時に愛は〜その後のお話〜







《大学生活のお話》


「よお、たつき!久しぶりだな!」
「あ、一護!相変わらず元気そうじゃん。」
「黒崎くん、お帰りなさい。集中講義お疲れ様。」

大学生の長い夏休み。
今日は織姫のアパートに久しぶりにたつきが泊まりに来ている。
一護は大学での集中講義の帰り、せっかくだからと織姫に誘われ顔を出していた。

「どれくらいぶりだ?随分会ってない気がするけど…。」

テーブルを挟みたつきと向き合って座っている織姫の横に腰を下ろしながら、一護が懐かしそうにそう言う。
高校時代と比べると少年らしさが抜け肩幅も少し広くなった一護は、たつきの目にも逞しい青年として映っていた。

「う~ん…。成人式以来だから…もう半年経ってるのかな。」
「たつきちゃんに会うの、私も久しぶりだもん。たつきちゃん、また美人になったよね!」
「はいはい、ありがと織姫。」

確かにたつきも多少の化粧を覚え、動きやすさの中にも女性らしさを感じる衣服を身に纏うようになった。
しかしながら、たつきにしてみれば織姫の方がはるかに綺麗になったと感じていた。そもそも高校時代から十二分に可愛らしかったのだが、大学生になりそこに大人の色香が加わって同性の自分でもドキリとしてしまうほど織姫は綺麗になっていた。

そして織姫を綺麗にしたのは間違いなく、隣に座っている幼なじみ。

自分の知らない間にどんどん深まっていく二人の関係に、たつきは安心する一方で多少の寂しさを感じていた。

勿論、どんなに距離が離れても織姫や一護との友情に変わりはない。
それでも、大切な二人が変わっていく様をすぐ傍で見られないことが、何となく悔しい気がするのだ。

「織姫が空座を出て大学の側のアパートに引っ越したって聞いて、びっくりしたよ。何となく、織姫は空座を離れないって思ってたからさ。」

たつきは、己の複雑な思いを断ち切る様にそう言いながら部屋をぐるりと見回した。

「まあ、仕方ねぇよな。あのアパート追い出されちまったんだから。」

織姫は大学2年の終わり頃、アパートを今時風に改装したいという家主の希望により、長らく暮らしていた部屋を退去せざるを得なくなった。
愛着ある空座の町を出るべきか随分と悩んだ織姫だったが、一護に背中を押され最終的に大学のすぐ近くのアパートに引っ越したのだ。

「空座を出るのは正直迷ったけど、通学の往復にかかる時間をバイトや勉強に当てられるから、今となってはよかったと思ってるよ。」

にっこりと笑ってそう言う織姫に、たつきは悪戯っぽく笑って返す。

「…とか言って、本当は一護と一緒にいる時間を確保したかっただけじゃないの?ここなら大学帰りに一護も寄りやすいしね~。」

たつきのその台詞に、織姫の顔が真っ赤に染まった。
「た、た、たつきちゃん!」
「…しょうがねぇだろ、そうでもしなきゃお互い忙しくてなかなか会えないんだからよ。」
「…うわ、あっさり認めたよ。」

慌てる織姫の横で、一護が実にさらりと肯定してみせたことに、たつきは驚く。
恋愛にはまるで免疫がない高校時代の一護なら、織姫と同じ様に真っ赤になって憎まれ口の一つも叩いたに違いないのに。
織姫と過ごす2年の歳月が、一護に経験と余裕を与えたのか…。
慌てる初々しい姿が高校時代とまるで変わらない織姫の横にいるせいもあってか、たつきの目に一護はより大人に映ったのだった。






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