時に愛は〜その後のお話〜






…そうして、織姫の涙が止まるまで大学構内のベンチに二人で腰掛けながら、一護はケータイを取り出しまず家に連絡を入れた。

『…合格?!本当に?!お父さん、夏梨ちゃん、お兄ちゃん合格したって!』
電話に出た遊子があまりに興奮して話すので、隣にいる織姫にも会話の内容が全て理解できる。

「おう、勿論井上も一緒に受かったから。」
『わわわ、やったー!お兄ちゃん、今日は合格お祝いパーティーだよ!織姫ちゃんもお泊まりセット付きで絶対に連れてきてね!』
「…だそうだ、井上。聞こえたろ?」

視線で返事を促す一護に織姫は嬉しそうににっこりと笑うと、一護のケータイの電話口に顔を寄せ、「ありがとう。楽しみにしてるね!」と告げた。

遊子との会話が終わり、今度は織姫が鞄からごそごそケータイを取り出す。
「私も、たつきちゃんに電話しよう!」
「そうだな、もう進路決まってるヤツには、メールでもするかな。」

そうして二人で親しい仲間に合格の連絡を入れ、そのあとはせっかく来たのだからとキャンパス内を歩いて回ることにした。


大学構内は、既に新入生歓迎ムードだった。サークルの宣伝ビラを配っている大学生。
大学の側にあるアパートの斡旋をする業者。
大学生協では、新生活に必要な物を早速売り出していた。

「…もうすぐ、ここに通うんだな…。」
「うん。何か夢みたいだよね…。広すぎて、何だか迷子になりそう。」
「もし井上が迷子になったら、いつでもケータイで俺を呼び出していいからな。保護者として。」

にやっと笑ってそう言う一護に、織姫はぷうっと頬を膨らませる。
「もう、本当に迷子になんてならないもん!」
「どーだか。」

織姫をからかう一護に、文句を言いながらも嬉しそうに寄り添って歩く織姫。

…当人達にまるで自覚はないが、大学構内でオレンジ色と胡桃色が仲良く並んで歩く姿は実はとても目立っていて。
二人は入学前から、大学構内で公認のカップルになっていたのだった…。






「お兄ちゃん、織姫ちゃん、N大学合格おめでとう~!」

高校への報告を終えて黒崎家に二人で戻ると、笑顔で遊子と夏梨が迎えてくれた。
「おう、サンキュな。」一護がくしゃくしゃと遊子と夏梨の頭を撫でる。

「お邪魔します。夕食の支度、何か手伝えることあるかな?」織姫がそう申し出ると、夏梨がふるふると首を降った。
「だめだよ!織姫ちゃんはお祝いされる側なんだから。私達が呼ぶまで、一兄の部屋でくつろいでてよ。」
「え、でも…。」
「そうそう!のんびりしてて!お兄ちゃんもだよ!」

どうやら、遊子も夏梨も二人には見せたくないものがあるらしい。

二人に背中を押されるように階段を上った一護と織姫は、そのまま一護の部屋で夕食までの時間を過ごすことになった。





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