時に愛は〜その後のお話〜





「…それって、ぶっちゃけプロポーズみたいなモンじゃないの?」

当然とも言えるたつきの突っ込みに、織姫が弾かれた様に布団から飛び出す。

「ち、ち、ちが、違うの!だってまだ私達大学生だし!黒崎くんは卒業まであと4年もあるし!…た、ただね?『俺はそこまで考えてる』って、言ってくれたのが嬉しくて…その…。」

わたわたと手を振ってそう言う織姫に、たつきは思わず吹き出した。

「はいはい、分かったから、布団に戻りなさいな。」
「う、うん。ごめんね、たつきちゃん…。」

まだ火照っている身体をもて余しながら、ごそごそと再び布団に潜る織姫。
その横で、たつきは満足した様にほうっとため息を一つ漏らした。

「…なぁに?たつきちゃん。」
「ん?そりゃあ、一護も落ち着くわけだ、と思ってさ。今の織姫の話を聞いて、何か納得しちゃったの。」
「…?」

小首を傾げる織姫に、たつきはクスクスと笑い、天井を見上げた。

…一護は、その名の通り、生涯ただ一つ護るものを織姫に決めたのだ。

それは単純に織姫に近付く輩から彼女を護る、ということだけではなくて。彼女の帰る場所も、未来も、心さえも、全て護るということ。

織姫がこれから先幸せであるように、己の一生を賭けるということ。

「…男ってさ、基本的にどっかガキで、子供でしょう?それでもさ、本当に大事なものが出来ると、ブレなくなって落ち着くんだよ。芯が通る、って言うかさ…。」

たつきはそこまで言うと、手を伸ばして織姫の鼻をふにっと摘まんだ。

「ふ、ふえっ?!」
「この、幸せ者。」

たつきはにっと笑うと、織姫の鼻を解放する。
織姫は鼻を擦りながら、それでもたつきの発言を肯定する様に微笑みを返した。

「…うん、幸せ。」

その織姫の一言が、そして織姫の綺麗な笑顔が、たつきの心にじわりと染みる。

織姫の存在が一護を落ち着かせたように、一護の存在もまた、織姫を綺麗にしたのだ。

たった一人の肉親を亡くし、いつも、誰といても孤独と隣り合わせだった織姫。
沢山の友人に囲まれ、屈託のない笑顔を振り撒きながら、時折捨てられた子犬の様な儚い瞳で遠くを見ていたことを、たつきは知っていた。
織姫は、いつか独りぼっちになるかもしれない恐怖と、ずっと戦っていたのだろう。

…けれど、一護の存在が織姫をその恐怖から解放した。

勿論、健気で一途な織姫のこと。一護に出来る限りの愛情を注いできたのだろう。
その一方で、織姫がこれから先、もう独りになることはないと心から信じられるまでに、一護もまた織姫に愛情を注いできた結果が、目の前の織姫の笑顔にある。
揺らぐことない絆を一護と築き上げた織姫の、安堵と幸福に満ちた笑顔だから、こんなにも綺麗なのだ。

「…よかったね、織姫。」

たつきの声で紡がれる、あまりにもありふれた言葉。
けれど、たつきの心の底から溢れ出た喜びの想いは、織姫に十分届いていた。

「ありがとう、たつきちゃん…。」

織姫はふわりと笑うと、小さく欠伸を一つする。

「さ、もう寝ようか。こんな時間になっちゃったし。」

そう言われ織姫が時計に目をやれば、とっくに日付を跨いでいた。
身体を横に向けるたつきに、織姫はこくりと頷く。
「…ねぇ、たつきちゃん。」
「何?織姫。」
「明日は、たつきちゃんの恋バナ聞かせてよ。」
「はあっ?無いよ、そんなもん!」
「あ、慌ててる!怪しいな~。」
「無いって!」
「だって、たつきちゃんすごく綺麗になったもん!絶対、何かあるでしょ~?」
「無いってば~!」

…そうして、再び話に火がつく。
二人の長い夜はまだまだ続いたのだった…。





(2013.01.12)
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