Dear Friends





2.恋次&ルキア











「浦原!今戻ったぞ!」
「ハイ、お帰りなさい。お二人とも式はいかがでしたか?」

一護と井上(もう井上じゃないが)の結婚式から戻った俺とルキア。
浦原商店の入り口では、下駄帽子がいつもの怪しい笑顔で俺達を出迎えた。

「うむ。大変良い式であった!私まで幸せな気持ちにさせてもらったぞ。」

未だ結婚式の余韻に浸っているのか、ルキアの表情はずっと穏やかなまま。
確かに俺もいい式だったと思うが、左手にある花束の記憶がまだ少し苦い。

「それで、お願いしてあったものは?」

絶対に何か企んでいる笑顔でそう尋ねてくる下駄帽子。
ルキアは頷くと鞄を開けて中身を差し出した。

「これだ。一護の友人がデータを焼き増してくれたぞ。」

ルキアが差し出すそれは、どうやら現世における記録媒体らしい。

「そんなもん手に入れて、どうするんだ?」

俺がそう問えば、下駄帽子は扇子を広げてへらりと笑う。

「いやぁ、だって死神の皆さんもあの二人の結婚式を見たいでショ?どうせ、尸魂界で改めて披露宴を開くことになるんでしょうから、その時に上映できればと思いまして。」

さも楽しそうにそう言って、下駄帽子はルキアから受け取ったものを袂にしまった。
「せっかくなら、お二人の出会いから結婚式までを追った、ラブロマンス映画にしましょうか!いやぁ、腕が鳴るっスねぇ…。」

そう呟きながらくつくつと笑って、店の奥へと引っ込んで行く下駄帽子。

「…なぁルキア、『えいが』って何だ?」
「知らぬ。まぁよい、尸魂界での披露宴で解ることだ。」
「だな。」

そうして俺達は1カ月後、尸魂界で行われた二人の披露宴で、浦原喜助監督、黒崎一護・井上織姫主演の2時間に及ぶ「超大作ラブロマンス映画」をポップコーン片手に見ることになる…。











そうして尸魂界に戻った俺達は、無事に一護達の門出を見届けたことを報告する為に、朽木隊長の元へ出向くことにした。

「さ、早く行こう。兄様もきっと良い報告を待っておられる!」
「…ルキア!」

足早に歩き出すルキアを思い切って呼び止めれば、振り返ったルキアは不思議そうに俺を見つめてきた。

「何だ?」

真っ直ぐ俺を見つめてくる大きな紫色の瞳。
俺はそれから逃げる様にそっぽを向くと、左手をずいっとルキアに突き出した。

「…やる。」
「は?」
「だから、やるって言ってるんだよ!」

きょとんとするルキアに、俺は左手、井上から受け取った花束をもう一度突きつける。

「俺は花嫁になる予定はないしな。この花束だって、俺みたいなムサイ野郎よりお前の手元の方が喜ぶだろうしよ。」「恋次…。」
「井上から直接貰った花束と、この花束。2つ揃えば効果も倍増なんじゃねぇの?」
「…恋次…。」
「…待ってろよ。」

そう告げるのが、俺の精一杯。
ルキアが今どんな顔をしてるのかを盛大に気にしながら、それでもそっぽを向いたままルキアの反応を待てば。

かさり…という音と共に、俺の左手から花束がふわりと離れる感覚。

たまらず俺がバッとルキアの方を見れば、ルキアは2つの花束を抱え、穏やかな笑顔を浮かべていた。
…そして。

「…ぶっ!」

その直後にルキアは吹き出し、くつくつと笑い出す。

「な、何だ?何が可笑しいんだよ…。」

予想外の展開に、俺が怪訝な顔でそう尋ねれば。
ルキアは笑いをこらえつつ、悪戯っぽい眼差しで俺をちろりと見上げた。

「…いや、井上から貰った花束2つの力をもってして、私を迎えにくるのがこんな派手な髪と眉毛と刺青の男なのかと思うと…この花束達も、さぞ驚くだろうと思ってな!」
「ああ!?何だとルキア!この俺のキレッキレの眉毛が不満だってのか!?」

そう叫んで俺がルキアから花束を奪おうとすれば、ルキアはひらりとそれをかわし、小走りで走り出した。

「行くぞ恋次!兄様がお待ちだ!」

数歩先で立ち止まり、俺を振り返ってそう叫ぶルキア。

「…ちぇ。」

何だよ、俺の気も知らねぇで…。俺が小さく舌打ちをして、足を出そうとした、その時。

「…待っているぞ。」

…確かに、ルキアがそう呟いたのが聞こえた…。










「兄様、只今現世より戻りました。」
「隊長、失礼します。」
「…うむ、御苦労だったな。…して、黒崎一護と井上織姫の挙式はどうであったか?」
「はい、天候にも恵まれ、素晴らしい式でした。参列者が皆大変温かく二人を見守っていて…私まで幸せな心持ちになりました。」
「そうか。現世での式で、戸惑うことなどはなかったか?」
「え?あ、は、はい…大丈夫…でした隊長…(←嘘)。」
「それで…兄様、ご覧ください!この美しい花束を!」
「ほう。」
「これは、現世では『ぶーけ』と言うそうで…井上が友情の証にと、式の後に私に直接くれたものなのです!」
「そうか。良き友を持ったな。」
「はい!何でも、現世では花嫁から『ぶーけ』を受け取った者が次に嫁ぐという言い伝えがあるそうで…。」
「………何?」
「この花束は、今日の記念に押し花にして永久に残しておきたいと思います!」
「…そうか…。」

…多分、ルキアは気付いちゃいないが。
「ぶーけを受け取った者が次に嫁ぐ」の台詞の瞬間、朽木隊長の眉間にビシッと皺が入ったのを、俺は見逃さなかった。

…なぁルキア。

なるべく待たせない様にするつもりだけど、やっぱり隊長は怖ぇよ…。


(2015.01.10)
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