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夢であるように








《夢であるように・エピローグ》







「は…あ…。」

2人分の重さに、織姫のベッドがギシッ…と軋んだ音を立てる。

一護が満足げな溜め息を吐いて仰向けになるその隣、織姫はくったりとしてうつ伏せになっていた。
白い背中を流れる胡桃色の髪を、一護が労るように撫でる。

「…大丈夫か?」
「うん…大丈夫。」
「本当に?無理してねぇか?」
「うん。本当に。もう痛くなくなったし。…その…。」
「ん?」

もぞもぞっと動いた織姫は、前髪の隙間からチラリ…と一護を見上げて。

「…気持ち、良かったよ…?」
「…そりゃ、どうも…。」

恥ずかしさから、また直ぐにぱふっと布団に顔を伏せてしまった織姫と、仰向けのまま口元を覆う一護。
その顔は同じぐらい赤かったが、それでも一護の方が幾分か先に冷静さを取り戻した。

「なぁ、井上。」
「…はい?」

一護が、織姫の方にある腕を布団の上に投げ出す。
一護の意図を理解した織姫は、おずおずと身体を移動し、一護の腕枕に頭を乗せた。

「オマエ…将来のこととか、考えたことあるか?」
「え?どうしたの、急に。」
「や…最近、大学でも就活、就活って忙しなくてさ。さすがに将来のこととか考えるようになるだろ?」
「そっか。」
「だから、井上はどうなのかなって。」

仰向けのままそう尋ねる一護に、織姫は少しの間考えて。
そして、ゆっくりと口を開く。
「高校生だった頃は、色々夢があったけど…『ケーキ屋さんになりたい』って夢が叶ったし、『黒崎くんに想いが届いたらいいな』って夢も叶ったから…。」
「じゃあ、今の夢は?21歳の、井上の夢。」

もうこれで十分、と言いたげな織姫に、一護が尚も問いかける。
織姫は「うーん」と少し困ったように…けれどはにかんだような笑顔を浮かべながら、もう一度考えた。

「そうだなぁ…いつか、幸せな家族が持てたらいいな。私、いわゆる『普通の家庭』を知らないから。パパがいて、ママがいて、子供がいて…それで家族みんなで毎日いっぱい笑うの。黒崎くんの家族みたいに。」
「俺の家のアレ、普通か?」
「普通…じゃないかもしれないけど、とっても素敵な家族だよ。」

横目で織姫を見る一護に、織姫がクスクスと笑いながらそう言えば、一護は「そっか。」とだけ短く答えて。
そして再び天井を見つめ、言葉を続けた。

「…で、さ。」
「うん?」
「その夢の中で…オマエの隣にいるのは誰だ?」
「え?」
「父親がいて、母親がいて、子供がいる…その夢の中で、オマエは母親だろ?じゃあ…父親は誰の顔を描いてるんだ?」
「それ…は…。」

一護の鋭い問いに、視線を彷徨わせ、言葉を詰まらせる織姫。

本当は、決まっている。

もし夢が叶うなら、たった1人、これからもずっと傍にいたい人。
…けれど、これ以上の幸せを望むなんて図々しい気がして、言葉にしたらこの瞬間の幸せまで消えてしまいそうな気がして。
心に思い描いているその人の名を、織姫は飲み込んでしまった。

「…俺は、考えてるからな。」
「え?」

少しの、沈黙。
答えを返せず、目を伏せるだけの織姫に、一護が低い声で告げる。

腕枕の上で織姫が視線を上げれば、すぐ隣にある一護の横顔は真っ直ぐ天井を見つめていて。

その真摯な眼差しは、天井よりずっと向こう…遥か先にある「未来」を見つめている気がした。

「父親が俺で、母親がオマエで、俺とオマエを足して2で割ったような子供がいて…俺は、そういうのがいい。」
「黒…崎くん…。」

驚きに見開いた織姫の大きな目が、やがて柔らかく細められて。
じわり…その端に滲んだ涙に気づき、一護が織姫をそっと抱き寄せる。

織姫は一護の腕の中でうずくまり、声を震わせた。

「…いいの…?」
「おう。…でなきゃ、付き合って3ヶ月で手ぇ出したりするかよ…。」

一護が、ほんの少しだけバツが悪そうに呟く。

そもそも、恋人として付き合っていなかっただけで、知り合ってから既に6年が経ち、お互いに命を懸けてもいいと思える程に心を寄せ合っていた一護と織姫。
一度「恋人同士」という肩書きを得てしまえば、関係が深まるのに時間は殆どかからなかった。

まして、お互いに「これが最初で最後の恋愛」と決めていたのなら、なおのこと…。

「…ねぇ、黒崎くん。」
「ん?」

目元の涙をこっそり拭って、織姫は一護の腕枕から頭を下ろすと、代わりにそっと一護の手を取り指を絡めた。

「今日は…こうして手を繋いで眠ってもいい?」
「いいけど…何で?」
「昔ね、お兄ちゃんが教えてくれた『おまじない』なの。私が怖い夢を見て目を覚ましたときに、お兄ちゃんが手を繋いでくれて…。こうして眠ったら、お兄ちゃんの夢が移って、2人一緒の楽しい夢が見られるよ…って…。だから今夜は、黒崎くんと同じ夢が見られるように。」

繋いだ手に頬を擦り寄せながらそう言う織姫を、一護が穏やかな眼差しで見つめる。

「…そっか。そうだな。おんなじ夢が、見られるといいな。」

一護の大きな手が、織姫の手を優しく包み込む。

絡めた指で感じる右手の薬指の指輪の存在に、一護が思わず口元を緩めれば、織姫もまたふわりと幸せそうに笑い返した。

「ありがとう。おやすみなさい、黒崎くん。」
「おやすみ、井上…。」








今宵、キミとボクの見る「夢」が、同じ「夢」であるように。

いつかの遠い未来を思い描くときも、キミとボクの見る「夢」が、同じ「夢」であるように。

繋いだ手に、願いと祈りを込めて、そっと瞳を閉じた。




















《あとがき》




「夢であるように」は、230000hitキリ番を踏まれたChie様からのリクエストで生まれたお話です。

ちなみに、どんなリクエストだったかを種明かしさせていただきますと、「織姫ちゃんが黒崎くんに話があるから時間を作ってくれって言われて何の話か悩んでると黒崎くんが知らない女の子といるところを見てしまい、彼女ができたからもう家には来ないでほしいと言われる話だと思い込み黒崎くんを避けまくり、黒崎くんが誤解を解こうと頑張るお話をお願いしたいです」…でした!

Chie様、ご満足…もしくは納得いただけるお話になりましたでしょうか?ドキドキ…| |д・)



私個人も、「勘違いやすれ違いから身を引こうとする彼女、それを必死で引き止めようとする彼氏」な展開は大好物でして、今回のお話も大変楽しく書かせていただきました♪

あと、私は「一織のお付き合いは一護も織姫もお互い最初で最後の相手であってほしい党」なんですけど、それってやっぱり、もし一護に彼女ができたら、織姫ちゃんが今回のお話みたいに辛いに違いない…からなんですよね。
織姫ちゃんメチャクチャいい子だから、もし一護に彼女ができたら絶対笑顔で身を引くし、でも引いてもやっぱり一護が好きで苦しいし、彼女がいる一護を好きでいること自体に罪悪感を抱きそうだし…で、織姫スキーな私には辛すぎるぅぅ(ToT)ってなるんです。

だから、一護には寄り道をせずに、いちばんに織姫ちゃんを選んでほしい…そんな私の願望も入ったお話です。織姫ちゃんは初めから一護しか選ばないですからね~。



今回、恋ルキ結婚小説後の設定で書かせていただいて、ちょっと織姫の勤め先の店長さんが目立ちすぎたかな~って反省もありますが、読み手の皆様に少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

それでは、ここまで読んでくださった皆様、そしてリクエストしてくださったChie様、本当にありがとうございました!(o^∀^o)





(2017.05.04)
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