時に愛は〜その後のお話〜






「わあ…すごい!」

織姫が思わず感嘆の声を漏らす。
一護と織姫が食卓を覗くと、『お兄ちゃん、織姫ちゃん、N大合格おめでとう!』と大きく書かれた紙が壁に貼られていた。
勿論、テーブルの上にも遊子と夏梨が腕を奮った料理がところ狭しと並んでいる。

「すげぇな、遊子、夏梨。」
素直に喜ぶ一護に、夏梨がにかっと笑った。
「でしょ?良かったよ、パーティーの食材が無駄にならなくてさ。」
「…一言余計なんだよ。」

夏梨の頭を軽くこつんと小突きながら、一護もまたにっと笑って返す。

「ささ、お兄ちゃんも織姫ちゃんも座って座って~!」
遊子に促され、二人は嬉しそうに椅子に座った。

「いっちごぉ~、織姫ちゃ~ん、合格おめでとう~!」
「…来たな、親父…。」「あの、おじさま、ありがとうございます。」

ハイテンションな一心に冷たい視線を送る一護の横で、織姫は立ち上がるとぺこりと頭を下げる。
「いやいや、これくらいはさせてくれ!一護が早々にフラれない様にせんとな!」
「ぐっ…うるせぇ、クソ親父。」
がっはっは、と豪快に笑い、一心もまた椅子に座った。「全く、一護がN大に受かったことといい、織姫ちゃんが彼女になってくれたことといい、最早黒崎家の七不思議の2つが埋まったな!」

ゲラゲラと笑いながらそう言う一心を、一護が不服そうに睨む。
「…それを言うなら、お袋が親父と結婚した事が既に七不思議だろうが。ちったあ息子の合格を素直に祝えねぇのかよ、ヒゲ。」

それでも一護が強く言い返せないのは、内心一護自身も『よく受かったな』と思う部分があるからなのだが。
そんな一護を見つめながら隣で織姫がふわりと言った。

「…もしかしたら、黒崎くんのお母さんが、空から応援してくれたかもしれないね。私も、物事が上手く行き過ぎたりした時は、きっとお兄ちゃんが空で魔法を使ってるんじゃないかなって思うもの。」
「…井上…。」

いかにも織姫らしい解釈に、一護が感心したように声を上げた。
一護が隣に視線を向ければ、そこには綺麗に微笑む織姫。
一護と一心の間に流れていた空気の色が、織姫の一言で穏やかな温かいものに変わる。
これこそ、井上の魔法なんじゃねぇの…と一護は心で呟いた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、織姫ちゃん!食事の前にね、二人に渡したいものがあるの!」

遊子と夏梨が嬉しそうに顔を見合せると、椅子の後ろからごそごそと手のひら程の包みを取り出した。

「はい!二人に合格のお祝いプレゼントだよ!」「えっ…!」
「こんなモンまで用意してくれたのか?」

差し出された包みを驚きながら受け取り、一護と織姫が封を開けると、中に入っていたのは定期入れ。
一護のはダークブラウン、織姫のはピンクベージュで、デザインはお揃いになっている。

「二人とも、電車通学になるから、絶対必要でしょ?」
「もう大人だから、ちょっと渋いデザインのを選んだんだよ。ちゃんとお小遣いで買ったからね!」

誇らしげにそう言う遊子と夏梨に、一護も織姫も素直に感激した。
「…サンキューな、二人とも。」
「ありがとう。絶対、大事に使うからね。」

一護と織姫の感謝の言葉に、遊子も夏梨もくすぐったそうに笑う。

「よぉし!じゃあお父さんも二人へのプレゼントを渡そうじゃあないか!」
四人の作った温かい雰囲気に何とか自分も入り込もうと、一心が声を上げた。

「は?!親父も?!」「え?おじさまも?」

一心の言葉に、織姫は純粋に驚き、一護はまたろくでもないモンを出すんじゃないかと疑いの声を上げる。

「そう、大人になる二人に相応しいプレゼントを用意したぞ!」
そう言いながら、一心はまず織姫に小さな紙袋を差し出した。

「あ、ありがとうございます…。」
戸惑いながら織姫がその袋を開けると、中に入っていたのはピンク色の口紅。

「おじさま、これ…。」
「織姫ちゃんはすっぴんでも十分可愛いがな、大学生ともなれば少しずつ化粧も覚えんといかんだろう?」
驚きで目を見開いていた織姫の表情が、次第に柔らかいものへと変わる。

「…ありがとうございます。」
深々と頭を下げる織姫。
親指をぐっと立ててウィンクする一心に、一護は冷ややかな視線を送りながらも内心まともな贈り物にほっとしていた。

「次は、一護へのプレゼントだな!」
一心は何やら小さめの箱が入っているらしい紙袋を取りだし、ニヤニヤしながら一護に差し出す。
「…何だよ、俺にはチョコレート一箱とかじゃねぇだろうな…。」
何となく嫌な予感がした一護は、いきなり紙袋を開けるのをやめ、テープを器用に剥がすとこっそりと中を覗いた。




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