blue bird






「…な、何だよこれは?!」

一護と織姫がお互い大学生ながら同居生活を始めたのが4ヶ月前。

それを「同棲」だからと後ろめたさを感じる織姫のために、二人が婚約して2ヶ月ほど経ったある日。

一心達に「たまには空座に帰って来い」と幾度となくメールや電話を受けていた一護と織姫は、久しぶりにクロサキ医院を訪れていた。

そして、リビングに上がった二人の目の前に飛び込んできた物は、テーブル一面にところ狭しと並べられた、結婚式場のカタログやパンフレット。

「わーっはっはっ!気が付いたか、一護よ!」
「…バカにしてんのか、クソ親父…。」

綺麗なガーデンや青い海をバックに幸せそうに寄り添うウェディングドレス姿のカップルの写真がずらり。
気が付かない訳がない。

「…呼び出した理由はこれかよ。」

一護は思わず大きな溜め息をついた。

「あっ!一兄、織姫ちゃん、お帰り!」
「織姫ちゃん、一緒にカタログ見ようよ!あのね、このパンフレットのドレスがね…!」

階段をドタドタと下りてきた夏梨と遊子は、挨拶も早々に呆然と立ち尽くしている織姫の腕を引っ張ると無理やりテーブルの前に座らせる。そして早速テーブルの上のパンフレットを開き、次から次へと織姫に見せては意見を求め始めた。

「ね、ね、織姫ちゃんはどういうドレスがいいの?!」
「え?ど、どういうって…。」
「だからね、スカートの形とか、色とか。ふわふわしたのがいいとか、しっとりしたのがいいとか…。」

矢継ぎ早にパンフレットを見せてくる夏梨と遊子、そしてその勢いに圧倒されておろおろしている織姫。
どうやら今回は一心個人のお節介ではなく、妹達も積極的に関与しているらしい。
はしゃぐ妹達とその間に挟まれて戸惑っている織姫の様子を横目でちらりと見ながら、一護は思わずぽそりと呟いた。

「…余計なお世話だっての…。」

しかし、その小さな声を一心の耳が聞き逃すはずもなく。

「何を言うか、一護!婚約して2ヶ月、なぁんにも動き出さんお前を見かねて、代わりにこうして用意してやったんだぞ!」
「だから、それが余計なお世話だっつってんだよ!俺ら大学生だぞ、結婚式挙げる金なんかねぇんだよ!」

声を荒げる一護に、今度は夏梨と遊子が弾かれた様に一護を振り返った。

「ええっ!じゃあ、結婚式しないつもりなの?!」
ばっ、と向き直った二人の突き刺さる様な視線を受けた織姫は、小さくなって申し訳なさそうに言葉を発する。

「…あのね、まだ黒崎くんとしっかり話した訳じゃないんだけど…その…。せ、籍を入れるだけでもいいかなって…ね?」

織姫がちらりと一護に視線を送り、それを受けた一護もまたガリガリと頭をかきながらぶっきらぼうに言葉を続けた。

「…まあ、そういう訳だからよ。確かに2ヶ月の間何にも動かなかったのは良くなかったかもしれねぇけど…。」
「「ダメーっ!!」」

しかし、一護の言葉を遮ったのは、夏梨と遊子の絶叫。

「お兄ちゃん、織姫ちゃんにウェディングドレス着せてあげないの?!女の子の夢なんだよ?!」
「そうだよ!一兄、ひどいよ!一生に一度しかないんだよ?!」

テーブルの前から立ち上がり、一護に食って掛かる夏梨と遊子に、今度は一護の方がたじたじとして思わず後ずさる。

「や、そうは言っても、俺も井上も色々忙しくてだな…。」
「それ、言い訳!だいたい、何でまだ名字で呼んでるの?」
「織姫ちゃんみたいな可愛いお嫁さん貰うのにドレス着せてあげないって、もう軽く犯罪だから!」
物凄い剣幕で迫る二つの顔に、一護は返す言葉を失う。
織姫もまた、どう一護に助け船を出せばよいのかわからず戸惑うばかりだったが。

「がっはっは!さすがの一護も観念しただろう?!今日はここに泊まって、ゆっくり考えてみるんだな!」

豪快に笑いながらそう言う一心の声に、双子の顔がぱっと明るくなり、織姫を振り返った。

「織姫ちゃん達、泊まってくの?!」
「え?あ、あの…。」
「やったあ!じゃあ今日は久しぶりに沢山お喋りしようね!」

きゃっきゃっとはしゃぐ夏梨と遊子に、今日は当然日帰りのつもりだった織姫は、困った様に一護を見つめる。
一護は「はあっ」と大きく溜め息をつくと、諦めた様に肩を竦めて見せた。

ここで更に「今日は帰る」などと言えば、妹達から何を言われるか解ったものではない。
一心1人だけなら軽くあしらえる一護も、妹達にはどうにも弱かった。

…加えて。

忙しさから一護と織姫の間で「結婚」の二文字についてしっかりと話し合ったことがなかったのも事実であり、一護としてはこれを契機に織姫の考えを聴くことも必要かもしれない…と今更ながらに感じていたのだった。




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