時に愛は〜その後のお話〜






《合格発表の日のお話》


「…着いちまったな…。」
「う、うん…。」

ごくりと小さく喉を鳴らしてそう言う一護に、織姫が小さく頷く。

二人は今、N大学の門にいた。
一護と織姫の横をすり抜け、多くの高校生がこの門をくぐり、続々と大学校舎へと続く坂を登っていく。

その先にあるのは…受験の合否が貼り出された、運命のボード。

…一護と織姫、二人の想いが通じあった日から、一緒にN大学に通うため、お互い合格に向けて必死に勉強してきた。

特に一護はセンター試験の点数があまりよくなかったこともあり、織姫に宣言した通り死に物狂いで机に向かった。
当たれる過去問にはすべて当たったし、できることは全てやった、と言えるところまで努力したつもりだ。

…その成果が実を結んだのか、一護は試験当日もそれなりに手応えを感じることができたのだ。

「…行くか、井上。」
「…うん、黒崎くん…。」

決心したように低い声でそう織姫に呼び掛ける一護に、織姫もまた意を決して答える。
そして、他校の生徒に交じり二人もまた坂を登り始めたのだった。
「ど、ドキドキするね、黒崎くん…。」
「井上は絶対大丈夫だから、安心しろ。」

黙って歩くと気持ちが負けてしまいそうで、二人は坂をゆっくりと登りながら言葉を交わす。

「でも、黒崎くんは私立の滑り止め、受かってるでしょう?私は私立、受けなかったから…。」
「けど、N大確実に合格圏なのは井上の方だからよ…。」

織姫も一護も、それぞれ拭い切れない不安を抱えたまま、気が付けば目の前には高校生の人だかり。
彼らの視線は、さらに前に掲示されている数字の羅列に向かっている。

そして人混みの中では、両手を挙げて喜んでいる男子生徒や笑顔で友達と抱き合っている女子高生がいる一方で、堪えきれない涙を拭っている女子高生もいた。

彼女の涙は、嬉し涙なのか、それとも…。

一護も織姫も、数分後の自分の姿を重ね合わせてごくりと唾を飲み込んだ。
それでも、いつまでも逃げている訳にはいかない。
二人はそれぞれの鞄から、自分の受験票を取り出した。

「…行くぞ、井上。」
「…はい…!」

一護と織姫は、目の前の高校生の一団に加わり、自分の受験票と合格発表のボードを見比べ始めた。

「…68750…68752…。」
隣でそう小さな声で呟く織姫の声を聞きながら、一護もまた自分の番号を探して視線を上下へと走らせる。

…そして。

「…あ、あった…!」

そう、二人同時に叫んだ。
そして相手の声に、お互い隣の顔をばっと見る。
「井上も、受かったんだな?!」
「黒崎くんも、受かったんだね?!」

これまた同時に叫び、お互いの合格を確信した、直後。

「ふぇぇ…よかったよ~。」
織姫の顔がふにゃふにゃと崩れ、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「…なんつー顔してんだよ…。」
「だって、だって…。」
ぷっと吹き出す一護に、織姫が涙を懸命に拭きながら言葉を返す。
喜びと安堵を抑えきれず、織姫は顔と握り締めた受験票をくしゃくしゃにして笑い泣きしていた。

勿論、泣きこそしないものの合格に喜び安堵しているのは一護も同じで、緊張と不安でガチガチになっていた身体が漸く弛んでいくのを感じていた。

「…なあ、井上。」
一護は、目を赤くして自分を見上げる織姫に、もし合格していたらいちばん最初に伝えようと思っていた言葉を口にする。「…ありがとな、井上。俺、井上のおかげで合格できた。」

その言葉に、織姫が慌てて首を振った。
「ち、違うよ!頑張ったのは黒崎くんだもん!それに、私も黒崎くんのおかげで頑張れたの!だから、こちらこそ、ありがとう…。」

泣いた後の少し赤い顔で、それでも綺麗に織姫が微笑む。
その笑顔に、一護は人目も憚らず織姫の肩をぐっと抱き寄せると、耳元でそっと囁いた。

「なあ井上…これで俺と、付き合ってくれるか?」

既に赤かった織姫の顔が、一護のその声にかああっと更に真っ赤に染まる。

「…は…い…。あの、喜んで…です…。」

そこまで言うと、織姫は再び喜びの涙をこぼし始めたのだった。





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