。
男は目を白黒させながら逃れようと必死でもがき出した。

「畜生…離せ、離せよこの野郎!」
「ああ、いいぜ。」
一護さんが掴んでいた腕をパッと離せば、男はもがいていた勢いで後ろのテーブルに勝手に突っ込み派手に転んだ。

「な、テメェよくも!」
「…俺なんかしたか?井上。」
「ううん。離せって言われたから離しただけだよ、黒崎くん。」
「ふざけんなテメェら、ブッ飛ばすぞ!」

そう平然と話す二人にカッとなった「ひょろ男」は、口汚く一護さんを罵ったけど…もう僕にも遊子ちゃんにも、この男が怖いなんて欠片も思えなかった。

ああ、「負け犬の遠吠え」ってこういうのを言うんだな…って。
一護さんと男達の力の差が歴然だってこと、分かってしまったんだ。

「くそっ…馬鹿クセェ、行こうぜ!」

でもそれは多分、本人達が誰より身に染みて解っている筈で。
「ひょろ男」は一護さんに仕掛けることはせず、相方がよろよろと立ち上がると捨て台詞を吐いて二人で逃げていった。

「…ばーか。…んぐっ!」
「はい、黒崎くん。あーんですよ~。黒崎くんのおかげで、アツアツだったポテトが適温になりました~!」
「へ?」

今までの緊張した空気が一変。

隣を見上げれば、織姫さんから口にポテトを突っ込まれた一護さんがむぐむぐとそれを食べ、ゴクリと飲み込んでいた。
「…冷めすぎじゃね?ちょっと時間かけすぎたか。」
「ううん!これぐらいのしんなり感が絶妙なのですよ!」

そう言って笑う織姫さんは、やっぱりほえほえっとした織姫さんで。

そして、周りにいたお客さんに「お騒がせしてすいませんでした」と頭を下げた一護さんは「兄ちゃん、格好よかったぞ!」なんてやいやい囃されて、照れ臭そうに頭をガリガリかいて。
織姫さんはくすくす笑わいながらそれを見ていた。

その後、4人で乱れた椅子やテーブルを直し、何事もなかったかの様に食事をした僕達。

僕はたこ焼きや焼きそばやポテトを口に運びながら、目の前で楽しそうに食事する一護さんと織姫さんを見て、素直に思ったんだ。

格好いいな、素敵だな…って。












…食事の後、遊子ちゃんと一護さんはトイレに行くと言って席を立ち、僕と織姫さん二人だけになった。

「あの…。」
「なぁに?」

小首を傾げる織姫さんに、僕は思い切って本音を打ち明ける。

「僕…一護さんのこと、怖そうだなってずっと思ってたんです。遊子ちゃんや織姫さんが『優しい』って言っても、本当なのかなって、そう思ってて。」
「うん。それで、どうだった?」
「え?」「『怖そうな人』と『怖い人』は違うでしょ?」

織姫さんに促され、僕は言葉を続ける。

「はい…その…『怖い人』とは、ちょっと違った…みたいです…。」

僕がそう言えば、織姫さんは嬉しそうに笑った。

「さっきの人達もね、強そうに見せてるだけで『強い人』じゃなかったでしょ?…結局は自分より弱い相手にだけ牙を向ける『弱い人』だった。」
「…はい。」
「黒崎くんはね、怖そうに見えるかもしれないけど、実は全然『怖い人』じゃないの。ぶっきらぼうだけど、本物の優しさと強さを合わせ持ってるんだ。」

織姫さんはそう力強く言った後、眉間に指を当てて「いつもここにきゅ~って皺を寄せてるけどね」って悪戯っぽく付け足した。

…でも僕は、織姫さんも同じだと思う。
織姫さんも多分、強くて優しい。
一見正反対に見える二人だけど、きっと根っこの部分がどこか似てるんだ。

「だから、織姫さんは一護さんが好きなんですか?」

僕がそう尋ねたら、織姫さんはくりっとした目を更に丸くして、ポンって顔を赤くした。

「…べた惚れです。」

そう言って、ちょっと肩を竦めて。
はにかんで笑う織姫さんは、本当に可愛くて綺麗だった。








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