Dear Friends






「みんな、今日は本当にありがとう!人生で一番幸せな日だったよ!」

…式、そして披露宴はつつがなく終了。

披露宴後、会場の出口で漸く持つことが出来た、一護達との談笑の時間。

ほとんどの招待客は既に帰り、この場に残っているのは俺とルキア、石田にチャド、そして一護達の友人3人と、俺達の素性を知っている面子のみ。
俺もやっと周囲の視線を気にせず、一護達と話すことができた。

「井上さん、そのカラードレス姿も美しいっ!まさに妖精!女神!神々しいっ!」
「あ、ありがとう浅野くん。」
「本当に綺麗だよ井上さん。一護のタキシード姿もいいんだけど、井上さんが綺麗すぎて霞んじゃうよね。」
「…ま、いいんだよ、今日はコイツが主役で。」

「お色直し」とやらで水色のドレスに着替え、長い栗色の髪を下ろした井上は、世界中の幸せを独り占めしたかのような笑顔を見せていて。
その隣りにいる一護も一応「お色直し」とやらで着替えたらしい…が。

「一護、どっか変わったか?」
「…恋次、お主は白と灰色の区別もつかぬのか。」
「灰色って…せめてグレーって言い方しようよ、朽木さん。」

俺には全く変化が分からず、ルキアに呆れられた。

「朽木さんも恋次くんも、現世まではるばる来てくれて本当にありがとう!」
「恋次のあのブーケキャッチには心底驚いたけどな。」「…う、ウルセェな一護。現世の結婚式は初めてだったんだ。あの後はずっと上手くやってたんだ、上出来だろ?」

式での失敗を今更蒸し返す一護に、ふてくされつつ俺がそう返せば、すぐ後ろから石田の深い溜め息が聞こえた。

「…よく言うよ。披露宴の時、運ばれてきた料理をいきなり一口で食べきって、『お、これ美味いな。じゃあこれを一人前持ってきてくれよ』って言って周りを唖然とさせた癖に…。僕は恥ずかしくて穴があったら入りたかったよ。」
「ぐ!い、石田もしつこいな!あんなデカい皿の真ん中にちまっと肉が乗ってたら、誰だって味見かと思うじゃねぇか!なぁルキア!」
「いや、そんな勘違いをするのは恋次だけだ。」
「……。」

冷たく俺を突き放すルキアの一言に、ただ憮然とするしかない俺。

「…朽木さんも、司会者が話す一護と井上さんの馴れ初め話の時に突然立ち上がろうとしてさ。尸魂界関係の話が一切ない、あれでは不十分だから文句言いに行くんだって。それを僕と茶渡くんで全力で止めて…。」
「む!何を言うか石田!一護と井上の関係を『高校の同級生』などと一言でまとめられて、不本意ではないか!!一護と井上には、それこそ命を懸けて築き上げた絆が…!」
「いや、ルキア…お前もなぁ…。」

最もなことを言うルキアになぜか苦い顔をする一護。
石田はそんな一護を鋭い眼差しで見つめ、人差し指で眼鏡をくっと押さえつつ続けた。
「…黒崎。そんな訳で、僕はこんなに疲れた結婚式は初めてだ。」
「…石田、こんな日までイヤミな奴だな。」
「だから…僕にこんな思いをさせてまで結婚式を挙げておいて…井上さんを不幸にしたら、承知しないよ。」
「…石田…。」

石田が真っ直ぐにぶつけてくるその言葉を、一護は視線を逸らさずに真正面から受け止めて。
暫く石田と睨み合った後、ゆっくりと頷いた。

「………おう。」

そんな2人のやり取りを黙って見つめていた井上は、俺達に視線を移すとふわりと笑って。

「朽木さんも恋次くんも、本当にありがとう。でも、恋次くんの気持ち解るよ。お料理とっても美味しかったし…私もいっぱい食べちゃったもん。」
「本当にな。出された料理を完食する花嫁なんてめったにいないって、みんな驚いてたぜ。」
「やや、褒められましたか!」
「…そう来たかよ…。」

井上に呆れた様な物言いをしながら、一護の眉間は緩みっぱなし。
出会った頃はひたすら尖っていたコイツが、いつの間にこんな優しい目をする様になったんだろう。

「…あとね、ブーケのことも気にしないで。そのブーケ、実はブーケトス用のブーケなの。」
「…は?」

井上の言っている言葉の意味が分からず首を傾げる俺に、井上はニコニコと続ける。
「ブーケはね、記念に自分が欲しいって花嫁さんも多いんだって。だから、本当に式で使ったブーケは手元に残して、ブーケトス用に別のブーケを用意してもらえるの。」

そう言うと、井上は足元に置いてあった大きな紙袋から2つの花束を取り出した。

「じゃじゃーん!こちらが結婚式で私が持っていた、本物のブーケでーす!」

井上の手には、白を基調にした花束と水色を基調にした花束。
井上が着た白のドレスと水色のドレス、それぞれに合わせたものだろう。

「…そっか。本物がちゃんとあるなら、俺も気が楽だぜ。」

ホッと安堵の溜め息をつく俺の隣、ルキアも納得した様に頷いた。

「…それなら良かった。では、井上はその花束を持って帰るのだな?」
「ううん、違うよ。」

ルキアの言葉に、井上がふるふると首を左右に振る。
ルキアや井上の友人達がきょとんと目を丸くする中、井上は一護をちらりと見上げ。
一護が穏やかな笑顔で頷いたのを確かめると、綺麗な笑顔と共に花束をすっ…と前に差し出した。

「初めから、決めてたの。この2つの花束は、私のいちばん大切な、2人の友達にあげたいって。」
「「…え?」」

井上の視線の先には、ルキアと井上の親友…有沢。
井上はまず、白い花束をルキアの手に渡し。
水色の花束は、有沢の手に渡した。

「私の現世での親友と、尸魂界での親友に、沢山沢山幸せが舞い降りますように!」




.
4/7ページ
スキ