Dear Friends
「「誓いの言葉。…」」
一護と井上が壇上に立ち、声を揃えて誓いの言葉を読み上げる。
照れくさそうな一護と幸せそうな井上の笑顔。
それは普段と何も変わらない、いかにもアイツららしいもので。
それでも、こうしてこの場にいる全員に誓いを立てているのだから、確かに2人は結婚するのだ。
「…つか、アイツらいま幾つだ?」
「26歳だよ。」
「26でもう結婚かよ。俺達が26の頃なんて鼻水垂らしたガキだったぜ、なぁルキア。」
「いや、死神の寿命に合わせたら、現世の人間は誰も結婚できないから。」
「そうそう、これでもあの2人にとっちゃ待った方なんだよ。早く一緒に暮らしたいって言いながら、結局は一護が医大卒業して落ち着くまで待ったんだから。」
「へえ…。」
「一護、早く井上さんに家族を作ってあげたいって言ってたからね。確かに、僕らの周りじゃ結婚一番乗りだけど、本人達は漸く…って感じなんじゃない?」
誓いを読み上げた2人に、参列者から惜しみない拍手が送られる。
結婚式…と聞いた俺はもっと厳かで堅苦しいものを想像していたが、今日のこの式は穏やかで、温かくて、優しくて。
ああ、何となく井上の雰囲気そのものだな…って。
アイツの笑顔が、一護だけじゃなく、この式場全部を幸せにしているんだ…そんな気がした。
「では、この場に立ち会っていただいた皆様の代表として、新郎のお父様にサインをしていただきます。」
そう司会者に言われて出てきたのは、既に涙で顔がぐしゃぐしゃになっている一護の親父。
「…あれ、一護の親父さん、もう泣いてるの?」
「新郎新婦入場の時に既に泣いてたよ。」
「早い…。」
「あ、一護が苦~い顔してる。」
サインをした後、おいおい泣きながら「真咲、見てるか~!」と叫ぶ親父さんに、わなわなと震える一護。
いつもならとっくに蹴りの一発も出ているであろうこの状況で、必死に拳を収める一護を隣の井上がまぁまぁと宥めているのが分かった。
やがて、号泣する親父さんは一護の妹達に強引に連行されて。
次は、指輪の交換。
何でも、現世じゃ結婚の証にお互い左手の薬指に指輪をはめるらしい。
井上はうっとりしながら、一護が自分の薬指に指輪をはめる様子を見つめていて。
一護もまた井上が己の薬指に指輪をはめるのを、穏やかな眼差しで見守っていた。
「…なぁルキア、あれ虚退治の時に無くしたりしねぇのかな。」
「安心しろ恋次。一護の本体に指輪はついているのだから、死神代行時に落とすことはないぞ。」
「…そろそろ黒崎を引退させてあげようって話はないんだね…。」
そんな話を石田としていれば、俺の耳に飛び込んできた司会者の信じられない言葉。
「では、2人に誓いの口付けを…。」
その言葉と同時に、友人達がカメラを持って一護達の傍へ押し寄せる。
「な、誓いの口付け!?」
「こんな大勢の前でそんなことすんのか?」
有り得ない光景に思わずそう叫ぶ俺とルキアに、やはりカメラを手にした一護の友人達はあっけらかんと笑って。
「え?こっちでは普通だよ。」
「てか、一護はヘタレだからおでこぐらいが関の山じゃない?」
ニヤニヤしながらカメラを構える友人達の前、一護は井上の肩に手を置くと、井上の額に軽く唇を押し当てた。
「「ほらやっぱり~!!」」
直後にそう叫んだ友人達を、一護はバツの悪そうな顔でじろりと睨む。
「ま、披露宴でやり直しを要求するか。」
「そうね。」
「よ、容赦ねぇな…。」
ここで式の盛り上がりは最高潮…かと思いきや。
「では、花嫁からのブーケトスです。さぁ皆様…」
司会者のその一言に、会場の女達が「きゃ~っ!」と絶叫し、わらわらと井上の前へと押し掛け始めた。
そいつらの圧倒的パワーに押し流される様に、俺とルキアもその一団に加わる。
「な、何だ?」
「ブーケトスだよ。みんな井上さんが投げる花束が欲しいんだ。」
「へ、へえ…。」
同じく流された石田の解説に頷く俺。
井上はくるりとこちらに背中を見せると、手に持っている花束を投げる姿勢に入る。
「織姫、こっち、こっちに投げて~!!」
両手をかざし、井上に向かって必死に叫ぶ女達。
「要は花を取ればいいんだろ?」
「え?キミ、まさか…!」
やがて、井上の手を離れ、高く放物線を描く花束。
俺は軽やかに飛び上がると、余裕の高さでその花束を手に取った。
「「「えええーっ!?」」」
会場から一斉に上がる驚きと不満色の声。
「…な、何だよ?」
花束を投げた井上は、こちらを振り返ると同時にデカい目をさらに真ん丸くして。
その隣に立つ一護の口が「ばか」と動いたのがはっきりと分かった。
「…んだよアイツら…。」
周りの空気がおかしいことに首を捻りつつ、俺は解説を求め石田に視線を移す。
石田は心底呆れたと言った表情で重い溜め息と共に口を開いた。
「…あのね、それを受け取った人が次の花嫁になれるってジンクスがあるんだよ。…キミは花嫁願望があるのかい?」
「な、花嫁っ!?」
「ぶっ!恋次、井上の様な『どれす』が着たいのか?それは見物だ!」
「う、ウルセェな!ルキア!石田もそういう事は先に言え!」
「周りに合わせて適当にやれるって言ったのはキミだろう!?だから大丈夫かって聞いたのに!」
…周囲の女達の突き刺さる様な視線が痛い。
カラカラと笑うルキアの横で、俺は口をへの字に曲げながら手の中の花束をただ見つめていた…。
.