real intention






「…よく言ったな、婚約したなんて…。」

一護がぽつりと漏らしたその一言に、織姫は顔を上げた。

「だってね、私には黒崎くんがいるのに、友達が周りの男の子を勧めてくるの。だから、つい…。」

そこまで言うと、織姫は再びぽふっと一護の胸板に顔を埋める。
一護は成る程、と思った。

いつもの織姫なら周りに何を言われても適当に言葉を濁すのだろうが、今日はアルコールの後押しが織姫に婚約発表をさせてしまったのだろう。

「みんなね、きっとびっくりしたよ。だって黒崎くんカッコいいもん。」
織姫が嬉しそうにクスクスと笑う。

「…いや、俺がどうこうじゃなくて。学生のオマエが婚約したなんて言ったら、普通驚くだろ。」
「違うもん。黒崎くんがカッコいいから驚いたんだもん。絶対そうなんだから。」

言い張る織姫に、一護は自分の心がくすぐったい様で、それでいて温かい不思議な感情で満たされていくのを感じた。

「…欲のねぇヤツ。」
呆れた様に、そうこぼす一護。

「…なにが?」
「婚約指輪も無しで、結婚指輪も安物で。いいのか?そんなんで…さ。」
「だって、別に指輪が欲しくて黒崎くんのお嫁さんになる訳じゃないもの。」一護の口からぽろりとこぼれる本音に、織姫が不思議そうに答える。

「一緒に暮らすのだって、ぶっちゃけちまえば、早くオマエを俺のモノにしたかっただけだぞ?」

自分より2年も早く社会人になる織姫。それでなくても、会うたびに綺麗になっていく彼女に、一護は正直焦りを感じずにはいられなかった。

そこに起きたストーカー事件。
一護はその輩から織姫を守るという大義名分のもと、織姫との同棲に漕ぎ着けた。
本当は彼女の戸惑いに気が付きながら、半ば強引に事を進めてしまった後ろめたさも、一護の不安を煽っていたのだ。

「うん、私もね、早く黒崎くんのモノになりたかったから、嬉しい…よ…。」
一護の腕の中で、織姫がうとうとし始める。

「…本当に、いいのか?本当は…。」
「…ほんとうは、もっといっぱい抱っこして欲しいなぁ…ぎゅうって、抱っこ…。」

一護の言葉を遮る様にそう言うと、すうっと吸い込まれる様に織姫は眠ってしまった。

一護の胸板を枕に、あどけない寝顔ですうすうと寝息を立てる織姫を、一護はそっと抱き締めた。
「何だよ、コイツ…酔っぱらいの癖に…。」

ぽつりと独りごちる一護。
酔っぱらいながらも、織姫がくれたのは一護が欲した言葉ばかりで。長々と一護が抱えていた不安を一掃してくれた。

それに比べて、眠りに落ちる間際に彼女が漏らした「本音」に、胸がギュッと締め付けられる。

彼女が酔って自分に抱きつくのは、酒癖などではなくて「本音」が出るからなのだ、と今更気が付いた。
普段、バイトやレポートに疲れている自分に遠慮して、自分からは決して甘えることをしない彼女の「本音」。

それを解ってやろうともせず、一人で勝手に格好つけたり、ウジウジしたり…。

一護は思わず自嘲気味に笑う。
それでも、自分の本音を吐き出して、彼女の本音を聞き出して、一護は身体が軽くなった様に感じた。
多分、この楽な感じが彼女とずっと一緒にいる理由なんだろう。

「ごめんな、織姫…。」

最近、彼女が眠っている時にだけ出来るようになった、名前呼び。これも目下、練習中。
いつかは、目を覚ましている彼女に呼び掛ける日を目指して。

婚約しながら未だに名字で呼びあっているなんて、それこそ他人から見たら笑われるのかもしれないけれど。
「…ん…もう少し…食べたいよう…。」

一護はむにゃむにゃと幸せそうに寝言を言う織姫を、そっと抱き上げベッドまで運ぶ。

本当なら、久しぶりに二人でゆっくりできる週末。
思う存分彼女と肌を重ねたいところなのだが、一護はその欲求を静かに心の内へと押し込んだ。

織姫を抱きたいという願いはかなわなかったが、それよりももっと大切な本音を交わらせることができたから。

二人でサイズや色、材質などを悩んでやっと選んだベッドに、一護もそっと潜り込んだ。
こんなに幸せな時間がすぐ近くにあることに、今更の様に安堵する。

自分の性格は簡単には変えられないから、多分これからもつまらない見栄や羞恥心に振り回されるのだろう。

それでも、自分達なりの幸せカタチを描いて、少しずつ進んで行けばいいのだ…と、そう気付かせてくれたのは…

世界でいちばん大切な、胡桃色の髪の眠り姫…。






《あとがき》

何か、いきなり謝ります。ごめんなさい…(T_T)

とりあえず、「anti-morals」の続編として婚約まで進んだ二人を書こう、ということと、冒頭の酔っぱらい織姫を一護が迎えに行くところだけが決まっていて、着地点が分からないまま書き出したらこんなことに…。
着地点が決まらないからタイトルも決まらず(英語にしようということだけ決めてましたが)、たかだか3ページを書くのにめちゃくちゃ時間がかかりました。
なのにこんな駄文です。続きを楽しみにして下さった方、すみません…トホホ。
気が向いたら、この後におまけを書き足しますので、よろしければ読んで下さいませ。


それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!



(2012.10.21)
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