Dear Friends






「ここが式場か?何か思ってたのと違うな…。」
「レストランウェディングってヤツだからね。和風文化の尸魂界とはかなり違うんだろうね。…あ。」
「おーい、こっちこっち!」

到着した俺達が、石田を先頭に西洋風の洒落た建物へと足を運べば、その少し奥で一護と井上の現世の友人達が手を振っていた。

「…有沢さん、小島くん、浅野くん、久しぶり。それから受付係ご苦労様。」
「いいのよ。『あんたたちの結婚式ならなんでもしてあげる』って、ずっと前から公言してたのはアタシなんだもの。」

そう言って誇らしげに胸を張る、黒髪の女。
現世には滅多に来ないから自分の記憶に自信はないが、確か一護の幼なじみで井上の親友だとか言ってた…気がする。

石田は彼女と話をしながら机の上にある紙にさらさらと名前を書き込み、祝儀袋を手渡した。
チャドもまた同じことを繰り返し、促す様に前髪の隙間からちらりと俺達を伺う。

「…俺達もそこに名前を書きゃあいいのか?」
「そうだよ。2人共死神なんだから筆には慣れているんだろう?」
「ぐ…う、うるせぇよ、石田…。」

未だに字を書くのが苦手な俺は、ルキアの書いた整った字の横に、屈辱感を味わいながらも自分の名前を書く。

…ああくそ、俺も剣術ばっかじゃなくて、ちっとは座学も磨くんだったな…。
「…それで、祝儀の件なのだが。」
「ああいいよ、一護からも『2人には期待してない』って言われてるから。」
「む、何を言うか!既に尸魂界にはあの2人の為の屋敷が…!」
「いや、それはいいから朽木さん。さあ、ガーデンへ行こう。」
「「がーでん?」」

ルキアと一護の友人との会話に割って入った石田の台詞を、首を傾げ復唱する俺達。
石田は呆れ顔で長く深い溜め息を1つつき、ゆっくりと口を開いた。

「庭だよ。2人の結婚式は庭でやるんだ。ほら、もう既に待っている人がいるだろう?」

石田が指さす先を見れば、開かれた扉の向こうに見える緑鮮やかな庭には、俺達と同じ様な格好の人間が沢山立っている。

俺達も建物を出てその庭へと足を踏み入れれば、そこには抜ける様な空の青と芝生の緑、そして降り注ぐ太陽の光。
開放的で爽やかなその場所は、あの2人が誓いを立てるに相応しい気がした。

成る程、屋外で結婚式を挙げるってのも悪くねぇな…なんて思う俺の隣、ルキアは井上と同い年ぐらいの女子の一団を見ていた。

「あれは、井上の高校時代の友人達だな、見た顔だ。…あっちのうじゃうじゃいる子供達は?」
「多分、井上さんの教え子じゃないかな。お祝いに駆け付けたんだろう。」
「…慕われているのだな、さすが井上だ。一護には勿体ないとしか言い様がない。」「ルキア、この期に及んでそういうこと言うなよ…。」

そんな話をしている間に、受付係だった3人も合流。
あとは一護と井上が来るのを待つだけになった俺達の間に、突如流れ出す女の声。

『…皆様、大変お待たせいたしました。まもなく、新郎新婦の入場になります。ここで、式についてのお願いを何点かさせていただきます…』

「…何だ?」
「司会者からの注意だよ。そう言えば、朽木さん達は現世の結婚式なんて初めてだろう?マナーとか大丈夫なのかな?」

眼鏡をくっと上げながら横目でこちらを見る石田に、俺もルキアも些かムッとしつつ答える。

「当然だ。朽木家の恥になるようなことはできぬ。」
「周りに合わせて同じことやればいいんだろ?それぐらい楽勝だっての。非常識な十番隊や十一番隊の奴らとはワケが違うんだよ。」
「…ならいいけど。」

そんな話をしながら、司会者の話を右から左へと聞き流していれば。

「それでは、新郎新婦の入場です!」

晴れやかに響き渡る司会者の声に合わせて、厳かに開かれる扉。
そこから現れた2人に、わぁぁっと歓声が上がった。

「ヒメ先生、綺麗~!」
「お姫様みたいだ~!!」

井上の教え子が、口々にそう叫ぶ。

白い服(たきしいどと言うらしい)を着た一護と腕を組み、赤い絨毯の上をゆっくりと歩く井上は、確かに西洋の女神みたいで。そのはにかんだ様な笑顔からは、幸せが滲み出ていた。

「おめでとう、織姫!」
「羨ましいぞ、一護ぉ!そして井上さん、美しすぎるぅぅ!」
「一護もバッチリ決まってるよ!」

そんな友人達の祝福の声に、ちらっとこちらを見て苦笑いをする一護。
けれど隣の井上に視線を戻したヤツの表情は、すぐに穏やかで優しいものに変わる。

死神代行として、幾多の戦いで鬼神のごとき戦績を上げたアイツにあんな表情をさせるのは、世界中で井上しかいないに違いない。

「「おめでとう…。」」

そんなことを考える俺の耳に、ふと静かに呟かれた祝いの言葉が重なって届く。
その他大勢が黄色い声で叫ぶ様に言うのとはまるで違う、静かで深い一言。
俺がその声のした方を見れば、ルキアと井上の現世の親友である女が、一護達の歩く姿をその目に焼き付けるかの様にじっと見つめていた。

いつもの様に一護を茶化すかと思っていたが、ルキアと井上の親友…その2人の眼差しは、姉が妹を見守る様な温かさと穏やかさ、そしてほんの少しの寂しさを湛えている気がして。
井上にとっちゃ、現世で一番の親友と尸魂界で一番の親友。
一護にとっては、幼なじみと死神代行への扉を開いた戦友。

2人にとっても、井上と一護は本当に特別で大切な存在で、だからこそそこに宿る想いは深いんだろう…そんなことを思った。



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