時に愛は〜その後のお話〜






「あ、黒崎くん。せっかくだから、コーヒーでも飲んでいって。」

そう言って立ち上がろうとする織姫を一護が制して立ち上がる。
「いや、せっかくたつきといるんだし、二人で喋ってろよ。自分でやるから。」

そう言って一護はキッチンへ行くと、まるで自分の家の様にコーヒーを淹れ始めた。

「織姫がコーヒーメーカーなんておかしいと思ってたんだけど…やっぱりそのコーヒーメーカー、一護が持ち込んだんだ。」

たつきがニヤニヤしながらそう言う。
その実、一護が持ち込んだであろう物はコーヒーメーカーだけではない。ぐるりと部屋を見回せば、食器や生活雑貨など、一護がこの部屋で暮らせるだけの物が一通り揃っている。

「まだこのアパートに越してきて4か月ぐらいでしょ?すっかり二人の愛の巣じゃん。」
「た、たたたたつきちゃんっ!」
「…いいんだよ、俺がしょっちゅう泊まればヘンな虫も寄ってこねぇだろ。」

顔を真っ赤にしてあわあわと手を振る織姫の横に、コーヒーを手にした一護がやはり平然と答えて再び腰を下ろす。

「特にコイツはストーカーまがいに狙われた前歴もあるしな。」織姫の頭をぽんぽんと叩きながら、一護はコーヒーを啜った。

「ああっ、もう!あの時はアタシも悪かったって反省してるわよ!」
「た、たつきちゃんは何にも悪くないよ?それにもう2年も前のことだし…。」
バツが悪そうに頭をかくたつきに織姫が慌ててフォローを入れる。

「ま、ヘンな奴が井上に近づきゃ、俺が即シメるだけだけどな。」
一護らしい口調ではあるが、要は織姫は自分が護るのだ、ということ。
たつきは、この短い時間に幾度も自覚なくのろける一護に呆れた様に溜め息をついた。

あの、織姫の恋心になんてまるで気付かず、周りをやきもきさせていた一護がねぇ…。
たつきはそんな風に高校時代を思い返し、くすくすと思わず笑い出す。
「あ?何だよ、たつき。」
「んー、別にぃ。」

たつきの思い出し笑いに一護が眉間に皺を寄せたが、たつきはにやっと笑って誤魔化したのだった。




「…さて、じゃあ俺はそろそろ帰るよ。」
しばらく談笑したのち、時計を見た一護がそう言って腰を上げた。

「え?もう?」
思わずたつきが声を上げる。「いつも遊子に帰りが遅いって嫌な顔されるんだよ。夏休みの間ぐらいは夕飯の時間に帰らねぇとな。」

一護は部屋の隅に置いてあった鞄を手に取ると、下駄箱でスニーカーに足を突っ込みながらそう言った。
一護の事情を十分に分かっている織姫は、一護を見送るべく黙って立ち上がる。

「…あのさ、一護。」

扉を開けようとする一護の背中に、たつきが呼び掛けた。

「何だよ?」
振り返る一護と彼の隣に寄り添う織姫を見て、たつきは悪戯っぽく笑う。

「織姫のこと、頼んだよ。…あと、織姫は学校の先生になるのが昔からの夢なんだからね。間違っても妊娠して大学を寿中退、とかはやめてよね。」
「た、たたたたたつきちゃんっっ!」
「おう、その辺りには細心の注意を払ってるから心配する必要ねぇよ。」「く、くくく黒崎くんっっ!」

ゆでダコの様に真っ赤になって二人の間でおろおろと慌てる織姫。
しかし、やはりさらりと言葉を返す一護に、たつきはわざとらしく両手を頭の後ろに組んで見せた。

「あーあ、つまんない。一護も織姫ぐらい慌ててくれれば面白いのに。」さして残念そうでもなくそう言ってちらりと自分を見るたつきに、一護もにっと笑って見せた。

「そういう冷やかしは、大学で井上と一緒に入ればいくらでもあるからな、さすがに慣れたんだよ。…まあ、未だに慣れないヤツもいるけどな。」
そう言う一護を、隣に立つ織姫が眉を八の字にして見上げる。

「うう、だって、だって…。」
「あはは、織姫はそれがらしくていいんじゃないの?」
「た、たつきちゃんまでぇ…。」

ぷっと膨れる織姫の頭をぐしゃぐしゃとあやすように撫でると、一護は片手を上げた。

「じゃあな、たつき。井上、また明日な。」
「…うん、また明日ね。黒崎くん。」
「またね、一護。」

一護に頭を撫でられて素直に機嫌を直した織姫とたつきに見送られ、一護は織姫の部屋を後にした。





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