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生物委員会委員長
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数週間ぶりの学園には、慣れ親しんだ空気と人影と、決してあるはずの無い気配があった。
・
放課後の学園の敷地内は、日毎に大きく色を変える。今日は委員会活動も無く、各々自由に過ごせる日だった。
鍛錬や勉学に勤しむ者、敷地外に用事を済ませに出る者、長屋に帰ってだらりと過ごす者、様々に存在してそれなりに活気のある時間帯のはずだが、ここ暫くは閑散としている。
きり丸は、反故になってしまった予定の分あり余った時間を潰す良い方法が思いつかずに、長屋の廊下に座って脚をぶらつかせていた。
「摂津」
「えっ? ああ、狗山先輩」
音も無く歩み寄ってきたのは、六年ろ組、生物委員会委員長の狗山雨彦だった。
高い背丈に鋭い眼差しが人を寄せ付けない印象を与えるが、接してみれば愛想良く振る舞うのが苦手なだけで穏やかな人物であることがすぐ分かる。要は、良き先輩だ。
何週間もかかる忍務から戻ってきたばかりの雨彦は、ここ数日、時間があればずっと学園内を散策している。
「一人か。珍しいな」
「そうなんすよ。本当だったら中在家先輩たちにバイト手伝ってもらう予定だったんですけど」
「……なるほど」
きり丸の言葉を聞いて、雨彦は顎に手を当てて視線を巡らせた。
反故になってしまった予定とは、先輩らの協力を得てのアルバイトのことだった。彼らとのバイトは何も初めての事ではない。きり丸だって、彼らが自分より忙しいことなんて重々承知の上だったから、丁寧に予定を擦り合わせて取り付けた約束だった。
それが、無くなったのだ。面白くないに決まっている。
きり丸が頬を膨らませて見せると、少し遠めから、きゃあという甲高い少女の声が聞こえた。いかにも楽しそうな笑い声だ。それを聞いた雨彦の眉か僅かに顰められたのを見て、きり丸の溜飲が少しだけ下がった。
「はぁ、良かったです、先輩もアレに迷惑してるみたいで」
「俺はいい。建前だけでもあいつらに苦言を呈してやれるからな。お前たちはそうも行かないだろ」
「ほんとですよ。実際、先輩方にはどうしようもないんでしょ?あの人の"呼び出し"」
「らしいな」
声の主である少女は、雨彦が忍務で学園を出ている間に、敷地内に突然現れた。
自身の名前は覚えていないだか知らないだかで一向に名乗らず、身分を天女だと言い、どういう訳か学園長の許可をもぎ取って学園に居座っている。
それだけなら客人が一人増えただけでよかったのだが、問題は新たに発生した。
何故か、上級生だけが彼女の元に集められるのだ。本人達にはその気が無いのに、呼び寄せられるように天女の元に通ってしまう。原因不明、天女がどうしてそんな事を実現可能なのかも不明。妖術か何かかと囁かれているが、実際のところはやはり不明。
これによって、学園の機能が単純に不全に陥っていた。上級生の手が不足する事態が頻繁に起きているのだから、当然である。
そこに帰ってきたのが、雨彦だ。
「何で、雨彦先輩だけ呼び出しが効かないんすかね」
きり丸は雨彦を見上げる。
五年生と六年生が軒並み被害に遭っている現象に、雨彦だけは対象になっていないようなのだ。
雨彦が最近、学園内の散策に徹しているのはそれが理由だ。自分には全く影響の無い現象に、他の上級生は全員巻き込まれている。対象になっていないだけなのか、対象になった上で効いていないのか。自分で出来る限りの調査に当たっていた。
進捗は芳しくないらしく、雨彦はきり丸の問いに首を捻って見せた。とにかく、呼び出しはされない。それだけ分かっている。
「嫌われてるんじゃないか」
「先輩、随分な言いようでしたからね」
「知らない顔だったんだ。誰だと聞くのが筋だろ」
「もうそれ、最高」
雨彦が学園に帰ってきたとき、天女に発した言葉だ。
普段なら客人に対して不躾な態度をとることは無いはずだが、そのときは予定より長引いた忍務で疲弊が重なり、適切な振る舞いが出来なくなっていた。雨彦はとにかく休みたかったのである。
雨彦が同級生である六年の面々や、同じ生物委員会の後輩である竹谷に目をかけているのは学園内ではよく知られていることだ。
久方ぶりに学園に帰ったにもかかわらず、親しい人達とろくに時間も作れないとなれば、雨彦の天女に対する気持ちも察するにあまりあるというものだ。
「殺気立ってた筈なんだがな。機嫌を損ねるだけで済んだ辺り、天女様は随分と図太いらしい」
「そんなに気が抜けた人が、なんでこんな事できちゃうんすか?」
「さあな……ただ、面白くないのは俺も同じだ。どうにかするさ」
雨彦は廊下から地面にひらりと降り立つ。やはり音はしなかった。
「どっか行かれるんですか?」
「うん……お前の予定を埋め合わせ出来たらと思ったんだが、どうだ?」
「えっ、」
「バイト。察するに、一人じゃ難しい仕事なんだろ」
雨彦がきり丸を振り返る。
時刻はまだ放課後に入って間もない。今からいそげば、本来の予定に充分に間に合うだろう。
きり丸は勢いをつけて地面に着地した。
「やったぁ、お願いしますっ!」
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放課後の学園の敷地内は、日毎に大きく色を変える。今日は委員会活動も無く、各々自由に過ごせる日だった。
鍛錬や勉学に勤しむ者、敷地外に用事を済ませに出る者、長屋に帰ってだらりと過ごす者、様々に存在してそれなりに活気のある時間帯のはずだが、ここ暫くは閑散としている。
きり丸は、反故になってしまった予定の分あり余った時間を潰す良い方法が思いつかずに、長屋の廊下に座って脚をぶらつかせていた。
「摂津」
「えっ? ああ、狗山先輩」
音も無く歩み寄ってきたのは、六年ろ組、生物委員会委員長の狗山雨彦だった。
高い背丈に鋭い眼差しが人を寄せ付けない印象を与えるが、接してみれば愛想良く振る舞うのが苦手なだけで穏やかな人物であることがすぐ分かる。要は、良き先輩だ。
何週間もかかる忍務から戻ってきたばかりの雨彦は、ここ数日、時間があればずっと学園内を散策している。
「一人か。珍しいな」
「そうなんすよ。本当だったら中在家先輩たちにバイト手伝ってもらう予定だったんですけど」
「……なるほど」
きり丸の言葉を聞いて、雨彦は顎に手を当てて視線を巡らせた。
反故になってしまった予定とは、先輩らの協力を得てのアルバイトのことだった。彼らとのバイトは何も初めての事ではない。きり丸だって、彼らが自分より忙しいことなんて重々承知の上だったから、丁寧に予定を擦り合わせて取り付けた約束だった。
それが、無くなったのだ。面白くないに決まっている。
きり丸が頬を膨らませて見せると、少し遠めから、きゃあという甲高い少女の声が聞こえた。いかにも楽しそうな笑い声だ。それを聞いた雨彦の眉か僅かに顰められたのを見て、きり丸の溜飲が少しだけ下がった。
「はぁ、良かったです、先輩もアレに迷惑してるみたいで」
「俺はいい。建前だけでもあいつらに苦言を呈してやれるからな。お前たちはそうも行かないだろ」
「ほんとですよ。実際、先輩方にはどうしようもないんでしょ?あの人の"呼び出し"」
「らしいな」
声の主である少女は、雨彦が忍務で学園を出ている間に、敷地内に突然現れた。
自身の名前は覚えていないだか知らないだかで一向に名乗らず、身分を天女だと言い、どういう訳か学園長の許可をもぎ取って学園に居座っている。
それだけなら客人が一人増えただけでよかったのだが、問題は新たに発生した。
何故か、上級生だけが彼女の元に集められるのだ。本人達にはその気が無いのに、呼び寄せられるように天女の元に通ってしまう。原因不明、天女がどうしてそんな事を実現可能なのかも不明。妖術か何かかと囁かれているが、実際のところはやはり不明。
これによって、学園の機能が単純に不全に陥っていた。上級生の手が不足する事態が頻繁に起きているのだから、当然である。
そこに帰ってきたのが、雨彦だ。
「何で、雨彦先輩だけ呼び出しが効かないんすかね」
きり丸は雨彦を見上げる。
五年生と六年生が軒並み被害に遭っている現象に、雨彦だけは対象になっていないようなのだ。
雨彦が最近、学園内の散策に徹しているのはそれが理由だ。自分には全く影響の無い現象に、他の上級生は全員巻き込まれている。対象になっていないだけなのか、対象になった上で効いていないのか。自分で出来る限りの調査に当たっていた。
進捗は芳しくないらしく、雨彦はきり丸の問いに首を捻って見せた。とにかく、呼び出しはされない。それだけ分かっている。
「嫌われてるんじゃないか」
「先輩、随分な言いようでしたからね」
「知らない顔だったんだ。誰だと聞くのが筋だろ」
「もうそれ、最高」
雨彦が学園に帰ってきたとき、天女に発した言葉だ。
普段なら客人に対して不躾な態度をとることは無いはずだが、そのときは予定より長引いた忍務で疲弊が重なり、適切な振る舞いが出来なくなっていた。雨彦はとにかく休みたかったのである。
雨彦が同級生である六年の面々や、同じ生物委員会の後輩である竹谷に目をかけているのは学園内ではよく知られていることだ。
久方ぶりに学園に帰ったにもかかわらず、親しい人達とろくに時間も作れないとなれば、雨彦の天女に対する気持ちも察するにあまりあるというものだ。
「殺気立ってた筈なんだがな。機嫌を損ねるだけで済んだ辺り、天女様は随分と図太いらしい」
「そんなに気が抜けた人が、なんでこんな事できちゃうんすか?」
「さあな……ただ、面白くないのは俺も同じだ。どうにかするさ」
雨彦は廊下から地面にひらりと降り立つ。やはり音はしなかった。
「どっか行かれるんですか?」
「うん……お前の予定を埋め合わせ出来たらと思ったんだが、どうだ?」
「えっ、」
「バイト。察するに、一人じゃ難しい仕事なんだろ」
雨彦がきり丸を振り返る。
時刻はまだ放課後に入って間もない。今からいそげば、本来の予定に充分に間に合うだろう。
きり丸は勢いをつけて地面に着地した。
「やったぁ、お願いしますっ!」
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