時に愛は






「…なに、これ…?」

織姫の部屋で、封筒の中身を二人で確認する。

織姫が丁寧に切り開いた封筒から出てきたのは、十数枚の写真だった。

…被写体は、全て織姫。写真の時期は様々で、日常生活のヒトコマを切り取ったものもあれば、体育祭らしい体操服姿、文化祭で喫茶店の出し物をするメイド姿の織姫もいた。

「私、こんな写真を撮られた覚え、全然ないよ…!」
困惑する織姫に、一護が重く溜め息をつく。

「ったりめーだ。見てみろ、カメラ目線の写真が一枚もない。…つまりは、隠し撮りだろ。」
一護にそう言われ、はっとした織姫の表情が困惑から不安の色に変わった。

「何の為に、こんな…?」
織姫が消えそうな声でそう呟く。
「写真の数だけオマエが好きだって言いたいんじゃねぇの…?」

体育祭の写真をよく見れば、ハチマキの色やゼッケンの数字から今年ではなく去年の体育祭であることがわかる。
それだけ長い間、この犯人は織姫を想っていたということなのだろうが…。
一護が眉間にシワを寄せてその写真を手に取り、何気なく裏返す。
「…またかよ…。」

あからさまに、不快感を声に出す一護。
写真の裏には、『キミはボクのもの』とマジックで大きく書かれていた。
一護の手元を覗き込み、織姫が急いで他の写真の裏を確認すると、全ての写真の裏に同様の書き込みがされている。


「…どうして…?」
少しの静寂の後、織姫がやっとのことで声を絞り出した。

「どうして、こんなことするの…?」
「そりゃ…オマエが好き…なんだろうよ、コイツは。ただ、その表現方法はどうしようもなく間違ってるけどな…。」

織姫の独り言のような問いかけに、一護は静かに答えを返す。

「井上みたいないいヤツには理解出来ないだろうけど…恋愛感情が、方法を間違えると時には暴力になったり犯罪になったりするんだよ。コイツのやってることは、もう立派にストーカーだからな。」

散らばった写真を前に、自分の身体を支えるのが精一杯という感じの織姫を横に、一護は事態が自分の想像よりずっと悪い段階まで来ていると感じていた。

封筒には、切手も宛名もなかった。
ということは、恐らくは犯人が自らの足でここまで来て、ポストに投函したということ。…つまり、織姫の住まいが、相手に知られているのだ。

「なあ、井上…。今日ウチに泊まるか?」

暫く何かを考え込んでいた一護が突然そう言ったので、織姫はびっくりして一護を見ると慌ててふるふると首を振った。

「え、ええ?!い、いいよ、そんなの迷惑かけちゃう!」
「けどよ…何かあってからじゃ、遅いんだぜ?」

学校なら大勢の目があるから簡単には手が出せないが、アパートには織姫一人。何らかの方法で犯人が織姫に接触したら、全てが手遅れになる。

「ルキアの時だって、すぐに順応した家族だ。理由を正直に話すのが嫌なら、水道が壊れたとか、上の階からの水漏れが酷いとか、どうとでも言えるだろ。」

「でも…朽木さんは特別だから…。」
織姫が一瞬寂しげな表情を見せたことに一護は気付かず、そのまま言葉を続ける。
「ルキアが特別って言うなら、井上だって特別だろ。遊子も夏梨もオマエが来れば喜ぶし。…とにかく、まず今夜は俺の家に泊まれ。いいな?」

一護は、自分の言葉が織姫の胸の内を激しく揺さぶったことなど知らず、自分の携帯電話を取り出すと遊子と連絡を取り始めた。
「…ああ。じゃあ、今から井上を連れて行くから、晩飯よろしくな。」

呆然として自分を見る織姫を横目に、一護は彼女を黒崎家に泊める話をあっさりとまとめる。
通話の切れた携帯電話を指差しながら、一護は織姫に向かって呆れた様に笑って見せた。

「…親父達、井上がしばらく泊まるって言ったら、電話の向こうで万歳三唱してたぜ。な?遠慮することないだろ。」

「くろ…さき…くん…。」

未だ戸惑っている織姫の背中を一護はぽんと軽く叩く。
「ほら、直ぐに支度しろ。俺もさすがに腹がへった。あと一分で支度しねぇと、置いてくぞ。」
「え、ええ?一分?!」
一護に半ば強引に促され、織姫は慌てて支度を始める。
織姫は荷物をしまう手元が涙で時折滲むのを感じながら、今だけは一護の優しさに甘える決心をした。

…かくして、織姫はしばらく黒崎家に居候することになったのだった。





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