時に愛は
…放課後。
夕べ、「明日は一緒に帰ろう」というたつきからのメールを受け取った織姫は、たつきが待っているという学校の武道館に来ていた。
「たつきちゃんと一緒に帰るの、久しぶりだな…。」
一護と並んで歩く帰り道は、切ない幸せに満ちていて胸がキュンとなるけれど、たつきとの帰り道は止まることのないお喋りがただひたすらに楽しい。
どちらも織姫にとってかけがえのない時間。
「たつきちゃん、いますか?」
織姫が武道館の入り口をそっと開けて中に入ると、しんと静まりかえった道場にいたのはたつきではなく一人の男子生徒だった。「あ、たつき先輩なら今着替えに行ってますから、よかったら中で待っててください!」
遠慮がちに中に入る織姫をその男子生徒がにこやかに迎え入れ、入り口を閉める。
織姫は、その男子生徒の名前は思い出せないものの、よくたつきと一緒に全校集会で表彰されていた、一つ年下の空手部のエースであることを思い出した。
「もしかしたらシャワーを浴びてくるかもしれないんで、そこにコートとか置いて座っててください。」
爽やかな笑顔に誘導されるかの様に、織姫は素直に彼の言うことに従い動く。
…しかし、純粋で人を疑うことを好まない織姫は、その男子生徒の真意に気付けなかった。
そして、自分がコートを脱ぎ、畳んでいる一瞬の隙にその男が入り口の鍵をかけたことにも…。
…その頃。
冷たい北風に背中を押される様に、一護は一人家路を急いでいた。
久しぶりにたつきと一緒に帰れると喜んでいた織姫を思い出す。
せっかくなら一護も一緒に帰らないかと織姫に誘われたが、女同士で話したいこともあるだろう…と一護はあえて身を引いたのだった。
「まあ、たつきが一緒なら大丈夫だろ。」
白い息と共に吐き出される、一護の呟き。
…しかし。
「あたしが、何だって?」
その呟きを拾った人物に、一護は驚きのあまり目を見開いた。
「…た、たつき?!」
後ろから近付いて来るのは、今織姫と一緒にいる筈のたつきだった。
「あれ、今日は織姫と一緒じゃないんだ?」
不思議そう言うたつきに、一護は慌てて答える。
「いや、今日はオマエと帰るって、アイツがそう言ってたから…メールも夕べ来たって言ってたぞ?!」
「そんなメール、送った覚えないけど?」
首を傾げるたつきに、一護はさっと顔色を変えた。
やられた…!!
「…たつき、昨日の夕方から夜にかけて、何処にいた?」「え?昨日は久しぶりに部活に顔を出して、ずっと身体動かしてたけど…。」
それだけ聞くと、一護はたつきに背を向けて学校に戻るべく走り出した。
「ちょっと、一護?!」
遠くに聞こえるたつきの声に答えることもせず、向かい風の中をひたすらに一護は走る。
織姫のアドレスを知っていそうな人物の中で、一護はたつきだけは大丈夫だろうと確認をしなかったのだ。
「くそっ、間に合ってくれ、井上…!」
祈る様に呟きながら、一護は学校への道を走り続けた。
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