なんで
《「なんで」オマケ~1.帰り道~》
「ったく、浦原さんめ…。」
全てが解決し、浦原商店を後にした一護達。
街灯に照らされた4人の影が長く伸びる帰り道、一護だけが口を尖らせ、低い声でぼやきながら歩いている。
「でも、浦原さんには感謝しなくちゃ。こうして、解決策をちゃんと考えていてくれたんだもん。」
「そりゃ、そうだけどさ…。」
彼の手には、先程浦原からもらった目覚まし時計…もとい「霊圧隠覆機」。
隣を歩く織姫からのフォローに、一護はそれを見つめながらガリガリと頭をかく。
確かに、「今すぐ付き合うのを諦めろ」という言葉の意味を勝手に誤解したのは自分達だ。
けれど、今考えれば、その誤解すら彼の想定内だったのでは…と思えてならないのだ。
「結局、浦原さんの手の平で転がされていたってことだろ?こっちは真剣に悩んだってのにさ…。」
「…その真剣さを、浦原さんは見たかったのかもしれないよ。」
ぶつくさと不満を漏らす一護の言葉に、石田が切り返す。
一護は織姫の向こうにいる石田の方を覗き、問いかけた。
「どういう意味だよ、石田。」
「浦原さんも言ってただろう。君と井上さん、二人の強大な霊圧を完全に覆い隠すのは簡単じゃないって。早くても2年は開発にかかる装置をタダで作ろうっていうんだ、それにみあう誠意を君たちが見せてくれなきゃ、浦原さんも納得できないんだろう。」
「ム…それもそうだな。」
「ちぇ…。」
大きく頷くチャドに、バツが悪そうに舌打ちをする一護。
確かに、自分には全く見返りがないにも関わらず、一護と織姫の為に新たな装置を開発してくれるというのだから、本来浦原には感謝しなければならないのだ。
ただ、素直に感謝する気持ちが湧いてこないのは、自分の性格のせいだけではないと一護は思う。
「だが…それもお前達二人の人徳だろう。2年ぐらい喜んで待つ…というお前達の気持ち、俺も嬉しかったぞ。」
「茶渡くんのいう通りだ。本当に良かったよ。君達が、記憶を操作してお互いへの気持ちを消してしまうんじゃないか…なんてことも、ほんの少しだけど考えていたからね。」
「ああ。これで晴れてハッピーエンドだな。」
そう言って、石田とチャドはニッ…と笑って頷き合うと、おもむろに拳を振り上げ、二人同時に一護のオレンジ色の頭にゲンコツを落とした。
「痛えぇっ!」
「ええっ?!石田くん、茶渡くんっ?!」
「い、いきなり何するんだよっ!」
突然頭に降ってきた2つの衝撃と痛みに、思わず絶叫する一護と、その隣でおろおろする織姫。
殴られた辺りを擦りながら石田とチャドを交互に睨み付ける一護に、石田はすまして答える。
「いや、実はずっとモヤモヤしていたんだ。あの時は大量の虚が出たうえに、浦原さんから『付き合うのを諦めろ』って言われてひどくショックを受けていたから、何も言えなかったけど…黒崎、井上さんを5年以上も待たせておいて、告白した途端に彼女の全てを手に入れてしまうなんて、いくらなんでも手が早すぎるだろう。」
「ム…井上を応援していた者達を代表して、俺達二人からの制裁だ。」
「よ、余計なお世話だっつーの!いいんだよ、これから井上を大事にするんだからさ!」
「じゃあこの現状を、朽木さんや有沢さんにも言えるかい?」
「……。」
勢いを一気に失った一護が、返す言葉もなく押し黙る。
もし、たつきやルキアに「告白した日に織姫と結ばれました」などと言おうものなら、生きて帰れる気がしない。
「えっと…どうしよう、黒崎くん。もし黒崎くんと両想いになれたらちゃんと報告するって、たつきちゃんと朽木さんに約束がしてあるんだけど…。」
「…頼む井上、言葉を選んでくれ。じゃないと俺が二人に殺される。」
「ふふふ、大丈夫だよ、黒崎くん。どんな風に伝えたとしても、たつきちゃんも朽木さんもきっと喜んでくれるよ。」
「ム…これからも、一護なりの『誠意』を見せ続けていけばいい。そうすれば周りも皆、祝福してくれるだろう。」
そんな話をしながら歩いていた4人は、気がつけばいつもの別れ道へと辿り着いていた。
数え切れない程の星が瞬く夜空を見上げる4人の間を、穏やかな風が吹き抜ける。
「さて、ここらでお別れだ。井上さんは黒崎が送るんだろう?」
「当たり前だ。」
「石田くん、茶渡くん、今日は本当にありがとう。お休みなさい。」
「俺からも、ありがとな、チャド、石田。じゃあな。」
ぺこりと頭を下げる織姫と、軽く手を上げる一護。
それに答えてチャドと石田もまた手を上げると、口元に楽しげな笑みを浮かべながら告げた。
「ム…とりあえず『誠意』を見せて、さっそく送り狼になるなよ、一護。」
「だぁあ!一言余計だっての、チャド!」
「(…図星だな、黒崎…。)」
(2021.07.25)