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マブ達との邂逅



「タケミっち大丈夫か!?」

「俺は平気。でもデュースが……」

「大丈夫だ、これくらい何ともないさ。それよりコイツら何者だ?」

「この前俺たちが所属している東京卍會と抗争した所の奴だよ。どうせ俺たちに負けたからって腹いせに来たって所だろ」

「なるほどカチコミか。こっちも手ェ出されてんだ。やり合うなら俺も混ざるがいいよな?」

「それは別に構わねぇけど……喧嘩出来んのか?見た感じ喧嘩に縁がなさそうだけど」

「俺から吹っ掛けることは減ったが売られた喧嘩は買うのが礼儀ってもんだから多少はな」

「いや全然多少じゃないじゃん」

「エース???」

「あ~やだやだ暴力はんたーい。そういうのはお前だけで充分っしょ。ってことでタケミチはオレと一緒に観戦決めこもうぜ」


そう言って 武道を連れていこうとしたその後ろに人影が近づく。
先の抗争で負けたチームの末路は実は解散だった。しかし元々抗争をしたチームが出来上がった経緯は元を辿れば【東京卍會に憧れて】といったものだったことを知った武道はチームを解散するのではなく、東京卍會の傘下として置きチームそのものは残しておくことをマイキーに提案した。
初期のメンバーであるチームの幹部たちは憧れを捨てきれず傘下に下ることを良しとした。しかし、後から加入したメンバーには憧れ以上に東京卍會というチームを叩きのめし、自分たちのチームをさらに大きくすることに躍起になっていた。その為、チームを大きくするのでも解散するのでもなく"傘下に下る"という形になったことが敗者を憐れんだとでも思ったのか彼らの憎むべき対象は参加に下ることを良しとした自分たちの総長でも、チームを任した東京卍會の総長であるマイキーでもなく花垣武道という男になってしまったのだ。


「くたばれ花垣武道ィ!」

「!タケミっち!」


武道に金属バットが襲いかかる。けれど、近くにいた男がそれを良しとする筈も無かった。


「おい」


エースが金属バットを掴み受け止める。それまでヘラヘラと笑っている様子が殆どだったからこそ千冬たちも金属バットを振り上げた男も簡単にバットを受け止められたことに驚いてしまう。
何より、表情が全て抜け落ちてしまったかのように無表情になっているエースが今まで見てきた男とは別の男の様に見えてしまっていた。


「なにしてんの?」

「は……」

「タケミチに何しようとしてんのって聞いてんだけど」


受け止めたバットをおもいきり地面に叩きつける。武器を地面に打ち捨てられてしまったことよりも、とんでもないものに手を出してしまったのではないかという考えが頭を埋めつくして硬直する。


「お前がなんだとかそんなのはどうだっていいんだけどさ。ただ、ちょーっとムカついたからやり返したっていいよな?」

無表情のままこてん、と首を傾げる。もう、この場はエースの独壇場ステージに成り果てていた。


「今から俺が何したって"正当防衛"って奴だし♡」


そう言うとエースは懐からトランプを取りだした。
たった1枚の"ハートのA"。けれど、エースが手を少し振ると次には"スペードの2"。そして"クローバーの3"に"ダイヤの4"とカードが増えていく。
突然の出来事に対峙した男は動揺してしまう。喧嘩の場にトランプを出されることなど初めてだったし、何よりこれから何をされるのか全く予想がつかなかった。男が硬直してもなお、トランプは増え続ける。まるでどんどんエースの味方が増えていっているように感じられた。
そしてエースの手元に"ハートQ"が現れた瞬間。カード達が宙を舞う。思わず視線が釘付けになった男の元へ宙を舞ったカード達が襲い掛かる。
今日は特に風もなく、過ごしやすい一日だと思っていた筈なのにエースから男にかけて突然風が吹き抜けた。一斉に男に襲いかかったカード達は目隠しの役割をしたり、身体を掠めたトランプは紙で出来ているのではないのかと思わせるほど鋭利で男が身につけている服を少しだけ切りつける。
千冬、八戒そして喧嘩を仕掛けていた他の男達もその異常な事態を目にして思わず呆けてしまう。沢山のカード達がまるでトランプ兵の様に襲い掛かる様は異様で不思議で何故だか魅せられてしまうのだ。


「なん……ッ!なんだよ、なんなんだよこれェ!!!」


エースは完全に混乱に陥った男に嘲笑うかのように宣った。


「あれあれ?もしかして知らねーの?”魔法”ってあるんだぜ?」


驚きに見開かれる男の目に最後に映ったのはたった1枚のトランプ。風に乗って運ばれたトランプは男の頬を掠め、男の支えとなっていたコンクリートの壁に突き刺さった。


「勝負の切り札はハートのエースってね」


ニヤリと笑う顔を見る間もなく異常な事態を見せつけられた男の脳はショートしてしまったらしく意識を飛ばす。


「言い訳はナシね。俺の勝ち」


男の身体を纏っていたトランプ達はいつの間にか姿を消し、壁に突き刺さった"ハートのA"だけが残されていた。
自分達の仲間である男の1人が得体の知れない攻撃を受けて気絶した事に他の者達は激しく動揺した。背中を向けているエースにバレないように1歩、また1歩と後ずさる男達に振り向くと一見毒気の無い顔でニコッと笑う。


「さーて、次は何をしてやろうかな」


次の瞬間にはまるで獲物を嬲るような表情でポツリと言葉を零したエースからどれだけ無様だと嗤われようともただ逃げ切りたくて、男達は一目散に駆け出していた。


「え……え……???なん……え???」

「おい、エース!何『そういうのはお前だけで充分〜』とか言っておきながら手ぇ出してんだ」

「いや、しょうがなくね?それに、"まだ"とか言ってたデュースも悪くない?」

「まだ1発しか貰ってなかったんだぞ。やるなら徹底的にやりたかったんだ!」

「それ絶対"殺りたかった"って意味こもってるっしょ」

「エース!怪我ない?」

「ぜーんぜん!でも、頑張ったエース君を褒めてくれてもいいぜ?」

「ハイハイ、偉い偉い」

「うわっ適当にも程があるじゃん」


先程までの無表情が嘘のようにケラケラと笑うエースに千冬は何処かホッとしてしまう。先程までのことが全て夢だったのではないかとも思ったが、壁に突き刺さったトランプが夢ではないのだと思い知らせてくる。それでも気持ちは追いつかなくて思わずエースを訝しげな目で見てしまうのは許して欲しかった。


「えっえっ、すげぇ!!魔法使い!!?ホントにいるんだ!!」

「ははっ」


千冬とは対照的にキラキラとした視線を向ける八戒を見てエースはキョトンとした顔をしていて武道は思わず小さく笑い声が漏れてしまった。さっきまではギスギスしていたのに何だか仲良くなれそうだとも思った。
そんな武道をジトっとした目で見たエースは少し気恥ずかしくなってしまった様子でぷいっと顔を逸らしてしまう。そんな様子が幼く見えて益々笑いが止まらなかった。


「なに〜?もしかして、ガチで信じちゃった??けど残念!普通に手品だよてーじーな!魔法なんてある訳ないっしょ?」

「……手品なら何かしらの仕掛けがあるだろ?一体どんな……」

「種も仕掛けも隠れてるから面白いんじゃん?だから内緒♡」


まだ訝しげな目で見る千冬に対して口元に人差し指を立ててウインクを決めるその姿がまた様になっていて何だか毒気が抜かれてしまった。この前のフロイドといいタケミっちの交友関係広すぎだろ、なんてため息をついた。
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