時に愛は〜その後のお話〜
皆が見守る中、ごそごそと紙袋を覗く一護の動きがぴたりと止まる。
…そのまま数秒、固まって。
「…こんの、エロ親父!ふざけんじゃねぇ!!」
そう叫んで立ち上がると同時に繰り出された一護の拳は、一心に届くことなく空振りに終わる。
それと言うのも、この展開を予測していた一心が既に席を離れていたからだった。
「どうだ一護、大人になるおまえに相応しいプレゼントだろう?」
「大人の意味が違うだろボケ!」
逃げ回る一心を一護もまた立ち上がって追いかける。
織姫達は訳が解らず、唖然としてその光景を眺めていた。
「息子の合格祝いにコン…じゃねぇ、こんなモン渡す親がどこにいるってんだ!」
「わーはっはっ!お前は少なくとも6年は学生だからな!織姫ちゃんの為にもしっかり家族計画せんとな!」
「そういう単語を出すな、クソ親父!」
一護の拳をひらひらとかわしながらそう言う一心に、夏梨が頭を抱えた。
「…アタシ、わかっちゃったかも…アレの中身。」
「え?!すごいね、夏梨ちゃん!」
「全然分からないよ?」きょとんとした織姫と遊子の顔が並ぶその光景はまるで姉妹のようで。「…織姫ちゃんが分からないのは問題だと思うけど…。」
「そ、そうなの?」
好奇心から紙袋をこっそり覗こうとする織姫と遊子に、一護が慌てて戻って来ると二人から紙袋を奪う。
「お、オマエらは見るな!」
「見ちゃダメな物なの?黒崎くん。」
「わっはっは、心配しなくても織姫ちゃんは近いうちに見ることに…。」
「余計なこと言うな!このクソ親父!」
一護の勢いに圧倒されながらも無邪気にそう言う織姫に言葉も返さず、一護は居間へと逃げて行った一心を再び追いかけ始めた。
そして、しばらくして居間の奥から聞こえてきたのは、一心の悲鳴。
「…あ、捕まった。」
「ねぇ、織姫ちゃん。先に食べて待ってようよ。」
「え?でも…。」
「いつものことだし、料理が冷めちゃうし。今回は、一兄の制裁も長そうだから。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
にっこりと笑う遊子と夏梨に、織姫も頷く。
そうして三人で箸を手に取り、食事を始めた。
「すっごく美味しいよ、遊子ちゃん、夏梨ちゃん!」
目を輝かせて料理に舌鼓を打つ織姫に、遊子が嬉しそうに笑う。その横で唐揚げに箸を伸ばしながら、ふと思い付いた様に夏梨が織姫に話しかけた。
「ねぇ織姫ちゃん、明日、暇?」
「…うん、特に予定はないよ。」
織姫はフルーツサラダを皿に取りながら頷く。
「もしよかったらさ、明日、お母さんのお墓参りに一緒に行かない?…一兄を合格させてくれてありがとうって。」
「それいいね、夏梨ちゃん!」
夏梨の提案に、遊子も両手を上げて賛成した。
「…いいの?私が行っても…。」
戸惑う織姫に、夏梨は悪戯っぽく、遊子は無邪気に笑う。
「やっぱり、一兄がN大の医学部に合格するなんて、お母さんの力が働いたとしか思えないし。」
「それに、お兄ちゃんに彼女ができましたって報告もしたいし、ね!」
二人のその言葉に、漸く織姫も笑顔になった。
「…ありがとう。じゃあ、明日私も黒崎くんのお母さんに会いに行きたいな…。」
「うん!行こう!」
「そうそう!どうせ今日はウチに泊まるんだからね!」
居間で未だに格闘を続ける一護と一心をよそに、織姫と双子達は温かく楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。
「いいか一護、ヒニンは男の義務…ぐええっ!」
「マジで息の根止めてやるぞ、この変態親父!」
(2013.01.05)