わたしを温泉に連れてって






《私を温泉に連れてって・おまけ》






「ねぇねぇ、今日はどこに行くの!?」

ガタンゴトンと、のどかな田園風景の中を走る電車。
その座席で、足をぱたぱたとさせながら、目を輝かせた咲織が隣に座る嫁さんを見上げる。

「今日はね、温泉に行くの。お泊まりするのよ。」
「わーい!お泊まりー!ばんざーい!」

にっこりと笑って答える嫁さんに、咲織が両手を上げて万歳をすれば、つられたように真護も俺の膝の上で万歳をした。

「ばんざーい!…まま、おんせんってなに?」
「うふふ、あのね真護、おっきなお風呂があるのよ。プールみたいに大きいの。」
「ぷーる!ぷーる!」
「ママ!咲織、泳いでいい!?」
「あのな、あくまでも温泉は風呂だ。プールじゃねぇって。」

俺にそう釘をさされてしゅんとする子供達に、嫁さんはクスクスと笑った。

「そうね。大浴場は泳いじゃだめだけど…家族風呂なら、ちょっとぐらいはいいかな?家族だけだもの、ね。」
「本当!?ママ!」
「かぞくぶろー!」

再びはしゃぐ子供達。
嫁さんは人差し指を口に当て、「電車の中はもう少し静かに、ね。」と優しくたしなめて。そうして俺に視線を合わせ、幸せそうにふわりと笑った。

「…私もね、すごく楽しみなの。だって家族4人で初めての旅行だし、念願の家族風呂にやっと入れるんだもの。」
「…あ、ああ…。」
「うふふ、家族みんなで背中の流しあいとかしたいなぁ…。」

うっとりしてそう呟きながら、子供達を愛しげに見つめる嫁さんに、一人苦笑する俺。

いや、だから家族風呂は家族じゃなくても入れるんだよ…なんて。

今となってはもうどうでもいい話か、家族になっちまったんだし、な。











「…あ、それ、今日行く旅館のチケット?」
「ああ、これさえあれば、あとは何とでもなるから…な………ってあのスケベクソ親父ぃっ!!」
「わひゃっ!い、一護くん!?」
「「パパ!どーしたの?」」





(2014.07.21)
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