Dear Friends
そう言って微笑む井上の笑顔は咲き誇る華の様に綺麗で、まさに幸運の女神と呼ぶに相応しく。
彼女から受け取ったこの花束には、本当に2人に幸せをもたらす力が備わっているように思えた。
「ち、ちょっと、織姫!アタシはまだそんな結婚とか…!」
「そ、そうだぞ井上!私とてまだまだ…!」
花束を手にし、顔を赤らめながら戸惑い慌てるルキアと有沢に、一護がくつくつと笑う。
「貰ってやってくれよ。コイツからの感謝の気持ちと友情の証だと思ってさ。…まぁ確かに、ルキアやたつきの花嫁姿なんて誰も想像もつかな…」
「「ウルサい!!」」
「ぐっ!…お、お前ら新郎の鳩尾に拳を入れるとか…。」
ルキアと有沢が同時に繰り出した拳に、流石の一護も顔を歪ませる。
そんな一護に、2人は花束を掲げニッと笑って高らかに宣言した。
「いい?一護!アタシの大事な織姫を嫁に貰うのよ?もしアンタが織姫を泣かせたりしたら、こんなんじゃ済まないんだからね!」
「有沢の言う通りだ!井上、何かあれば私に直ぐに知らせるが良い。親友として一護に制裁を加えてやるからな!」
「ありがとう!たつきちゃん、朽木さん!頼りにしてます!」「ちょっと待て、オマエまで何言ってんだよ!泣かせたりしねぇって!」
慌てる一護に、同時に笑い出す井上、ルキア、有沢。
時に、女の友情は最強の死神代行をビビらせるぐらい強ぇんだな…なんて思いながら、俺が何気なく視線を遠くにやれば。
俺の視界に入ってきたのは、窓ガラスの向こう、四角に切り取られた空の青。
その青はガラス越しなのに、何故だかやけに鮮やかで、眩しくて。
どこまでも突き抜ける様なその青に、目を細めた俺は。
「あの空は…どこに繋がってるんだろうな…。」
ふとそんなことを考え、そっと目を伏せた。
尸魂界か。
それとも、常に死と隣り合わせだったあの日々か。
大切な者を護るため、死線を幾度もくぐり抜け、共に戦い抜いた俺達。
そこで多くの血を流し、涙を流し。
失った物も沢山あった。
けれどその後に残されたのが、例えばこんな友情と、友の幸せを己の幸せとして共有できる時間なのだとしたら、それも無駄ではなかったのかもしれない…そう思った。
やがて、最後に記念写真を取ろうと、現世の仲間達が一護と井上の手を取りガーデンへと駆け出した。
そして、早速ドレスの裾に躓いて転びそうになった井上を、一護が咄嗟に受け止めて。
「しょーがねぇな!」と叫びながらそのまま井上を抱き上げて走り出す一護を、友人達が囃し立てている。
「…どうした?恋次。」
その様子を眺めながら柄にもなく感傷に浸る俺に、ルキアが声を掛けてきた。
「…なぁルキア。」
「何だ?」
「あの空は…どこに繋がってるんだろうな。」
俺が再び窓越しの空を見ながらそう尋ねれば。
ルキアは幸せそうに寄り添う一護と井上を見つめた後、俺と同じようにガラス越しの空を見上げて静かに笑った。
「…全てに繋がっているのだ。この現世と私達の尸魂界を繋ぎ、これまで歩んできた過去とこれから歩む未来とを繋いでいる。」
「…ルキア…。」
「死神である私達がこうして現世に出向き、一護と井上の未来への船出を祝福している。…これ以上の証拠がどこにある?」
「…成る程な。」
ルキアの言葉に納得し頷いた俺が顔を上げれば、笑顔で手を振っている井上が俺の目に映った。
「ねぇねぇ、朽木さんと恋次くんも一緒に写真撮ろうよ~!」
「…承知した。今行く!」
井上の呼びかけにそう叫んだルキアは、俺をちらりと見て。
「…行くぞ、恋次。死神と、死神代行と、滅却師と、現世の人間が一枚の写真に収まるのだ。こんな素晴らしい『繋がり』、どこを探しても見つからぬぞ?」
嬉しそうにそう言い、一護達の元へと駆け寄るルキア。
「…確かにな!」
俺はルキアを追う様にガーデンへと足を踏み出して。
穏やかに降り注ぐ午後の日差しに一度立ち止まり、頭上に広がる青空を振り仰いだ。
「…幸せにな、一護、井上。」
大切な親友達に、心からの祝福を。
誰にも聞こえぬよう、こっそりと呟いた俺の祈りが高い空へと吸い込まれていったのを、確かに見届けて。
「恋次、早くせぬか!」
「恋次くん、早く早く~!」
「…おう!今行くぜ!」
俺はどこまでも広がる青い空の下、愛すべき友の待つ先へと走り出した。
《あとがき》
「メインディッシュ」30作品目ということで、ずっと前から書きたかった一織の結婚式を書いてみました!
今回は洋装(お色直しあり)・レストランウエディング・人前式設定であります(*´∀`)。
とは言っても、結婚式から披露宴まで流れを追ってだらだら書くのもなぁ…ってことで、書きたい場面だけかいつまんであります。すみません、悩んだ末に披露宴は割愛しました(笑)。
あと、タイトルが「Dear Friends」でありますように、「友情」もテーマになっています。
一織は、「私達幸せなの~」ってラブラブアピール全開な結婚式よりも、これまで関わってきた人達への感謝が滲み出るような結婚式を挙げそうな気がしたんですよね。
特に織姫は両親がいない分、たつきちゃんやルキアなど友達に対する思いが強いんじゃないかな…と。
そんなところから生まれたお話であります。
あと、今回ちょっと石田→織姫な雰囲気も漂わせてみたんですけど、このお話では過去に一護と石田くんが織姫を取り合いしてて(まぁ結局織姫の気持ちは最初から一護なんで、石田くんは玉砕覚悟だったんですが)、色々あった挙げ句「井上ってホントいい女だよな」「そうだね」とかって2人で織姫の魅力及び彼女への想いを語り合い、最終的に石田くんが一護に織姫を託す…とかだったら萌えるとか勝手に妄想してました(笑)。
今回、恋ルキに石田くんにチャドにたつきちゃん達…と登場人物が多すぎてイマイチさばききれなかった感じはありますし、まとめももう少しすっきりさせたかったなぁ…とは思うのですが(力不足ですみません)、友人達から祝福されて幸せいっぱいな一織の結婚式…そんな妄想を一織スキーな皆様と共有できたなら幸いです。
あと、例によってオマケを後日つける予定ですのでまた読んでやってくださいませ。
それでは、読んでくださってありがとうございました!
最後に皆様一緒に叫びましょう!
「一織結婚しろっ!」
(2014.12.28)