なんで







「お二人の気持ち、よ~く解りましたぁ!」
「うわぁっ!」
「きゃあっ!」

突然、スパーン!と勢いよく開かれる、部屋の障子。

そこには、ドッキリを成功させて満面の笑みの浦原と、口元を手で隠し笑いを堪える石田とチャドが立っていて、一護と織姫は仰天しながらも反射的に寄せあっていた身体を離す。

「な、いつからそこに?!」
「まぁそんなことはどうでもいいじゃないッスか!」
「よかねぇよ!」
「まぁまぁ黒崎サン、そう熱くならずに。お二人にこちらを差し上げようと思って、顔を出したんスから。」

浦原は広げた扇子をひらひらさせながら袂を探り、そこから取り出した物を一護に差し出した。

「何が『顔を出した』だよ、全身出てんじゃねぇか…って、何だよこれ?」
「目覚まし時計…?」

一護が受け取ったそれは、箱型のよくある目覚まし時計。
織姫もまた一護の後ろからひょこっと顔を出し、現在の時刻を表示しているデジタル画面を覗くと、一護と顔を見合わせた。

「勿論、置き時計としても使えますが、これが教えてくれるのは目を覚ます時間ではないんです。実は…何を隠そう、これは名付けて『霊圧隠覆機』ッス。」
「霊圧…おんぷくき…?」
「ハイ。『隠覆』とは、字の通り、覆い隠すという意味っス。8畳程度の面積ではありますが、一定量の霊力を覆い隠せるバリアのようなものを張ることができる機械です。あの爆発的なお二人の霊圧にはさすがに耐えられませんが、軽くイチャイチャするぐらいの霊圧なら大丈夫ッスよ。」
「ほ…本当か?!」
「こちらは霊圧探知機を改良したものでしてね。バリアの耐久値を超える霊圧を感知すると、音声で知らせてくれるようになっています。」
「浦原さん…いつの間に、こんなスゴいものを…。」
「お二人の選択次第では、ただのガラクタになってしまうところでしたが…いやぁ、お役に立ちそうで良かったッス!」

そう言ってカラカラと笑う浦原の横で、石田とチャドが満足げに頷く。

石田とチャドと浦原…それぞれ思うところはあったに違いない。
けれど、3人共決して一護に自分の考えを押し付けようとはしなかった。

自分が答えを出すまで、ただただ信じて待っていてくれた仲間達に、一護は素直に感謝した。

「…ありがとな。」
「いえいえ~。ちなみに性能もばっちりッスよ。実は先程まで使ってたんスよ、このバリア。お陰で、アタシ達がずっと障子の向こうにいたなんて、全く気づかなかったでしょう?」
「わぁ、気づきませんでした!すごいですね!」
「だぁぁっ!やっぱりずっと盗み聞きしてたのかよ!」

その性能に素直に驚く織姫の隣で、一護が恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にする。
それに対し、石田はくつくつと笑った。

「盗み聞きとは失礼だな。君が井上さんを泣かせるんじゃないかと心配で、様子を見ていただけだよ。」
「同じだっつーの!」

いつものノリに戻った石田と一護のやり取りを、口元に笑みを浮かべて見守るチャド。
しかし一転、その口をぐっと結ぶと、顎に手を当て俯きがちに呟いた。

「ム…だが、その霊圧隠覆機とやらも、一護と井上の霊圧が爆発的に高まった場合には耐えられないのなら…やはり、二人が結ばれることはもうないのか…?」

そのチャドの言葉に、石田もまた一護と織姫にかける言葉を失い、複雑な表情で二人を見つめる。
しかし、一護と織姫は共に穏やかな笑顔で首を左右に振った。

「いや、いいんだよチャド。とっくに覚悟は決めてた。ここまでしてくれただけで、俺達はもう…」
「そうッスねぇ…あと2年くらいは我慢していただかないと。」
「…へ?」

『ここまでしてくれただけでもう十分だ』と告げようとした一護の声に重ねられた、浦原の言葉。
その場にいた皆が耳を疑い、目を丸くする。

「に…2年…って?浦原さん…。」
「やだなぁ、そんな顔しないでくださいよ、皆さん。下手をしたら現世にすら戻れなかったかもしれないほどに強い黒崎サンの霊圧を、完全に覆い隠すほどの機械を作ろうっていうんスよ?最速で2年…黒崎サンの就職祝いに間に合うかどうかぐらいッス。」
「いやいやいや待ってくれ浦原さん、俺達は2年待たされることに驚いてるんじゃねぇよ。たった2年待てば、俺達は普通に…。」
「ええ。開発が順調に進めば。」
「え…ええええっ?!」

大きな目を更にまん丸くして、驚きに大声を上げる織姫。
その隣で、衝撃に口をぱくぱくさせていた一護は、堰を切ったように浦原に思いをぶつけた。

「だ、だって浦原さん、俺達に『今すぐに付き合うのは諦めろ』って言ったじゃねぇか!だから、俺も井上も散々悩んで…!」
「はい。ですから、『今すぐに付き合う』のはちょっと諦めていただいて、機械の完成を待ってから付き合っていただきたい…と、アタシはそういう意味で…。」
「そ…そうだったんだ…!」

冷静に答える浦原に、織姫が両手で自身の丸い頬を覆い、納得の声を上げる。
確かに、あの時の浦原が告げた 「お二人には今すぐ付き合うのを諦めていただきたい」は、浦原が説明した取り方もできるのだ。

ただ、自分達が勝手に絶望的な方に解釈しただけで…。

「いやはや、もしかして黒崎サンも井上サンも、誤解されてましたかぁ?もう永遠に結ばれないなんて…そりゃあしんどい!井上サンのような魅力的な女性と結ばれないなんて、男としては辛いッスもんねぇ、黒崎サン!」

楽しげな浦原の言葉に、一護の拳がふるふると震え出す。

「…浦原さん、解ってただろ、本当は俺達が誤解してるの知ってて楽しんでただろうっ!」
「やだなぁ、アタシはそんな悪趣味じゃないッスよ~!あはははは~!」
「嘘つけ!ちくしょう、俺がどんだけ悩んだと思ってんだよっ!」

怒りにまかせ、ブンブンと拳を振るう一護と、それをひらりひらりとかわしながら部屋を飛び回る浦原。

それを笑顔で見つめる織姫の肩を、石田とチャドが優しく叩いた。

「…良かったね、井上さん。」
「うん…心配してくれてありがとう、石田くん、茶渡くん。」
「ム…俺達は何もしていない。ただ、一護と井上…二人に幸せになってほしいと願っていただけだ。」
「黒崎の気持ちも、生半可なものじゃないってこれで解ったし…井上さんも、5年待った甲斐があったかな?」
「ふふ…あたしが勝手に待ってただけだけどね。でも…本当に嬉しかったよ、黒崎くんの気持ち…。」

織姫は石田とチャドを見上げながら、それはそれは幸せな笑顔を浮かべたのだった。








「けど…気をつけてね、井上さん。2年後、二人の霊圧を完全に抑え込む機械が完成したとき…黒崎の方は抑えがきかなくなるに違いないから。」
「ム…2年も我慢した後だからな…。頑張れよ、井上。」
「???…なんで?」


















《あとがき》




今回もかなりの「一護イジメ」を乗り越え(笑)、無事完結しました!(*^^*)

さてさて、この「なんで」ですが、サイトのお客様であるみゃお様からアイディアをいただいてできたお話です!(^o^)

ちなみにみゃお様からいただいたコメントを抜粋させていただきますと、「もしかしたら、一護からの告白→その日の内に一線を越えたけど、二人の霊力が強すぎて交わることで虚を大量に空座に呼び込んでしまって浦原さんに『別れてください』てロミジュリ状態で一度離れたんじゃないかとか妄想してます」。

…そんな美味しい妄想いただいたら、書きたくなるじゃないですか?!
一織の「付き合いかけたって何なんだ」に生まれた全く新しい可能性に、私がたまらず「お話にしてもいいですか?」とお願いしたところ、快諾をいただきまして、このお話ができあがった次第です!
みゃお様、素敵な「付き合いかけた設定」を、本当にありがとうございました!

こうして拍手コメントやキリ番リクエストなどから、私の中には存在しなかったお話が生まれるのは、サイト運営の醍醐味だなぁと思うと同時に、本当にありがたいことだなぁと思います。

ラストページを書いているときが、最高に楽しかったです(笑)。

このあと、オマケもちょろっとつけさせていただく予定なので、合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

ではでは、みゃお様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!(*^^*)




(2021.06.27)

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