一織の新婚生活









「う…ん…。」

…何だか、すごく優しくてあったかい夢を見ていたような気がする。

あたしはその日、ふわふわとした心地で目を覚ました。








《新婚さん5日目》








ころん…と寝返りを打てば、すぐそこに愛しい旦那様の寝顔。

彼の少年の様な寝顔とオレンジ色の眩しさに、あたしはまだちょっと慣れなくて。
朝から胸がドキドキと大きな音を立てて…でも、そのあとにいつも、幸せで胸がいっぱいになるの。

「あ…れ…?」

その言えばあたし、夕べどうしたんだっけ?

えーと…確か一護くんが、念願の家飲みをしてくれて。

一緒に色んなお話をして、美味しいご飯を食べて、オレンジジュースを飲んで、一護くんのビールをちょっとだけ飲ませてもらって…。

「もらって、そのあとは?」
「…酔いつぶれたんだよ、オマエ。」
「ほええっ?!」

昨晩のことを思い出すのに、一生懸命だったあたし。
目の前の旦那様の目が開いたことにも気づかずにいたなんて、不覚です。

「あたし、酔いつぶれちゃったの?」
「ああ。けどまずは、おはよう、織姫。」
「…おはよう、一護くん。」

一護くんに抱き寄せられて、そのまま軽く唇を重ねて、「おはようのキス」。

「こんなこと、いつまでするのかな」…なんて、一護くんは新婚初日の朝に照れ臭そうに言ったけれど。
とりあえず、新婚5日目の今日まで継続中です。

「オマエ、職場の飲み会とか言っても、絶対にアルコール飲むなよ。味見とか一舐めもダメだ。」
「はい…。ごめんね、一護くん。」

多分、夕べ一護くんに大迷惑をかけたに違いないあたし。
一護くんの言葉に素直に頷けば、彼の手が私の背中をぽんぽんと優しく叩いた。

「俺ならいいんだよ。けど、職場とかでは気をつけろよって話だ。二日酔いとかしてねぇか?」
「うん。目覚めすっきりです。」
「そりゃ良かった。じゃあ、起きるか?」

一護くんにそう尋ねられ、あたしは返事を返す代わりに一護くんの胸にきゅっとしがみつく。

「…どうした?」
「うん、あのね…。」

お付き合いを始めた頃には、想像もしていなかった一護くんとの結婚生活。
でも、一護くんからプロポーズされて、「結婚」の二文字が現実味を帯びてくるにつれ、あたしはどんどんワガママになっていって。

もっと一緒にいたい…そんな思いに押し潰されそうになったあたしに、一護くんは言ってくれたんだ。

「結婚したら、時間が許す限り、一緒にいるから」って。
「ワガママ1000個、言わせてやるから」って…。」




「あのね、一護くん。あと15分だけ…こうしていたいな。」

あたしが結婚して6度目のワガママを言えば、優しく笑った一護くんは、返事の代わりにあたしの髪を撫でてくれた。

「確かに…結婚したわりには、あんまり一緒にいられていないもんな。」
「うん。お仕事の時間とか、なかなか合わないもんね。」

そう、結婚したからって、ずっと一緒にはいられない。
この先、仕事のシフトの関係で、生活がすれ違ってしまうことだって、きっとあるかもしれない。
だからこそ、こうして一緒のベッドで寄り添って眠る時間が、とても大切で、愛しいの。

「これで、結婚して6度目のワガママですなぁ。」
「は?もうそんなにワガママ言ったか?」
「うん。昨日の『家飲みしたい』もだし、一昨日はあたしの好きな惣菜をカゴに入れていいって言ってくれたし。あと…。」
「オマエ、ワガママの規模が小さいんだよ。」

一護くんは指折り数えるあたしの手を取り、苦笑いして。
そして、大きな手で優しくあたしの頬を包んでくれた。

「そんなんじゃねぇよ。俺が叶えてやりたい『ワガママ』は、もっとずっとデカくて…そうだな、俺が困ってどうしようもなくなっちまうぐらいのヤツだ。」
「そんなこと言われても…。」

だってあたし、一護くんを困らせたくないし。
そもそも、一護くんはあたしに優しくて、たいていのワガママは笑って受け入れてくれちゃうから…。

「じゃあ、一護くんだったら、例えばどんなのが『ワガママ』になるの?」

答えに困ったあたしが一護くんに尋ねれば、一護くんはその質問が意外だったのか、ちょっと驚いたような顔をして。

「そうだなぁ…。」

そして、少し考えたあと、真剣だった表情が、ニッ…と不敵なそれに変わる。

「じゃあ…夕べできなかったから、今からシたいってのはどうだ?」
「…へ?」

一瞬、一護くんが何を言っているのか、解らなくて。
でも、彼の手があたしの腰に回り、ぐっと引き寄せられたとき、彼の「シタイコト」が伝わってきて、かぁぁっと顔が熱くなった。

「え、あの、あ、朝ですけど、一護くん…?!」
「別に、いつシてもいいんじゃね?」
「で、でででもですね…!」

するりとパジャマの中に侵入し、あたしの背中を撫でる一護くんの大きな手。

朝からなんて、って思っている癖に、一護くんの手はあったかくて、気持ちよくて。

やっぱり、嫌じゃないわけで…。

「…あ、朝にするのって…いいのかな…。」
「そりゃ、その夫婦がよければいいんじゃねぇの?」
「…一護くんのお仕事に、支障が出ない?」
「オマエ、俺が体力バカだっての忘れたか?」
「…。」

あたしの顔を覗きこみ、いたずらっぽい眼差しであたしの返事を待っている一護くん。

…解ってるよ、一護くんはあたしが嫌がることは絶対にしないから。

あたしが「YES」か「NO」をはっきり言うまで、待ってくれてるんだよね?

そういう一護くんの優しさに触れるたび、あたしはやっぱり一護くんが大好きだなぁって何度でも思うの。

「…カーテンは、開けちゃだめだよ。」
「了解。」






(新婚5日目、お互いの小さなワガママを受け入れて、奥様が休みなのをいいことに朝からイチャイチャ)



(2019.12.15)
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