Dear Friends
《Dear Friends オマケ》
1.一護&織姫
「…2人で幸せな家庭をき、築き上げて…って、悪ぃ!また噛んだ!」
「あはは。落ち着いて、一護くん。」
…結婚式直前。
新郎新婦控え室に案内され、井上と2人司会者から式の流れの説明を受ける。
司会者はその後「待ち時間に練習しておいてくださいね」と「誓いの言葉」が書いてある用紙を俺達に手渡し、部屋を出て行った。
それで、今こうして井上と2人で読み上げる練習をしている訳なんだが。
「…いついかなるてきも…ああっ、また間違えた!」
…何度やり直しても、俺だけが間違える。
大体、誰かと声を揃えて文章を読み上げるなんで、小学校の国語の授業以来なんじゃないだろうか。
「大丈夫だよ、黒崎くん。黒崎くんは本番に強いんだから!」
一方、井上は余裕の笑み。
職業上、教科書の朗読を頻繁にして鍛えられているからだろう。
…それにしても。
「なぁに?」
失敗続きの練習に飽き、ぶっつけ本番に賭けることにした俺は、誓いの言葉の用紙をテーブルに置くと隣に立つ井上をじっと見つめた。
「…いや、綺麗だなって。」
「え、ええっ!?」
いや、ドレスの試着の時に見た井上も、十分に綺麗だったけれど。
今日の井上はプロにメイクを施され、本当に本当に綺麗だった。欲目なんかじゃなく、世界中で彼女が一番綺麗だと、胸を張って言えるほどに。
「ありがとう。でも…黒崎くんも、本当にカッコいいよ。」
はにかんだ様に笑ってそう言う井上に、俺は思わず苦笑する。
「サンキュな。けど、素直に褒めてくれるのは、オマエと家族ぐらいじゃねぇの?俺のタキシード姿なんて、たつき達にも恋次達にも大爆笑されるんじゃねぇかって、マジで不安なんだぜ。」
ウェディングドレス姿の井上の隣に立つ俺は、当然タキシード姿。
けれど、ぶっちゃけこっぱずかしいと言うか…喜びより照れの気持ちの方が未だに大きい。
式の当日だと言うのに、我ながら厄介な性格だよな…なんて、自嘲の笑みを浮かべれば。
「…大丈夫だよ、黒崎くん。」
ふわり…とさながら女神の様な笑顔を井上は浮かべた。
「心配しないで。私の旦那様は、世界中で一番カッコいいんだから。それにね、私達の友達に、結婚式の場で冷やかしたりする様な人は、1人もいない。きっとみんな、祝福してくれるよ。」
穏やかに、けれどきっぱりとそう言い切る井上に、俺は一瞬目を見開いて。
「…そっか。そうだな…こんな日ぐらい、信じてみるか。」
今頃、ガーデンに集まってくれているであろう仲間達の顔を思い浮かべ、俺が頷いて見せれば、井上もまた嬉しそうに頷く。
俺達は、結婚式に人前式のスタイルを選んだ。
教会式は、死神代行の俺には何だかな…って話で。
和風の神前式は、基本的に親族のみで行うことが多いらしく、お互いに家族が欠けている俺達には不向きだった。
…何より。
「楽しい時も苦しい時も、ずっと一緒に頑張ってきた、大切なお友達だもんね。」
「ああ…。」
俺達が結婚の誓いを立てる時、その場にいてほしい…と願ったのは、共に歩き、戦い、支え、見守ってくれた仲間達。
俺も井上も、そこらの高校生とは一味も二味も違う青春を送ったけれど、友人にだけは恵まれた…と、断言できる。
そして、こうして最良の伴侶にも恵まれた訳だから、血を流し涙を流し、痛い思いも辛い思いも沢山したけれど…俺の人生、悪くない。
「…あのさ、井上。」
「うん、なぁに?」
「その…誓いのキスなんだけど…。」
俺は頭をガリガリとかきつつ、挙式にあたりずっと心に引っかかっていたことを切り出す。
「アイツらが見てる前だし…その…デコにする…かも…。」
大勢の視線を一身に浴びながら井上に口づける…ってのが俺にはどうにも耐え難く。
ヘタレ承知で俺が伺うようにそう言えば、俺の面倒な性格を十二分に知っている井上は、笑顔で素直に頷いてくれた。
「うん。黒崎くんにお任せします。」
本当に、こんなお姫様みたいな娘が…しかも性格もめちゃくちゃデキてる娘が、俺の花嫁になるんだよなぁ…なんて幸せを改めて噛みしめて。
せめて二人きりの時ぐらいは、自分の想いに正直な俺でいたい…そう思った。
「…で、その代わりに…さ。」
「うん。」
「今ここで、しようか。…誓いのキス。」
俺がそう告げれば、井上は一瞬驚いたような顔をして。
…けれどすぐに柔らかな笑顔を見せ、頷いた。
「…うん。」
「…で、キスしたら、それでお互い名字で呼ぶのも卒業しようぜ。オマエも『黒崎』になるんだからさ。」
「…うん…頑張る。」
涙目で微笑む井上をからかう様に、頑張らねぇと名前呼べないのかよ…って小声で突っ込めば、井上はクスクスと笑って。
そうして静寂に包まれる、二人きりの部屋。
その片隅で真っ直ぐに向き合い、井上のベールを上げた。
瞳を閉じて上を向く井上の両肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけて。
…触れる、唇と唇。
「…誓うよ。俺は織姫を幸せにする。一緒に、幸せになる。」
「…はい。よろしくお願いします、一護くん。」
綺麗な笑顔でそう言う彼女をそっと抱き寄せて。
言葉もなく、その温もりに静かに浸っていれば、コンコンと係の人が扉をノックする音が部屋に響いた。
「…お時間です。よろしいですか?」
扉を開けてそう言う係の人に、大きく頷いて見せて。
「…さ、行くか!」
「うん!」
俺は彼女の手を取り、力強く握りしめた。
(2015.01.08)