マブ達との邂逅
花垣武道の"相棒"こと松野千冬は怒っていた。それはもうここ最近では特に激しい怒りを抱いていた。
「なぁ、相棒!今度の休みに遊び行こーぜ!」
「ごめん!予定があって…」
「んじゃ、その次の日は?」
「その日も…」
どの日も予定があり断られる。それならばどの日なら空いているのか問おうとした千冬と武道の間に末っ子属性をふんだんにアピールして八戒が飛び込んできた。
「なぁなぁタケミっち〜!日曜日家に遊びおいでよ!柚葉も久しぶりに会いたがってるしさ!」
「おい、八戒!今は俺がタケミっちと話してんだろーが!」
「だって俺だってタケミっちと遊びてぇんだもん。千冬ばっかりずりぃよ」
いかにも拗ねてますといった表情で武道の肩に腕を絡める。自他共に認めている"相棒"である千冬は武道ともよく一緒にいることが多い。だが、しっかりと関わりを持ち始めたのは聖夜決戦以降である八戒は、誰からも人気で色んなところから声をかけられる武道と一緒にいたくても中々捕まらないし捕まったとしても誰かしらに邪魔をされることが度々あった。
加えて、自身だけではなく姉の柚葉の名前を出すことで普段は"誘われたら断れない"という武道の性質を利用し、遊ぶ算段をつけようとした。
「あ〜…八戒ごめんその日用事があるんだ」
「じゃあじゃあ、何なら今日の集会が終わった後の夜でもいいよ!いつでも大歓迎だし!」
「今日の夜も人と会う予定があるんだ!ごめんな!」
最もその計画はすぐさま破談したのだけれど。
☆
本日は快晴。しかし、千冬と八戒の周辺はどんよりとした空気が漂い心做しか近づくだけで身体すらも重く感じるような気がする。
集会後、武道は千冬や八戒だけでなくマイキーも引き留めようとするが「すみません!ちょっと用事があって!」と早々に集会場所から帰ってしまった。
千冬や八戒だけでなくあのマイキーですら置いてかれた!?と騒然となった者たちの中には、明らかに普段と様子の違う二人やまさか早々に帰られるとは思わず、茫然自失となったマイキーに話しかけに行くなどという猛者などいる由もない。
「どうしたァ?すっげぇ顔してんぞ」
「八戒もそんなしょげてどうしたんだよ」
誰しもが話しかけるのを躊躇っていたが、良い意味で空気を読まない男である場地圭介、面倒みの良い兄貴分である三ツ谷隆があまりの空気の重さに声をかける。
「場地さん…相棒が…相棒が…」
「タカちゃん〜!!!だってタケミっちが〜!!!!!」
「「???」」
☆
「なるほど?つまりタケミっちに振られてそんなふうになってるんだな」
「トドメ刺さないでよタカちゃん!!!」
「んだよ、たまたまタケミチにも用事があったんだろ?そんくれぇでウダウダ言うんじゃねぇよ千冬ゥ」
「たまたまじゃないんすよ!!ここ最近いつもこうなんス!!休みはほとんど誰かと一緒にいるらしくて全然捕まらないんです!」
「やだ〜…俺もタケミっちと遊びてぇよォ…」
基本的に誘いを断らないがこれまでもどうしても外せない用事がある際は本当に申し訳なさそうな顔をしながら断り、別の候補日を自ら提示してくるのに最近は既に用事が入っており別の日程も誘うことが出来ない。
一度あまりに捕まらない武道に一体なんの用事が入っているのか、誰との用事なのか聞いてみたことがある。自分たちだって武道と遊びたいし一緒に過ごしたいと言うのに、一体誰が武道を独占しているのか気になっていた事もある。
けれど、聞いてしまったことをすぐさま後悔した。
『俺のマブ、かな』
あんな、どこか大人びた表情で柔らかく笑う武道など知らない。千冬だって武道の友達で"相棒"だって思っているし、きっと武道だってそう思ってくれている。
その事に疑いの気持ちなど抱きもしない。けれど、自身も知らなかった武道のあんな表情を見ては誰かに武道を盗られてしまうのではないかという一抹の不安を胸に抱いた。
自分だけの武道では無い、そんなことは嫌という程分かっている。武道が誰と一緒にいようが口を出せることではない。それでも何だか武道がどこか遠くへ、それもどんなに足掻いても手が届かない場所に行ってしまうんじゃないかなんて予感が頭を過ぎる。
もやもやとした感情の行き場に頭を悩ませる。けれど、悩むだけでは終わらないのが松野千冬という男だった。
「俺を放って他の男と遊ぶなんて許せねぇからちょっと後つけてきます!」
「待て待て待て早まるな」
「止めないで下さい三ツ谷君!男にはやらなきゃいけないこともあるんです!」
「何も今、男をみせなくてもいいだろ!他にとっとk「やったれ千冬ゥ!!」焚き付けんじゃねぇよ場地!! 」
「千冬が行くなら俺も行く!!いってきますたかちゃん!!」
「はっ!?おいコラ待て八戒!」
律儀に挨拶を残して千冬の後を追いかけていった八戒を見てもう止めることなど出来ないと悟った三ツ谷はとりあえず
「!??ッ痛てぇ!!何しやがる!!」
近くにいた場地を殴ることにした。
☆
本当だったら武道と遊んでいるはずだった次の休日、千冬そして八戒はお目当ての人物を見つけることに成功していた。
武道の傍には陽の光に当たると少しだけキラキラと光る様子が染めたのではなく、きっと生まれつきその髪色なのではないかと感じさせる赤髪の男、赤髪の男とは対照的に青みがかった黒髪はサラサラとしていて丸みを帯びた後頭部が自分たち以外からは愛着を湧かせるのだろうと思わせる男の二人が居る。
3人が歩いている後ろをバレないようにつけているため会話は聞こえないが、雰囲気だけでも充分楽しそうな様子が伺える。
「うー……何話してるのか聞こえない……」
「ッおい、押すなって!これ以上近づいたら流石にバレちまう……!」
「だって聞こえないし……ってうわぁ!?」
「うわっ!?」
八戒が押したことにより千冬の身体が前に押し出される。二人で隠れていた電柱を追い越し思い切り姿を晒してしまう。
姿を晒してしまっただけなら前を歩いていた武道たちは気づかなかったかもしれないが、押された瞬間にいくら周囲に人がいようとも聞こえてしまっただろうと考えつくにはそれなりに大きい声を出してしまった。それに、千冬の"相棒"である武道が気が付かない訳が無い。
「あれ?千冬?それに八戒までどうしたんだ?」
「「タケミっち……!」」
"タケミっちにバレないように後をつけようの会"(千冬命名)はすぐに当事者にバレるという形で解散になった。