時に愛は






「じゃあね、今日は本当にありがとう!」

自分のアパートへ帰ろうと一護に背を向ける織姫に、一護は思わずベンチから立ち上がった。

「待てよ、井上!」

一護に呼び止められ、織姫がゆっくりと振り返る。
一護の真剣な表情に惹き付けられる様に、織姫もまた揺れる瞳に一護を映した。

一護は視線を僅かに落とし、ぽつぽつと話し始める。
「あのさ…今日までは、ウチに泊まっていけよ。その…遊子も、もうオマエのぶんまで夕食作って待ってるだろうし、突然オマエが来ないって言ったらがっかりするだろうし…さ。」
「黒崎くん…。」

一護はそこまで言うと、織姫の前で大きく深呼吸をした。
2、3回白い息を大きく吐き出した後、一護は決心した様に織姫を見つめる。

「あとな、俺も、井上にどうしても伝えたいことがあるんだ。」
「え…?なあに…?」

小首を傾げる織姫を前に、一護は己に誓いを立てるかの様にはっきりと宣言した。

「俺…N大受けるよ。」

織姫の目が、溢れそうなほど大きく見開いていく。
「俺、正直センターの点数よくねぇし、めちゃめちゃ厳しいのは解ってる…けど、今から死に物狂いで勉強して、絶対に合格してみせる。だから…。」

一護はぐっと拳を握り締める。

「だから、もし一緒にN大に合格できたら…俺と付き合ってくれ、井上。」
「…くろ…さき…くん…。」
「…俺、井上が…好きだ。」

織姫の手からするりと抜け落ち、ドサリと音を立てて地面に落ちる鞄。
見開かれていた織姫の目から、ぽろぽろと大粒の滴が溢れる。

一護がその涙の意味を尋ねるより先に、織姫は彼の腕の中に飛び込んでいた。

「…井上…。」

一護の胸に顔を埋め、ぎゅっとしがみつく織姫に、一護は自分の想いが受け入れられたことを知った。
そのまま彼女の身体に腕を回し、柔らかい髪をそっと撫でる。

「…泣くなよ…。」
「…ひっく、だって、だってっ…ふぇっ…。」

涙と共に溢れだした感情を止めることができず、織姫は泣きじゃくった。

「本当に…?本当に、一緒にN大に行けるの…?卒業した後も、黒崎くんと一緒にいられるの…?」

赤い目で一護を見上げ、信じられないという様に織姫が泣きながらそう言った。
「…そうなれるように、頑張るよ。今までずっともやもやしてたんだけど、井上がさっき言ってたのを聞いて思ったんだ。俺もオマエを想う気持ちで不可能を可能にしてやる…って。」
「黒崎くん、本当はね、ずっと怖かったの。卒業して、黒崎くんに会えなくなるのが怖くて心が痛かったの…!」
「…そうならねぇように、死ぬ気で頑張るよ。」「…うん…私も頑張る…。」

綺麗な笑顔で自分を見上げる織姫に、一護もまた柔らかい微笑みを返す。
織姫の頬を伝う一筋の涙を親指でそっと拭った一護は、触れた織姫の頬が随分と冷えていることに気が付いた。

「やべぇ、これから頑張ろうって時に、風邪ひいちまうな。さ、帰ろうぜ。俺のウチにな…。」
「…はい…。」

一護は思いきった様に織姫の手を取ると、指を絡めてぎゅっと握った。
びくんっと電気が走ったかの様に織姫が反応し、一護を見上げる。

「冷たい手してんな。」
そっぽを向いて照れた様にそう言う一護に、織姫もまた顔を真っ赤に染めながら一護の手を握り返した。

「黒崎くんの手は、温かくておっきいね…。」
「井上の手がちっせえんだよ。」
そう言いながら一護は行く先を見る。
続く道のその先、ずっと向こうまで澄んで見えるのは、冬の空気が綺麗なせいだけではない…と一護は思った。

「さ、帰るか。」
「うん!」

きゅっと固く手を繋ぎ、二人は黒崎家への道を歩き出す。

この一歩が、お互いの望む未来へ繋がっていると信じて。

そして来年の今頃も、こうして二人で並んで歩いている未来を思い描いて…。







《あとがき》

無事に書き終えました!いかがだったでしょうか?
多分、王道的なネタだと思うので他のサイト様と内容が被ってないか心配ですが。

リクエストをいただかなければ浮かぶことのないネタでしたので、双子の母親様には感謝感謝です!
そして、この話のエピローグですが、あまりにあれこれ思い浮かぶので(笑)、関連小話として新たに章を立ち上げる予定です。どれも甘口イチャイチャな内容になる予定ですので、そっち系がお好きな方は楽しみにしててくださいね!

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!


(2012.12.23)
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