時に愛は〜その後のお話〜






そして、織姫とたつきの話は尽きることはなく。
食事中も、お風呂の中でも、織姫が大好きなお笑い番組の最中でさえ、二人の会話が途切れることはなかった。

大学生活の話、バイトの話、友達の話、高校時代の思い出話…。
それでも、夜、眠る前に布団の中で話題になるのは、やっぱりオレンジの髪の青年の話。

「…なんか、一護のヤツすっかり落ち着いちゃってさ。ガキの頃から知ってるアタシとしては、嬉しいような悔しいような…複雑な気分なんだよね。」
「…そんなに変わったかな、黒崎くん。」
「織姫は毎日一緒にいるから気が付かないんだよ。まあ、一護を変えたのは織姫なんだろうけどね…。」
「そ、そうなのかな…?」

きょとんとした瞳で自分を見る織姫に、たつきは高校時代と変わらないあどけなさを見た。
他人の事には気を遣いすぎるほど敏感な癖に、自分の事には未だに子供の様に鈍感な織姫に、たつきは苦笑する。

「…まあ、あんたたちは喧嘩もなさそうだし、順風満帆だったんでしょ?」
また、織姫をからかうような口調でそう言ったたつきだったが、彼女の予想に反し織姫は少し困った様に笑って首を振った。ころんと仰向けになり、天井を見つめる織姫の口が、静かに開かれる。

「…けっこうね、ギリギリだった時もあるんだよ。そもそも学部が違うから、一緒の講義なんてほとんどなかったんだけど、それでも大学への行き帰りと週に一回のランチだけは一緒に…って頑張ってて…。でもお互いレポートや学部の友達との付き合いやバイトもあって、一緒の時間を持つのが苦しくなってきちゃって…。」
「…そっか…。」

織姫の話に、小さく相槌を打つたつき。

「私はね、黒崎くんに会うためなら、時間を捻り出す努力を喜んでするけど…。でも黒崎くんはそうじゃないのかもしれなくて。私もしかしたら『重い』存在なのかなって、離れた方が黒崎くんも楽なのかなって、悩んだりして…。」
「…織姫らしい悩み方だね。」

おそらく、一護が織姫を「重い」などとは口にも態度にも出す筈がない。
それでも自分より相手の立場や思いばかりを推し量る癖のある織姫にとっては、辛い時期だったのだろう。

「ちょうどその頃に、空座のアパートを立ち退く話が出てきてね。どうしたらいいのか本当に分からなくなって…。」たつきは織姫の話を聞きながら、仕方のないこととは言え、親友が辛い時期に側にいられなかった自分に歯痒さを覚えた。

「大学の側に引っ越す方が、どう考えてもメリットがあるのは分かってたんだけど…そしたら、私が空座町に戻りたいと思っても、もう帰る場所がなくなっちゃうって思って…それが怖くて、ずっと悩んでたの。」

たつきの目には綺麗に映る大学生用に作られたこのアパートでの新生活も、織姫にとっては苦渋の決断だったのかもしれない、とたつきは初めて知る。

「じゃあ、何で大学の側に引っ越すって決めたの?」

もっともなたつきの問い掛けに、織姫はたつきの方へ向き直るとはにかんだ様に笑って見せた。

「うん、黒崎くんに悩んでること話したらね…大学の側に私が住んだら、時々は俺がここに泊まるからって。そうしたら夜の間ずっと一緒にいられるって。もし空座に帰りたくなったら、その時はいつでもウチに泊まりに来ればいいって、言ってくれたの。」

そこまで言うと、織姫は顔を僅かに赤くして、布団に鼻先まで潜る。
「そ、それでね、私が『黒崎くん家にあんまり迷惑かけるわけにはいかないよ』って言ったらね…『いずれ俺のウチがオマエにとっても実家になるんだから、ウチに帰ればいい』って言ってくれて…。」

そこまで言うと、織姫は恥ずかしさから布団に潜ってしまった。






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