Dear Friends








「…何だよ、この格好は。」

浦原商店で用意されていた俺の義骸。
久しぶりに入ったそれが着せられていた現世の服は、あまりに窮屈で。
思わず不服の声を漏らした俺に、下駄帽子はへらりと笑った。

「…おお、いいですねぇ!お似合いですよ!」
「…つか、何なんだこのゆとりの欠片もない服装は。特にこの首を締めてるヤツ。苦しいだろが。」
「今日1日は我慢してくださいよ、こちらではそういうスーツにネクタイ姿が正装なんスから。」
「…ふーん…しょうがねぇな。」

俺が渋々承知すれば、隣の部屋の戸がカラリと開き、同じく義骸に入ったルキアが出てきた。

「おおっ!朽木さんもお似合いっスねぇ!そのラベンダー色のワンピースは雨の見立てなんですよ~♪」
「…そうか。悪くないぞ。」

薄紫色の「わんぴーす」とやらを身に纏ったルキアは、俺を一目見るなりニッ…と笑って。

「…馬子にも衣装だな、恋次。」
「…ウルセェよ。」

くつくつと笑うルキアに俺が憮然とした表情を見せれば、下駄帽子は手にしていた扇子をパチンと鳴らした。

「本当ならお二人には着物を用意しても良かったんですが、今日ばかりは主役より目立たれても困るんでねぇ。…ささ、そろそろお迎えが来る頃っスよ。」
「…ム、そうだな。」
下駄帽子に促され、店先に用意された靴(これもまた窮屈だったが)に足を突っ込む。

「じゃ、行ってくるぜ。」
「浦原、色々準備をしてくれたこと、感謝するぞ。」

俺とルキアが振り返れば、下駄帽子は扇子をひらひらと扇いで空を見上げた。

「ハイ~、今日はいいお天気になりました!尸魂界の代表として、あのお二人の門出を見届けてきてくださいな♪。」



…そう、今日は。

俺にとっても、ルキアにとっても大切な「仲間」であり「友人」である2人の。

一生に一度の、晴れ舞台。












《Dear Friends》













「結婚式場まで、どんぐらいかかるんだ?」
「…30分ぐらいだよ。」

浦原商店の前につけられた車。
運転席には石田、助手席にはチャドが乗ったその車の後部座席に、ルキアと2人で乗り込む。

俺達が向かうのは、一護と井上の結婚式。
本当は、十番隊や十一番隊の面々も参列したがっていたが、「頼むから絶対に間違っても誓って来るな」と一護が尸魂界まで直々に頭を下げに来たので、ブーブー文句を言いながらも諦めたらしい。
まぁ、奴らが来れば式場が酒盛り会場になっちまうのは目に見えてるからな。
そんな訳で、尸魂界からは俺とルキアの2人が参列することになった訳だ。
「今日の式は、人前式らしいよ。」
「じんぜんしき?」

運転席の石田が切り出した言葉に、俺とルキアが首を捻る。

「『ひとまえ』って書いて『人前』。神様じゃなくて、僕達参列者に結婚の誓いを立てる式のことだよ。…まぁ、いかにもあの2人らしいけどね。」

石田の言葉に、隣に座るチャドが頷いて小さく笑う。

「…つまり、俺達が一護と井上の結婚の証人になるってことか?」
「…そういう事だね。」
「…つまり、今後もし一護が井上を泣かすようなことがあれば、参列者全員で袋叩きにしてよいということか?」
「…朽木さん、それはちょっと違うけど…まぁ、今日の参列者の顔ぶれを見れば、必然的にそうなるだろうね。黒崎にはそれぐらいの覚悟で、井上さんを幸せにしてもらわなきゃ。」
「………。」

そう言いながら車を運転する石田の表情は、後部座席からでは伺えなかったけれど。
…石田も、おそらくは井上に何らかの特別な感情を抱いていた様に俺の目には映っていて。
ただ、井上の心はいつだって真っ直ぐ一護だけに向かっていたことにも気付いていただろうから。

今、どんな心境で2人の式に向かっているのだろう…なんて余計なことを、俺は頭の隅でちらりと考えたりした。
「…あと、こんな話をするのも何だけど、君たち祝儀はどうするんだい?2人共、現世のお金は持っていないんだろう?」

赤信号の間にこちらをちらりと振り返る石田に、ルキアが自信満々に胸を張って見せる。

「うむ、心配ないぞ石田!こちらの金はないので今日は手ぶらだが…尸魂界に2人への祝儀が用意してある!兄様も『あの2人には世話になっているから祝儀ははずめ』と仰られてな。聞いて驚け、尸魂界に2人専用の屋敷を一軒建ててやったぞ!」
「…へえ…そう…。」
「…ム…。」
「な、何だ、驚かぬのか?石田。2人の間に子供が出来てもよいように、ちゃんと部屋数も確保してあるのだぞ!」
「…いや、驚いたよ、違う意味で…。」
「…ム…、もうすぐ式場だ。」
「何だ2人共、反応が薄いではないか!」

石田とチャドの間に流れる微妙な空気に、首を傾げるルキアと俺を乗せて。

車は、間もなく式場に到着しようとしていた…。




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