時に愛は〜その後のお話〜
「「「「…あ。」」」」
四人同時に、そう声を上げる。
一瞬部屋中の時が止まった様に、その場にいる全員が固まった。
…咄嗟の時に上手く身体が動かないのは、誰しも同じな様で。
一護と織姫は大慌てて離れたものの、残念ながら遊子と夏梨にばっちり抱き合っている現場を見られた後だった。
「え…あ、あの!お夜食ここに置いておくね!お、お邪魔しました!」
ガシャンと乱暴に夜食が乗ったお盆を机に置くと、遊子はギクシャクしながら扉を閉めた。
…数瞬後。
「お父さん!お父さーん!お兄ちゃんと織姫ちゃんがぁっ!」
「ち、ちょっと待て、遊子!親父には言わなくていい!」
階段をドタドタと降りながら叫ぶ遊子を追いかけ、一護も部屋を飛び出す。
部屋には、どうしてよいのか解らず座り込んでいる織姫と、飲み物の乗ったお盆を手にしたままの夏梨が残った。
「えーと…。」
夏梨がお盆をゆっくりと机に置き、ポリポリと頭をかく。
「あの…ご、ごめんね…?」
「…謝らなくていいよ、織姫ちゃん。」
申し訳なさそうに謝る織姫に、夏梨は首を振った。
「でも…嫌だったでしょう?」「別に、嫌じゃないよ。そりゃびっくりはしたけど、何となく二人はそんな関係なんじゃないかなって思ってたし…。遊子とも、『織姫ちゃんが本当にお姉ちゃんになってくれたらいいな』って話してたぐらいだから。」
夏梨は織姫の横に腰を下ろし、にっこりと笑ってみせた。
「でも、二人とも黒崎くんのこと、大好きでしょう?」
「まあ、遊子は寂しい気持ちと嬉しい気持ちが半々かもしれないけど、私たちだってもう子供じゃないし、ね。…で、いつから付き合ってるの?」
遊子と夏梨を気遣ってなかなか表情の晴れない織姫に、夏梨は悪戯っぽくそう尋ねる。
途端に織姫の顔がかああっと赤くなった。
「えっと…き、今日から、かな?あ、でも二人で一緒にN大に受かったら付き合おうって言われたから…まだ未然形かな?」
「そっか、じゃあ一兄は必死で勉強しなきゃね。」
例え相手が年下の夏梨でも下手な誤魔化しはせず正直に話す織姫を、夏梨はますます好きになる。
「ねぇ、織姫ちゃん。もし二人一緒にN大に受かったら、ウチで合格のお祝いパーティーしよう!そのとき、またウチに泊まってよ!ね?」「…夏梨ちゃん…。うん、ありがとう…。」
自分を一護の恋人として受け入れてくれたことが嬉しくて、織姫は目を潤ませながら頷いた。
「…でも、気をつけてね、遊子はノックするのすぐに忘れるから。階段上る足音、聞こえなかった?」
「そ、それがその…そこまでの余裕がなかったといいますか…え~ん、夏梨ちゃん、もう許してよう…。」
ニヤニヤしながらそう言う夏梨に、織姫が困惑しながら対応していた、その頃。
「どうした、遊子!一護と織姫ちゃんが、部屋で何をしてたんだ?!」
「あのね、あのね…むぐむぐっ!」
「だから、言わなくていいっつってんだろ、遊子!」
「さては一護、織姫ちゃんに良からぬことを…ぐはっ!」
「何嬉しそうな顔で抜かしてんだクソ親父!」
一階では、一護が必死に遊子の口を塞ぎながら、一心に蹴りを入れていた。
二次試験まで、残された日数は決して多くない。
それでも、「死に物狂いで勉強する」と誓った一護が本当に勉強に身を入れるのは、明日からになりそうである…。
(2012.12.26)